12:シャッター
会場から出た私を、博士が優しく迎えてくれる。
「よくがんばった、良い勝利だったぞ」
「うん、でもあんまり稼げなかった。私もっと人気出さないといけないね」
「ふむ、ソドムは人気者になりたいのかね?」
「うーん、そのほうが博士にいっぱいお金あげられるし」
そんな会話をしていると、さっき言われた「猫かぶってまで」という言葉が私の胸の奥をチクリと刺激した。確かにそうかもしれない、私は博士といたくて、わざと可愛い自分を作っているのかも――――。
「どうかしたのか?」
「え、ううん、なんにも……ないってことはないけど」
特に隠す理由はない。私は、黒き狂気兇器強姫さんに出会ったこと……そして言われたことを話した。いや、これはきっと話さずにいられなかっただけ。だから正しくは、聞かせた。
「猫かぶってなどいないと私は思うが――何故泣いている?」
「なんでだろう」
ほっぺたが熱い。涙がぼろぼろ流れるから。鼻の下と上唇がベタベタする。鼻水がいっぱい流れるから。
「そういえば前の輸入市でおまえは、結局……なにもほしがらなかったな。なぜだ?」
「うぐ、うう」
博士は私をギュッと抱きしめる。博士、鼻水ついちゃうよ? あれ、どうしてこういう時涙がつくことは汚いって思わないのに、鼻水は汚いと思うんだろう。
「だがな、私はこっそりプレゼントを買っておいたのだよ」
「ぐすっ――――カメラ?」
「ふむ、勘がいいな。そのとおりだ」
私はカメラを一つも持っていない。だって、興味が無いから。でも今博士が――――肩にかけていたカバンの中から出してくれたカメラは、なんだかすごく魅力的に見えた。
「私がなぜ写真を撮ると思う?」
「その時を忘れたくないから?」
「ロマンチストだな。だがそれは不正解だ。私が写真を撮るのはカメラというものが好きだからだ」
それってカメラを使いたいから写真を撮っているってことかな? 写真には興味がない?
「うわっ!」
「ああ、すまないストロボが眩しかったか?」
「えっと、今私を撮ったの?」
「ああ、そうだ。おまえと出会って初めて、おまえの写真を撮った。だがな、これはカメラが好きで撮った写真ではない、おまえが好きで写真を撮ったのだ」
博士が言っていることはいまいち理解できなかった。でも私も――――私も、博士の写真が撮りたくなって今もらったばかりのカメラを向ける。
「私は被写体としてあまり優れていないだろう」
きっとそれは博士の照れ隠し。だって私がカメラの操作に迷っていたら、小さな声で「シャッターを押せば撮れるようにしてある」とつぶやいてくれたから。
「すまないな、私は心には詳しくない。そうだな、私は理解してやれない自分が悔しくて、おまえに対し必要以上に受け入れてやっているような顔を見せ、悩ませているのかもしれないな」
「理解することってそんなに大事かな? 私は博士が私のことを……うひひ、よくわかんないや! はいチーズ!」
これが、私が生まれて初めて撮った写真。この写真は今も、大切に持っている。




