126:歩き続けろ
砂に脚が沈む。なんだか体中の関節に砂が詰まったみたいに感じる。(きっと砂は詰まってないのだけど。)ああ、砂砂砂。汗もかけなくなってるのに、体についた砂がとれないままなのはなんで?
「はぁっ……はぁっ」
村はまだ見えない。
「雨くらい、降ってよ」
何回もそう思った。でも風すらも吹かない。なんだかわざと、わざと誰かが私達を苦しめようと砂漠のことを決めてるみたい。
「くそっ……負けるもんか」
ここまで五回、いや、何回だっけ。何回か転んだ。でももう転んだらダメ。起き上がるときにすごく力を使うから。
「はぁっ……ん……」
苦しくても、できるだけ息はしないように。喉が焼けて、余計に痛くなる。
「ふ……ふ」
足も止めたらダメ。どれだけ疲れても、震えても、少しでもいいから、進んでいく。止まると、終わる。
「うぎっ」
パリパリと痛むのは私のお腹の下の方、あと肩から出た血が固まってるから。パリパリ、ピリピリ。ひび割れる痛みが、私を刺す。そっか、私と金属のつながってる部分から血が出てるのか。
「ぜっ……ぜっ」
止まったらダメだよ私、止まったらナターシャさんが死ぬ。
「ナターシャさん、がんばろうね」
「…………」
「ナターシャ……さん?」
ダメだダメだダメだダメだダメだダメだ、今確かめたら私は本当に止まっちゃうかも!
「はぁ、はぁ、はぁ」
前へ。前へ。あれ、私ちゃんと真っすぐ歩けてるかな。前へ前へ。もし間違えてたらどうしよう。間違えてたらたどり着かずに、死ぬ。前へ前へ。
「死ぬまで……歩いてやる」
死んだら死んだってことに気がつくのかな。
「消えろ!」
ああ、思わず叫んじゃった。もう体力ないのに……でも、仕方ないよね、ラドルゴさんたちを殺した金属の怪物が見えたんだから。(私はもう何度もそれをみている。でもそれは見えているだけで実在しないものだ。)
「うぎぎ……」
ズル、ズルって引きずってゴメンねナターシャさん。私背が低いからさ。
「あれ……ほんと?」
村が、見える。多分。あれ? これも見えてるだけ? それとも今度こそ本物かな……。(村も何回も見た。でもどれも幻覚だった。ああ、幻覚って助かった後も見え続けるのかな? それとも今だけなのかな?)
「どっちでもいっか」
うん、あれが本物ならゴールだし、そうじゃなきゃ進むだけ。
「おい! 子どもだぞ! みんな早く来い!」
うひひ、なんか聞こえるよ…………。なんかみんな走ってくる……。うひ、なんとか……なったんだ。なんか幻覚のほうが本物っぽく感じるね。だからわかったよ、この人たちが本物だって。
「ナターシャじゃねぇか! 君は……とにかく水だ! 水をもってこい!」
うひ、私がんばった。




