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ソドム・パラノイア  作者: Y
Crow Fly Free
156/301

143:その一年間で私は変われたのでしょうか?

 砂漠狼の牙。コヨーテがくれた首かざり。私の目に刺さったことのある、ネックレス。これをまだぶら下げていることをコヨーテは何度も何度も喜んでくれて――――。


「おい! 待てよソドム!」


 村に一つしかないラジオ。そこから聞こえたのは、メメメスのあの歌。


「ついてこないで!」


 コヨーテの村に来て、もう一年以上。私はとても幸せで、ゆっくり生きていた。あんまり味の種類のない料理、寝心地の良くない手作りのベッド、そしてコヨーテと遊んだり、大人のやることを手伝ったりする毎日。本当に毎日、毎日、毎日毎日毎日幸せみたいな日々を過ごしていた。そう、幸せ、みたいな。(泉はとても綺麗だった。)


「だめだ! おまえもう戦わないって言っただろう!」


 この村に来て一週間目の夜。確かに私はそう思った。子どもを子ども扱いする大人たち。そこに混ざって生きる私達子ども。それは本当に過ごしやすくて、安心で、疲れなくて。でも、メメメスのあの歌を聞いてから私の中で――――そのすばらしい日々が思い出になり、灰色になった。


「無理だよコヨーテ。私はコヨーテとは違うもん」


 メメメスの歌を聞いたのは三日前。それから三日連続、私はおねしょ再発。それで三回目に気持ちがブワーってなっちゃって、びしゃびしゃのまま夜の砂漠にかけだした。そしてそれをコヨーテに見つかっちゃったってわけ。ああ、そっか。私コヨーテに追いつかれちゃうような速度で走ってたのか。(それはきっと、わざとだね。)


「俺が変えるよ! ソドムのそういうとこ!」

「無理だよ!」

「なんだよ! 俺たち友達だろ!」

「と……」


 ああ、泣いてるんだ私。はぁ、これ村に戻る流れなんだね。確かに行くあてなんてないしさ、ここにいたほうがいいって私の心もわかってる。


「でも無理」


 これは駄々をこねただけ。ありがとうコヨーテ、走りにくそうなその義足(あし)で本気で走ってきてくれて。この一年で背が高くなっちゃったから、仕方なくとりかえた前よりも走りにくい義足で。うん、帰り道はゆっくり歩いていこう。足をつけている場所が痛むでしょ?


「無理とか言うなよ! くそっ、もうナターシャさんに通信で言うからな!」

「は?」


 コヨーテが取り出した通信機を私は――――手に持っていた。


「なにするんだよ……」

「え、私が今これとったの?」

「そうだよ! おまえがとったんだよ!」


 え……あれ? そっか。私が……。


「返せよ!」

「いいよ」


 鈍い音がした。私の足元から。


「うあ……あ……」


 砂に染み込んでいくコヨーテのおしっこ。え? なんで漏らしてるの? なんでそんな怖がった顔をしているの? ねぇ、なにか怖いものが近くにいるの? 後ろにも、あれ? 横にも、あれ? 上にも、下にも……なにもいないよ?


「足……俺の」

「痛くないでしょ、義足なんだから」


 ああ、ああ、ああ! 私今、コヨーテの義足を踏んで折ったんだ! え、なんで?

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