131:暴力装置
私達は、村を出てリディアさんの部隊に合流した。みんなごついガスマスク……かな……なんかそんなかんじのマスクで顔を完全に隠している同じような格好をした人たちに。わりといっぱいいるな……五十人くらい?
「五人死んだか。戦死者を選ぶもの相手にそれだけでやれれば上等だ」
仲間が死んだのに、誰も悲しくなさそう。
「負傷者はここで離脱してそこの村で休んでいろ。話は通してある」
ザッ……と一斉に動く人たち。なんだか機械みたいで、怖い。
「ナターシャ、負傷者から装備を受け取れ。ああ、マスクはつけるな。あれは我々専用の通信機が内蔵されているからな、正式に所属してもらう前はまずい」
「はい」
「私の部隊を見てわかっただろう。あの街を落とすのに貴様らは最初から足りていない」
「はい」
ナターシャさんは、リディアさんになにを言われても「はい」とだけ返事をして――――装備を身に着けた。私もしっかりしなきゃ。これから戦いに行くんだもんね。
「今のうちに教えておこう。私の部隊は世界に散らばるやっかいなものを排除するためだけに作られた特殊な部隊だ。リスクはでかいが、主力部隊に所属するよりは気楽でいい。ルールは一つ、私の命令には従え。それだけだ」
それだけだって……私、この部隊に入った覚えはないんだけど。
「ソドム、私の部下を殺してくれるなよ。こいつらは単体だと貴様より弱いからな」
「そんなことしないよ」
「本当か? ならいい」
そう言ってリディアさんは私に背を向ける。(ようは部隊のみなさんの方へ向く。)
「我々はこれから、ゴモラ645の黒き狂気兇器強姫を叩く。煉瓦の意思だとかいうアナーキストどももまとめてだ! いいか、もう一度言う。全員、まとめてだ。戦死者を選ぶものを相手に引き締めた気を緩めるなよ? ゴモラシティを手に入れただけあって奴らは優れた暴力装置だからな。だが、我々の暴力のほうがもっと優れている。我々の作戦に和解はない――――」
え、なんか演説はじめちゃったんだけど!
「我々は偽善者の語る糞のような慈悲を口にしない。我々は死を拒絶し行進を滞らせることはない。我々はリスクを負わぬ報酬を欲しがることはない。我々は差別の枠にすら入ることはない――――」
これ、毎回戦う前に言うのかな?
「我々は自由を主張しない。我々は暴力すらも信仰しない。振り返れ、貴様らの人生を。そこに今と違った人生を選ぶチャンスはあるか? いや、ないだろう。ないに決まっている。我々はいつだって夢見がちな勝利を夢想する馬鹿になりきれない、大馬鹿者だからな。ないに決まっている。いいか、チャンスがないのは我々が自ら放棄したからだ。誰のせいでもない。自らが強制されたかのように選んできた結果がここにあるだけだ。あたりまえのことだが、捨てたものは戻らない。そうだろう? そうだろう? だからいつもどおりだ、いつもどおりにやれ。いつもどおり、いつもどおりに戦え! 貴様らのイデオロギーなき暴力を駆使し戦って戦って戦って戦い抜いて、英雄の死体を積み上げろ!」
「英雄の死体を積み上げろ!」
「英雄の死体を積み上げろ!」
「英雄の死体を積み上げろ!」
みんなが三度、声をあげる。英雄の死体を積み上げろ、英雄の死体を積み上げろ、英雄の死体を……。
「はぁ……はぁ」
「ほう、ソドム。たぎってるのか? なかなかいいな貴様は」
「えっと……」
英雄の死体を、積み上げろ。ああ、そっか。私……さっさと戦いたいんだ。




