146:腐敗
弾はあたらない。ナターシャさんの指の動きが遅かったから、私は――――。
「痛いですよソドムさん。首が折れちゃったじゃないですか」
「わ、私軽く押しただけだし……」
本当に軽く押しただけ……首が折れるなんて……。
「ああ、私腐ってきてるんです。ゾンビ化しちゃって」
「え、そんな……大丈……夫?」
ナターシャさんの顔が……腐って……。
「大丈夫なわけないですよ。あなたのせいでこうなったのに」
「え……」
私のせい――――。
「あぐっ!」
「ああ、良かった! 今度はちゃんと当たりましたね! 本当に良かったです! 私、体が腐ってから撃つの下手になっちゃって」
「傷……が」
「治りませんよ? これ腐敗弾ですから。悪い子はゾンビになっちゃいましょうね」
撃たれたところが溶けっ……。
「あ……やだ……腐りたくない……」
「そんなこと言われても困りますよ。あーあ、臭いですねぇ。ソドムさん、いくらなんでも臭すぎですよ? 本当に臭い。臭い臭い臭い。臭いです。臭い臭い臭い臭い臭い臭い」
「え、あ、あ臭い……臭い……う、ああ臭くなんて……」
なにこれ、すごく臭い。汚い……私が汚くて臭いっ……。
「臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い――――」
「ああ……あああ、嫌だ、嫌だよぉ!」
「大丈夫か! ソドム、大丈夫か!」
「え、あ? え? は……博士?」
あれ、ここ、どこ?
「ソドムさんっ、大丈夫ですか?」
「ナターシャさん? え……な、なんで……なんで私を撃ったの!」
「あっ!」
今度突き飛ばしたナターシャさんは、腐ってもなかったし、銃も持っていなかった。
「あいたたた、ソドムさんそれ夢ですよ。怖かったですね、もう大丈夫ですから」
「え……あ……」
「無意識に加減したか。ソドム、おまえは本当に優しい子だな」
博士じゃない……ドクター……だ。
「わ、私コヨーテを……」
「大丈夫です、それも夢ですよ。夢ですから」
「本当?」
わかんない。私、今本当に起きてるのかな?
「本当です」
「信じれない」
「それも仕方ありません。でも安心してください。本当にただの夢ですから」
「え、嫌だ」
じゅわじゅわずるずる。嫌な汗が粒になって身体から出る。
「だって……ドクターがいるってことはあのソドムがいるんでしょ!」
「あのソドム……ですか?」
「あのソドムがいたら私はどうせひとりぼっちになるじゃん!」
違う。あのソドムはここにはいない。ようやく私は思い出した。なんで今私が、コヨーテと一緒にいなくて、ナターシャさんと一緒にいるのか。




