129:経験
私はリディアさんと戦うという選択肢しかとれなかった。ナターシャさんを殺されたくなかったから。(ナターシャさんは私を何度も止めた。でも私はそれを選択した。)
「村から離れよう。貴様と私がぶつかったら間違いなく被害が出るからな」
「リディアさん……意外とまともなこと言うんだね」
「何を言う。私はいつだってまともだ」
なんかよくわかんない空気感の人だな。
「ソドムさん、ダメです! その人と戦っては!」
ナターシャさんが私の前に両手を広げて立ちはだかる。ナターシャさん、ごめんね本当に何度も止めさせて。
「ナターシャさんここで待ってて。必ず戻るから大丈夫」
選択肢はない――――そう思うのは、初めてじゃないから大丈夫だよ。
「ソドムさん!」
「ごめんねナターシャさん。でもさ、ナターシャさんは私を止められないでしょ?」
ごめんね、ごめんね、こんな嫌な言い方しかできなくて。
「なら、私も行きます」
「うひひ、ありがとう」
ここで一番止められないのは私ではなくきっと、リディアさんの意志だ。コード404で止められるはずなのに私と戦うと言い出した時点で、避ける方法はきっとない。
「絶対防御の恩恵を受けた経験はあるか?」
「……ない」
だって私、Sリーグ選手になってからリューリーとゾンビしか倒してないからよくわかんないんだよね……。あれ? ゾンビ? ゾンビが私を襲ってきてたの――なんで?
「特異通過者、ゾンビ、そして完全な無機質自動兵器。コード404を突破できるものはいくつもある」
「はぁ」
え、ゾンビってコード404無視できるの?
「例えば都合よく人間判定通過者だけを許すタイプの対生命体地雷は、特異通過者には作動する。だがSリーグ選手には作動しない」
「はぁ……」
んんん……なんかよくわかんなくなってきたぞ。リディアさんってあんまり説明上手じゃない感あるね。
「そんな貴様のような存在を倒すためには、その理不尽な防御をこえなければならないというわけだ」
「あの……よくわかんないんだけど」
「そうだな、体験してもらうか」
「ちょっ! ……あ」
リディアさんの拳は私に届く前に止まった。これが――――コード404の絶対防御。(だから私は殴り返さずに済んだ。)
「もしかしてそれ、演技なの?」
「演技ではない、本気だ。体が硬直して動かなくなっただろ?」
「いや、そんなことわかんないんですけど」
今度は蹴ろうとしてきて、止まる。
「でも、さっきリディアさん私に勝てるって言ってたよね」
この人、敵意を感じない。なんていうか、私になにか教えようとしてくれているような――――。
「うぐぁ!」
「ソドムさん!」
いきなり剣で叩かれた!
「なにするの!」
「心配するな、私の愛刀は切るものではない。叩くものだ」
「そういう問題じゃないから! ……あれ?」
どうして当たったの?
「種明かしをしてやろう」
「え、そんなすぐ教えてくれるの?」
「私は手品師ではないし、教えたところで貴様は勝てん」
え、さっきナターシャさんに簡単に情報漏らすなって言ってませんでしたっけ?




