134:思いつめる必要も、思い上がる必要も
私が目覚めた時、体はびしょびしょだった。おしっこと……汗で。
「ごめんなさい……」
「気にするな。穿いたまま小便なんて私は未だにするぞ? 軍人なんて、したい時に脱げないことが多いからな」
「そ、そうなの?」
リディアさんは水で濡らしたタオルを私に投げる。
「生身の部分は丁寧に拭いておけ。痒くなると気が散りやすくなる」
「う、うん」
ふと思う。ちょっとだけ博士と、この人は似ているって。
「恥ずかしいか?」
「ちょっと……」
「なら面白い話をしてやろう。私のこの顔の傷、いつつけられたと思う?」
え、そんなヘヴィな話しされても……。
「私がまだ新米だった時の話だ。待機中にどうしても糞がしたくなってな、そこをざっくりやられたんだ」
「え……その後どうしたの?」
「ズボンを下げてるからすっころぶ、そのままボコボコにされて捕虜になった」
「捕虜……?」
「捕まったんだ。今思い出しても最悪の経験だ。私が拷問に屈しない性格だとわかった瞬間、やつらは私を性欲処理用に穴の空いた箱に詰め込んだんだ」
うえ、なんにも面白い話じゃないよ……。
「で……どうやって逃げたの?」
「逃げた? いや、救助されたんだ」
「…………」
「その後私は私を辱めた奴らをどうしたと思う?」
そ、そのクイズいらないです。
「ぜ、全員殺した……」
「いや、私が救助されたのは休戦になったからだ。だからそのまま、さようならだ」
リディアさんは本当に楽しそうな顔で笑った。
「笑えないんですけど」
「ああ、面白い話はこれからだよ。そいつらは今私の部下として働いている。私の主とそいつらの主が同盟を組んでね。残忍で優秀なやつらだ、 昨日も良い働きをしてくれただろう?」
「う……うぇえっ!」
「せっかく小便を拭いた後にゲロを吐くことはないだろう」
うう……。
「ま、私達の生きている世界はそんな世界だ。貴様がいかに正常な人間かわかったか? 自分の頭はおかしいかもしれないと思いつめる必要も、思い上がる必要もない」
「うん……」
「信じてもらえないかもしれないが、私の目指す理想は子どもの笑える世界だ。そして私は、その理想のために子どもを殺せる現実主義者だ。だから貴様は今のままでいい。私に利用されながら、貴様のまま黒き狂気兇器強姫に立ち向かえ。利害の一致というやつだな」
その日のお昼すぎ、リディアさんは部下の人たちを何人か連れて……どこかへ行ってしまった。目的はきっと、昨日話していたラザーサとかいう人を倒すため。




