123:砂塵に哭く者
それは突然だった。ナターシャさんが私の頭を押さえつけて「伏せてください」と言う。それから銃声。たくさんの銃声。たくさん、撃つ音がした。
「ソドムさん、逃げましょう」
「え……」
「みんなが抑えている間に早く!」
私は一度だけ振り向いてそれを見た。大きな車? 違う、腕? 脚? なんかたくさんついた金属の――――怪物。
「そんなヤバイやつなら助けないと!」
「ダメです! あれはあなたでも落とせません! みんなもすぐ合流しますから!」
その時聞いたことない音がして、後ろが明るくなった。
「ナターシャさん!」
「聞き分けてください! あなたが死んだら私達の希望は――――」
金属がこすれる音が、すごい速さで――――。(それはまるで泣き声みたいで。)
私達は走った。今までこんなに走ったことなんてないってくらい。
「はぁ、はぁ……もう、大丈夫ですね……」
「はぁ、はぁ……ナターシャさんっ……あれは?」
ナターシャさんは走りながら武器を捨てた。それはきっと私と同じ速度で走るため。
「戦死者を選ぶものです。まさかあんなものに出会ってしまうなんて」
「…………」
人間が作った工業製品の可能性があるから、その名前を口に出したらいけない。一瞬そう思ったけど……そっか、私は――――Sリーグ選手だし、ナターシャさんは特異通過者だから大丈夫なんだ……なんてどうでもいいことを、今考えている場合じゃないのはわかる。(じゃあなぜ考えてしまったのか述べよ。)
「ごめんなさい……少しだけ泣かせてください」
私は理解した。多分、みんな死んだ。
「ナターシャさん、おいで」
年下の私がそんなことを言うのはおかしいかもしれないけど、私は今この人を抱きしめてあげないといけない気がした。
「無理しないでナターシャさん、私達しかいないんだから」
「ああああ! どうして! どうして私達がこんな目に! ゴモラシティを奪われ、ほぼ会うことはないだろうと言われている大戦兵器に出会うなんて! 私達がなにをしたというのですか! 私達はなぜこんな目にあわないといけないのですか!」
本当に私達が、なにをしたんだろう。ただ生まれてきて、ただ生きていた、それだけのはずなのに。




