132:餓鬼
私達はそれからゴモラ645に向か…………わなかった。
「拍子抜けという顔をしているな」
「えっと……」
侵入するルートの確保とか言って、何人かが先に行っただけ。私達は砂の上にテントをはってそこで待機。しかもナターシャさんがそこについて行っちゃったから、私はリディアさんと二人でテントにいないといけないんだよ! なにこれ……はぁ。
「貴様の思っていることを言ってみろ。別に怒ったりはしない」
「…………強いならさっさと行って倒せばいいじゃん……って思ってる」
「競技選手らしい考え方だな。その考えは貴様の相手に会うまでとっておくといい」
相手って、狂姫さんのこと……だよね。
「リディアさん」
「なんだ?」
「どうして私達と?」
「ナターシャがほしい。あいつはいい軍人になる。私のような部隊では人が重要なんだ」
うー、なんかこの人との会話難しいな。
「黒き狂気兇器強姫を殺したいか?」
「え……」
うん、殺したい。心の中でそう言えたのになぜか口には出せなかった。
「迷いか。いざとなったら私が貴様に加勢してやろう」
「え…………」
この人は確実に狂姫さんを殺す。間違いなく。
「私に任せてください」
「殺したくないわけだな」
「そういうわけでは……」
「なんだその反抗的な目は」
う、しまった。この人がヤバイのは常に剣を身近に置いていることで、よくわかってるのに。
「貴様は頭をやられているようだな。いや、心か? まぁいい、私が少し冷ましてやろう」
「えっ、い……いや」
「危害を加えるつもりはない。その証拠に素手で触れることができているだろ?」
う……。
「剣を手放した以上、貴様の一撃くらいは確実に私に入る。そして私は素手でおまえを傷つけることはできない。抵抗しないのか?」
「す、する」
なんか首を触られるとくすぐったいような、ムズムズするような変な感じ。
「ははは! 冗談だ、私は餓鬼には興味ない。それに、一時的な慰めで現実逃避しなければならないほど貴様は壊れていない」
「わ、私壊れてないの?」
「壊れたの壊れてないだのは周りを囲む人間により変化する。私からすれば貴様程度の狂いなど普通の範疇だ」
私ははじめて、リディアさんのことをまっすぐ見たかも。
「戦場はいいぞ。特に私達のようなはみ出し者の部隊はな。生きるのに忙しすぎて狂っているひまがない」
「…………」
「ルイド・ラン・シュタイン。煉瓦の意思の首領の名だ。戦闘力が高いだけでなくカリスマ性もある、今後英雄になる可能性が高い人物だ。だから私はそいつを殺す。その仕事が終わったら助けてやるからそれまで生き残れ、糞餓鬼」
「う、うん」
なんかこの人好きだ。ちょっとだけ、いやなんか急にドクンって感じでそう思った。




