136:地獄は笑顔で
泣きながら走った。私には銃弾が飛んでこないことに。ああ、なんで走る前に気がつかなかったんだろう。対生命体地雷が無い道の幅なんてそんなに広くないって。
「GO! GO! GO! 止まるな!」
壁の上から撃たれてる。何発も何発も。きっとみんなに当たってる。私には当たらない。だって私は地雷の上を走れる。だから、みんなが囮になって私だけ……私だけ……離れて、離れて走ってるから! でも止まったらダメ、行かなきゃ、壁の中に行かなきゃ。
「ソドム、そのまま真っすぐいけば穴がいくつかある! どれでもいい、適当に入れそうなとこに入れ! 中に入ったら壁沿いに左だ、すぐに追いつく!」
リディアさんの声は右から聞こえる。ああ、砂嵐のせいでみんなの姿があんまり見えない。でも、見えたとしても、見えたとしても、私は――――。
「前を見て走らなきゃ」
自分に言い聞かせる。言い、聞かせろ。
「はぁっ! はぁっ!」
近寄ってみると、壁は結構ボロボロで大きな亀裂みたいな穴がいくつかあった。
「ここから通れそう……」
体を横にして……。
「ぎゃっ! ぎゃあっ!」
「…………!」
一人じゃない、今の声。ああ、私はみんなの名前を知らない。
「そんな……」
砂嵐が弱くなって見えた。壁にたどり着けずに倒れている……。
「まだ生きて……」
頭を撃たれて死んだ。そっか、嵐がなくなって狙えるようになったんだ……。
「ぎゃあ! ぐあ!」
「!」
今度は壁際を伝う声。な、中から撃たれてる――――。
「ソドム、私の部下の死を無駄にするな。それにこの死は織り込み済みの死だ。割り切れ」
「リディアさ……」
私が入ろうとしていた穴の中から手が出て、私を引っ張った。
「みんな……私……を中に入れるためだけに……」
「声を出すな。見つかる」
ドボン。穴の中に入った私は、今度は足元にあった穴に落ちて――そこは、臭くて浅い水のある暗闇。
「ナターシャたちと合流するぞ」
「……うぐ、うっ」
「泣いてくれているのか。私の部下のために」
「ひぐっ……うっ」
私達だってたくさん殺した。でも、違う。微笑んでくれた人たちが死ぬのは、つらい。ああ、そっか。戦うって笑顔をなくすものだってわかってるから、みんな笑ってたんだね。
「いつ聞いても嫌なものだな。死を覚悟した者の撃つ銃の音は」
「戦ってるんだね……生き残った人たち……ううん、違うね。死んだ人も、みんなで今戦ってるんだね」
「よく気がついたな。素晴らしいぞソドム。私達が勝てば死んだ奴らは負けたことにならない。そうだ私達は全員で戦っているんだ」
地下に流れる汚れた水。その中を進むリディアさんの背中は、なんだかとても小さく見えた。




