142:原因
私は薬を使う必要はない。ナターシャさんはそう言った。
「姉が薬を使っていたのは、暴力的地下遊戯選手として活躍し続けるためでした。そして姉はあの街のトップに上り、Sリーグ選手に殺されました」
「…………」
「ドクター曰く、薬の使いすぎが原因でいろいろと――――。まぁ姉は他にもいろいろと強くなるための薬なども服用していましたので」
私が戦ってきた人の中にも、そんな人がいたのだろうか。
「今の世界にはいろいろな強さがあります。私もリディアさんと一緒に戦うために、新たにいくつか改造をしました。でもソドムさん、そんな私と比べてもあなたの体は驚くほど特殊で――」
「話して。気を使わなくていいから」
「はい。あなたは成長を食われています。体内のナノマシンに。だからきっと、あなたは――――成長しません」
さっき感じたチッという感触は、体内のナノマシンが減ったせいで食事を大きな動作で行わなければならなくなったからだって、ナターシャさんはとても暗い顔で説明してくれる。
「なんだ、そんなことかぁ」
でも私はそれを、大したことだとは思えなかった。
「え」
「ずっと小さくても困らないよ私。それにさっきの話だと、そんな話世界にありふれてるんでしょ?」
この世界には私みたいな子は何人もいるはず。今までを振り返れば、そう考えるほうが自然だ。
「そうですが……」
「私よりつらい人だっているでしょ?」
「ソドムさん、仮にそうだとしてもあなたがつらくないということにはならないんですよ!」
ちょっとだけ大きい声。ナターシャさん……怒ってるのかな。
「えっと、ほら、なんていうかさ……私が今成長しないってことは、私が成長するかもしれない日も来るってことでしょ? 生きてれば」
「はい」
ああ、泣いちゃったよ……。(私もつられて泣いた。)
「私生きるよ。絶対」
「はい」
「心が大人になれたらさ、ナターシャさんとリディアさんのところ行っていいかな」
「それは大人になってから考えましょう。あなたの未来は、きっとたくさんの可能性がありますから」
涙を拭って、ナターシャさんはまた車を走らせた。私の未来――――まだなにも見えないけど、つらいことがたくさんあっても、辛くないこともあるって私は知ってるから、ちょっとはいい未来を探せるのかもしれないなって……思った。




