140:痛みより
助けて、許して、ごめんなさい。なんて言ったらいいんだろう。なんて言ったら許してもらえるの? 見えない、見えないのにたくさん殴られる。殴られるの――怖い。
「ナターシャさん! 助けてっ!」
「さっき隠れてと言ってたくせに呼ぶんですの? でも残念、不意打ち以外ではわたくしに当てれないと悟って逃げたようですわ」
「っあ! ひっ! ごめ……」
「なにかしら?」
あれ、攻撃が止まった……どっち? どっち?
「なにかしら、って聞いてるんですわよ? わたくしが、あなたに」
「ひぃあっ! ごめんなさいっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさ――ああっ!」
「だからなにがごめんなさいなのかしら?」
「うあっ! あひっ! 狂姫さんにっ……攻撃してっ、戦おうとしてごめんなさい! ひっっ」
怖い怖い怖い怖い怖い、怖い。痛くないの、痛くないのに音が大きいの!
「全く、サードステージが高レベルで出ているせいでどうにもならないですわね。ソドム、今のあなた、肌にまで黒い模様が出ていますわよ? まさに黒死病ってかんじですわね」
「見えないの……お願い、お願いします……見えないんです……」
「ほら、わたくしを捕まえてごらんなさい? それだけ黒くなってれば、わたくしを殺せるはずですわ」
ごめんなさい、謝るので、謝りますから、殺そうとなんて思いもしませんから、だから、私を、許してください、お願いします。
「なに掴んでるのかしら? もしかしてこの灰色の腕をもっと使っていれば、金色の腕を失わなかった。そう思ってますの?」
「あ、えっと……お……思ってないです……」
どうして掴んじゃったんだろ、ドクターのくれた腕……ここまでもってくれた腕…………。
「ほんと、見えないだけで随分卑屈になりましたわね」
「いぃっ!」
すごい音、なに、今の衝撃……え、あれ? 私の……左腕が、軽い? え? まさか……とれちゃったの?
「さて、ソドム。おしゃべりはおしまいですわ。わたくし、今からあなたを壊すために集中しないといけませ――――」
「そこまでだ、黒き狂気兇器強姫」
この声……。
「あら……ずいぶん都合のいいタイミングで現れるんですわね。ルイドは殺せたのかしら?」
「リディアさん! 助けて! 助けてっ! 助けてっ!」
リディアさん、お願い、助けて。真っ暗でなにも見えないの。
「貴様はもっと筋の通ったやつだと想像していたが、ずいぶんと悪趣味なんだな」
「加害者は罪悪感をもったらおしまいですわ」
「たすけ……て……」
離れていく足音と、近づいてくる足音。誰、誰、誰、誰?
「誰っ!」
「ソドムさん、よくがんばりましたね。代わりの目はリディアさんが手配してくれるそうです。ドクターにつけてもらいましょう」
「う、う、うああ……あ、あ、ナターシャさん……こ……わかった……怖かったよぉおお!」
怖かった。本当に、怖かった。




