116:その思いは便利で
出発の日。私は玄関の外に出るのが怖いやつになった。でもそれは隠し通せた。どうせ死ぬつもりだって思ったら……呼吸が整ったから。(死にたいという思いは気持ちを整えるのに便利だと、私は気がつく。)
「歩きで行くんだね」
「そうですね。車は見つかってしまう可能性が高いので」
みんなおそろいの、砂の色の布を体に巻きつけている。もちろん私も。
「見送りはないの?」
「ええ、私達は帰るために戦うわけですから。なんていうか、願掛けみたいなものです」
ナターシャさんから、改めて私に合わせて厳選してもらった武器を受け取る。さんだんとかいう当てやすい銃が二つ、ナイフが大きさ違いで三つ、小さな投げる用の爆弾が何個か。
「あ、あとこれどうぞ」
「ブーツ?」
「ええ。ドクターがあなたのサイズに合わせて作りました。つま先に分厚い金属が入っています。ある程度のものならこれで」
ドクターはこの戦いにはついてはこない。戦うのがあまり得意ではないから。
「うひひ」
「どうしたんですか、ソドムさん」
「なんかこのブーツ、お守りみたいだなって」
私がこの街に戻ってこなかったら、ドクターはどう思うだろう。あ、そうだ、最後にナターシャさんに伝言を頼もう。「ドクターのブーツで旅に出ます。ありがとう」って。それから本当に旅に出て、振り返って誰もいなくなった時に死ねばいい。(悲しませたくなければ、死んだって思われなければいい。そしたら私はドクターたちの中でずっとだ。)
「この砂漠を歩いていくんだね」
「はい。途中協力関係にある二つの村を経由します。補給をお願いしてありますので」
砂しかない、視界。アスファルトがこんなところにあるのは、いろいろあるような土地では許されない存在だからだろうか。
「さて、行こう。体力を温存するために無駄な会話は控えなければいかん。最初の村は遠い」
「あらお父さん。あまり会話のない旅は心が疲れてしまいますよ」
苦笑いするラドルゴさん。もしかすると、この人もこの戦いで死んでしまうかもしれない。(リドルゴさんに似ているから、余計にそう思ってしまう。)
「さて、行きましょう」
「まったく、俺の娘は仕切りたがりだな」
「お父さん!」
笑うのはみんな。私も一緒に笑えるのは、心が落ち着いているふりが上手になった証拠かな。全員で十二人、みんな戦い慣れてそうな感じで、ちょっと安心してるのもあるかもだけど。
「さて、出発だ! 灰被り初の大仕事、作戦名、砂に潜れだ」
「もう、結局お父さんが仕切る!」
砂に潜れ。そのまま私も砂になって砂漠と混ざってしまえばいいのに。




