156:夢は夢だ
モニターに映るのは、私の頭では数えられないくらいたくさんの敵。数字でいうとよくわかんないけど、とにかくいっぱい。
「リディアさん……これは……」
「あれはクローンだな、見てみろ同じ顔が多い」
私達の進もうとしていた方角からあった「敵が多すぎる助けてくれ」という連絡。
「引くぞナターシャ。全車方向転換させろ」
「はい、リディアさん」
これは割り切り、仕方ないんだ。私達だって死ぬわけにはいかない。
「蟻みたい」
私は思わず、そう口走る。蟻なんて真剣に気にしたこともないし、ちゃんと観察したこともないくせに。
「あの数、異常ですね」
「ああ。それにクローンが揃いすぎている」
「誰かが素体を提供しているということですか?」
「そうだろうな。貴様は一度ドクターに連絡を取り情報を探らせろ。ああ、あと兵器をさっさとよこせと催促しておけ」
ドクターは私達の新しい武器を受け取るために、別行動をしている。難しい手続きがあるみたいで……。はぁ、武器なんて使わないと意味ないものなのに、手続きなんかを待たないといけないなんておかしくない? リディアさんの言う通り、さっさと渡してくれればいいのにね。そういえば、ドクターがあちこち行っちゃって、あのソドムは大丈夫かな……寂しがってないのかな。
「あれ?」
「どうしたソドム」
「ううん、なんでもない」
そっか……私あの子のこと思い出しても苦しくならなくなったんだ。
「さて、私達は次の行動を考えよう。金をもらっているからな、ディスクリミネータから逃げるだけではダメだ」
その晩私は夢を見た。とても苦しい夢を。身体が成長して、でも、金属の腕と足はそのままだからちゃんと歩けない。右足が左足より短いままだから歩けない。歩きたいのに歩けない。そんな夢。
「夢は夢だ」
悪夢を見た時は、起きた時になんでもいいから声を出す。(言い聞かせる。)そうやって私は、少しづつ自分が強くなるためのルールを増やしてきた。(このルールあんまり守れてないけど。)
「…………」
あのゴモラ645の戦いで生き残った人は、意外と多かった。ただそれは意外と多かったというだけで、全員じゃない。そこに新しい仲間を加えて、今の部隊ができた。そして、私もその一員にしてもらって……一年と少し経った。(その間に死んでしまった人が何人かいる。そうだ、私達はそうやって増えながら減りながら進んでいくんだ。)
「私は……戦うって決めたんだ」
戦う理由はまだ貰い物。でも、リディアさん達との戦いは苦しいけど嫌じゃない。立派な軍人になる。立派な軍人になるんだ! 戦い方も、割り切り方も、覚悟の決め方もちゃんと覚えて。私はここで、みんなと一緒に生きていくんだ。




