14:あいかわらずのマイクパフォーマンス
『この世界に突っ込んでいけない問題などありませんわ。突っ込んでよいのは、突っ込まれる覚悟を持っているものだけですの!』
黒き狂気兇器強姫さんの言葉に、観客達が立ち上がる。みんな奇声をあげて大喜びだ。
『――なんて誰も実現できないような理屈はここにはありませんことよ? あるのは突っ込む側と突っ込まれる側! 強いほうが勝つ、それだけですわ!』
私の試合とは全然雰囲気が違う。というか、盛り上げ上手だなぁ……さすがトッププレイヤー。
「あいかわらずマイクパフォーマンスがうまいな。自分のキャラを良くわかっている」
「あれ、キャラ作ってるの?」
「当然だ、あいつはあんなこと微塵も思ってもいないと思うぞ」
博士は珈琲を飲みながら、モニター越しに黒き狂気兇器強姫さんを見る。落ち着いた表情は、画面の向こうの観客達とは対象的だ。そして――――ふと思う。どうして人は、全く無関係の他人の姿なんかに一喜一憂するのでしょうか? 黒き狂気兇器強姫さんが勝とうが負けようが、見ている人たちの生活はなにも変わらないはずなのに。
そんなどうでもいいことを考えているうちにはじまった、愛を込めて金を放り投げる一分間。会場に設置された超巨大モニターには、信じられない金額が次々に表示された。
『ある街に、愛した女を抱いたら不治の病を感染された男がいる。そして、何人もに抱かれ麻薬の針を使いまわしながらも健康体の女がいる。みなさんはどちらが幸せだと思いまして?』
こんなに大人数に問いかけても個別の答えなんて聞き分けれないよね……でもあえてそこに呼びかける。うん、なんかすごいプロって感じする。
『わたくしにはこの問の解答はわかりませんわ。でも一つだけ言えることがありますの、あなた達人間は生きるための本能が壊れている。本能などとっくに失くしている。でも思い出させてあげますわ! わたくしが! 今日ここで!』
歓声が更に大きくなった時、博士がクスリと笑った。
「まったく、一度盛り上げた観客相手だとあいつは本当に適当なことしか言わないな。まぁそういうところが重々しくなくて評価されているのだろうが」
博士はきっと、黒き狂気兇器強姫さんをプレイヤーとして認めている。私はちょっとだけそれが悔しかった。




