111:都市A
翌日、私達の作戦はまた変更になりそうだった。
「――――昨晩の都市Aからの誘いは本物だと判断するということで……良いですね? では、ここからはその前提で話を進めます」
私もなぜか出席している、この街の偉い人っぽい人たちの会議。どうやらこの都市Aとかいうのがなんとかって話は本当に大事らしく、みんな超ざわついている。
「あの、都市Aって……なに?」
隣りにいたドクターに私は小声で聞く。だって、わかんないし……。
「この世界にはゴモラシティとは別に外都市と呼ばれる街があるのだよ。簡単に言うなら暴力的地下遊戯の観戦権を持つ街だ。つまり立場的には、ゴモラシティより上ということになるな。そこからこの街に誘いがあったのだ、うちの街の住人にならないかと」
私達の試合を……見ていた街……か……。ということは、あの試合も……あの試合も……見ていたってこと? あの時、愛を込めて金を放り投げる一分間でわざわざお金を払ってまで暴言を吐いてきたあの人も住んでるってこと?
「もちろん私達のアスファルトは外都市には含まれない。自分たちで決めた街の名を名乗るしかない、本当の外の街だ」
「それはなんとなくわかるよ」
しまった、ちょっと今の言い方は嫌な感じだったよね……。そういうつもりではなかったんだけど……そう聞こえちゃうよね……あれ、なんでドクター今、私の頭撫でてくれてるの? え? え? あれ? なんで? あんな嫌な言い方したのに怒ってないの?
「で、どうしますかみなさん。この誘いに対してなにか意見は」
「俺は反対だ。もともと俺たちはゴモラシティの住人だぞ! あんなところと組めるか!」
「俺たちはゴモラシティをもう追い出されてるんだぞ! そうやって拒絶し続けていても――――」
「みなさん。発言ある時は挙手をお願いします!」
仕切るのは、ナターシャさん。なんかナターシャさんって、すごく頼りがいある感じするな。みんなのお姉ちゃんなのも、納得だよ。それにしても、意見がまとまらないね今日……。(私を仲間にする時も、こんな風に言い合いになったのだろうか?)
「都市Aからまたっ……また連絡が来ました!」
会議をしている小屋に焦った顔で飛び込んできた、若い男の人。私と同じように目がかたっぽないのは、戦いでなくしたからだろうか?
「どうした……なにがあった」
「都市Aは……独立国家宣言をしたそうです……」
「なんだと!」
「バベルに弓を引くというのか!」
バベル……オリジナルのラヴクラインがいるところ……。
「そ、それだけじゃありません……近隣都市と合併、規模はわかりませんが少なくとも五つ以上の都市が一つの国家として……」
「戦争……でもするつもりか」
「確かにあのあたりは外都市がいくつも隣接している……」
「皆さん静かに! 落ち着いて! まずは都市Aからのメッセージを聞きましょう! さぁ、読み上げてください」
ナターシャさんが席を立つ。真剣な顔……うう、なんかいづらい空気になってきたよ。
「はい……。親愛なる、アスファルトの諸君。我々は都市であることを捨て……わだかまりを捨て一つの国家を名乗ることにした。やはりバベルは崩さねばならぬ。人間の尊厳のためにも言葉を統一させてはならぬ。賛同する者を我々は拒まない、君たちが真の自由を求めるならば……君たちの銃声を我々と共に響かせてくれ……新国家ゲヴァルラギアの民より……」
みんな黙っちゃった……。
「従うしか、ないだろう。いや従うべきだ」
誰かが言った。
「そうだ、我々が力を持つチャンスだ!」
「ああ、こんなチャンス滅多にない!」
ほとんどの人が従ったけど、うつむいたままなにも言わない人たちがいた。ドクター、ナターシャさん、ラドルゴさんと、あと二人。そっか……この人達は、ゴモラ645に帰りたいだけなんだ。
「あの、いいですか?」
私が言おう。だって私は部外者だから、この中の誰かが言うよりきっといいはず。
「あの、私はそこには行きません。きっと何人か、ゴモラ645に戻りたい人がいると思うんです。私はそういう人達と一緒に行きます、私はあの街に用があるので。それに私は私達の戦いを見ていただけの人たちなんかと、一緒に戦いたくありません」
「俺達の街……」
また一人うつむいた。なんか、悲しいな……。




