121:泡
コヨーテが一生懸命腋水のことを説明してくれているのを見ていたら、なんだかおかしくなって私は笑いだしてしまった。だって水の中に腋があるんだよ? 汗をよくかく場所と水が出てくるのをかけてるのかなってなっちゃうでしょ?
「潜って一緒に見てみようぜ」
「うん」
手をつないだのは、私が怖がらないように?
「…………!」
握った私の手を、腋水に触れさせる。え……なにこれ、地面が生きてるみたい。
「…………」
思わず見たコヨーテの顔が水の中で笑ってて、口から泡が出てた。今泡が増えたのは、私も笑ったからだ。泡はすぐ消えちゃうけど、二人で潜っている間に出た泡ならきっと同じもの。
「ぷは」
「ぷは」
水から顔を出してまた笑って、目が合ってコヨーテがよそ見をする。
「…………」
「コヨーテ?」
「これ、やる」
コヨーテがパンツの中に手をつっこみ取り出したのは、なにかの牙のようなものがついたネックレス。
「砂漠狼の牙だ」
「あはは、なんてとこから取り出すの!」
「あ、洗えば綺麗だ!」
バシャバシャと洗う、コヨーテ。そんな大げさに洗わなくてもいいのに。私はきっと、君のパンツの中なんて綺麗すぎるって感じるくらい、汚い生き方をしてきたから気にしないよ?
「ありがとう」
「お……おう」
顔を赤くして、なんか可愛いな。そんなこと言ったら、怒られそうだから言わないけど。
「おーい、コヨーテ! 飯ができたぞー!」
呼ばれたのはコヨーテ。だから私は、これからどうするかをコヨーテに委ねる。
「はーい! ソドム、いこうぜ」
「うん」
私達は頭を振って水を飛ばし、服を着る。うわ、服濡れた。(そりゃそうだ。)
夕飯はコヨーテと一緒かと思ったら、別々だった。ナターシャと二人のテント。おじさんたちは外で寝てるらしいけど……特別扱い?
「ナターシャ、どうしたの?」
「え、あ……気がついちゃいましたか」
ナターシャの目は真っ赤。泣いてたのがよくわかる。
「怒られちゃいまして」
「誰に?」
「子どもを戦いに巻き込むなって。強くても子どもだろうって……確かにそうなんですよね」
誰に怒られたかは、言えないのかな。
「ナターシャ私は平気だよ。ずっと戦ってきたし」
「ありがとうございます。私……」
「よしよし」
「お姉さんなのに、撫でてもらっちゃいましたね」
みんなつらいことを抱えている。どうしようもないことだってある。きっと、世界ってそういうふうなんだ。




