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ソドム・パラノイア  作者: Y
heaven can wait
13/301

12:シャッター

 会場から出た私を、博士が優しく迎えてくれる。


「よくがんばった、良い勝利だったぞ」

「うん、でもあんまり稼げなかった。私もっと人気出さないといけないね」

「ふむ、ソドムは人気者になりたいのかね?」

「うーん、そのほうが博士にいっぱいお金あげられるし」


 そんな会話をしていると、さっき言われた「猫かぶってまで」という言葉が私の胸の奥をチクリと刺激した。確かにそうかもしれない、私は博士といたくて、わざと可愛い自分を作っているのかも――――。


「どうかしたのか?」

「え、ううん、なんにも……ないってことはないけど」


 特に隠す理由はない。私は、黒き狂気兇器強姫くろききょうききょうききょうきさんに出会ったこと……そして言われたことを話した。いや、これはきっと話さずにいられなかっただけ。だから正しくは、()()()()


「猫かぶってなどいないと私は思うが――何故泣いている?」

「なんでだろう」


 ほっぺたが熱い。涙がぼろぼろ流れるから。鼻の下と上唇がベタベタする。鼻水がいっぱい流れるから。


「そういえば前の輸入市でおまえは、結局……なにもほしがらなかったな。なぜだ?」

「うぐ、うう」


 博士は私をギュッと抱きしめる。博士、鼻水ついちゃうよ? あれ、どうしてこういう時涙がつくことは汚いって思わないのに、鼻水は汚いと思うんだろう。


「だがな、私はこっそりプレゼントを買っておいたのだよ」

「ぐすっ――――カメラ?」

「ふむ、勘がいいな。そのとおりだ」


 私はカメラを一つも持っていない。だって、興味が無いから。でも今博士が――――肩にかけていたカバンの中から出してくれたカメラは、なんだかすごく魅力的に見えた。


「私がなぜ写真を撮ると思う?」

「その時を忘れたくないから?」

「ロマンチストだな。だがそれは不正解だ。私が写真を撮るのはカメラという()()が好きだからだ」


 それってカメラを使いたいから写真を撮っているってことかな? 写真には興味がない?


「うわっ!」

「ああ、すまないストロボが眩しかったか?」

「えっと、今私を撮ったの?」

「ああ、そうだ。おまえと出会って初めて、おまえの写真を撮った。だがな、これはカメラが好きで撮った写真ではない、おまえが好きで写真を撮ったのだ」


 博士が言っていることはいまいち理解できなかった。でも私も――――私も、博士の写真が撮りたくなって今もらったばかりのカメラを向ける。


「私は被写体としてあまり優れていないだろう」


 きっとそれは博士の照れ隠し。だって私がカメラの操作に迷っていたら、小さな声で「シャッターを押せば撮れるようにしてある」とつぶやいてくれたから。


「すまないな、私は心には詳しくない。そうだな、私は理解してやれない自分が悔しくて、おまえに対し必要以上に()()()()()()()()()()()()()()を見せ、悩ませているのかもしれないな」

「理解することってそんなに大事かな? 私は博士が私のことを……うひひ、よくわかんないや! はいチーズ!」

 

 これが、私が生まれて初めて撮った写真。この写真は今も、大切に持っている。

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