143:その一年間で私は変われたのでしょうか?
砂漠狼の牙。コヨーテがくれた首かざり。私の目に刺さったことのある、ネックレス。これをまだぶら下げていることをコヨーテは何度も何度も喜んでくれて――――。
「おい! 待てよソドム!」
村に一つしかないラジオ。そこから聞こえたのは、メメメスのあの歌。
「ついてこないで!」
コヨーテの村に来て、もう一年以上。私はとても幸せで、ゆっくり生きていた。あんまり味の種類のない料理、寝心地の良くない手作りのベッド、そしてコヨーテと遊んだり、大人のやることを手伝ったりする毎日。本当に毎日、毎日、毎日毎日毎日幸せみたいな日々を過ごしていた。そう、幸せ、みたいな。(泉はとても綺麗だった。)
「だめだ! おまえもう戦わないって言っただろう!」
この村に来て一週間目の夜。確かに私はそう思った。子どもを子ども扱いする大人たち。そこに混ざって生きる私達子ども。それは本当に過ごしやすくて、安心で、疲れなくて。でも、メメメスのあの歌を聞いてから私の中で――――そのすばらしい日々が思い出になり、灰色になった。
「無理だよコヨーテ。私はコヨーテとは違うもん」
メメメスの歌を聞いたのは三日前。それから三日連続、私はおねしょ再発。それで三回目に気持ちがブワーってなっちゃって、びしゃびしゃのまま夜の砂漠にかけだした。そしてそれをコヨーテに見つかっちゃったってわけ。ああ、そっか。私コヨーテに追いつかれちゃうような速度で走ってたのか。(それはきっと、わざとだね。)
「俺が変えるよ! ソドムのそういうとこ!」
「無理だよ!」
「なんだよ! 俺たち友達だろ!」
「と……」
ああ、泣いてるんだ私。はぁ、これ村に戻る流れなんだね。確かに行くあてなんてないしさ、ここにいたほうがいいって私の心もわかってる。
「でも無理」
これは駄々をこねただけ。ありがとうコヨーテ、走りにくそうなその義足で本気で走ってきてくれて。この一年で背が高くなっちゃったから、仕方なくとりかえた前よりも走りにくい義足で。うん、帰り道はゆっくり歩いていこう。足をつけている場所が痛むでしょ?
「無理とか言うなよ! くそっ、もうナターシャさんに通信で言うからな!」
「は?」
コヨーテが取り出した通信機を私は――――手に持っていた。
「なにするんだよ……」
「え、私が今これとったの?」
「そうだよ! おまえがとったんだよ!」
え……あれ? そっか。私が……。
「返せよ!」
「いいよ」
鈍い音がした。私の足元から。
「うあ……あ……」
砂に染み込んでいくコヨーテのおしっこ。え? なんで漏らしてるの? なんでそんな怖がった顔をしているの? ねぇ、なにか怖いものが近くにいるの? 後ろにも、あれ? 横にも、あれ? 上にも、下にも……なにもいないよ?
「足……俺の」
「痛くないでしょ、義足なんだから」
ああ、ああ、ああ! 私今、コヨーテの義足を踏んで折ったんだ! え、なんで?




