108:自分を壊さないためのリミッターは本当に壊さないための
痛む……ないはずの右目が痛む。痛い……ちぎった時は平気だったのに。
「ドクター、やっぱり私なんかと一緒にいるのはやめたほうが良いよ」
「私なんかなんて言うもんじゃないぞ」
「今だって私のせいで怪我したでしょ! 私はこうなっちゃうの! いきなりグーッって! 気持ちが突然! なんでか知らないけど!」
「そうか……」
ほら、なんにも答えられないでしょ? 誰も私を救えないし、私のことなんて理解できない。あれ、救ってほしいの私? 理解してほしいの私? 馬鹿みたい、ドクターなんて会ったばかりの、顔が博士と同じなだけの他人じゃん。私のことをかまってくれる理由は、私に力があるから。それだけの他人なんだ、他人なんだ。他人。他人。他人だね。
「私生きてるだけで迷惑だよね。だから博士はもう私を捨てたんだ。私なんていないほうが……そっか、もう死んじゃえばいいんだ! あはは、そうだよね私、もうなにもないんだもん!」
「やめろ! おまえの力なら自分を壊せてしまう!」
あ、あれ……できない。なんで? 喉を、引きちぎりたいのに力が入らない。
「うあああああ!」
「やめろって言ってるのがわからないのか!」
お願い、私。私を壊して! 壊させて、じゃないと私壊れそうなんだ!
「やめろソドム!」
「来ないで!」
「ぐ――――!」
あ……また……突き飛ばしちゃった……さっきより、強く……。でも、こんな時に、加減するのって、すごく難しいんだよ……とっさに加減したけど……ああ! そんなこと言ったらいいわけになっちゃうよね、嫌われるよね、もっともっともっともっと嫌われるんだ!
「いいかソドム、いいか、聞け! おまえは生きたいんだ、生きようとしているんだ! だから!」
「博士……動いたらダメ、血が……たくさん出てるよ」
「すまないが私はおまえの言う博士ではない。だが、もしそう見えるなら、止まってくれ」
「う、う……ああああああああああああああああああああああああああああああああああ、ああああああああ、ああああああああ、うぁああぁあああああああああああああああ」
わからない。わからないよ。私は本当に生きたいの?
「うう……んぐっ…あああっ!」
「おい、なにをしている……」
「はぁっ、はぁっ……私の体にはさ、傷を治すナノマシンが入ってるんだって。だからこうして千切ってくっつければ……ドクターの怪我も……」
「そうか、ありがとう。なぁソドム、生きてるのってつらいよな。どうして私達は、死ねないのだろうか」
「うひひ、ドクターの言うこと意味分かんないよ」
千切った私のお腹の肉を当てた場所の傷はふさがった。でもその肉を違う場所に当てたらダメだった。
「どうやらおまえの体外ではそう長持ちしないらしいな。盗難防止のセキュリティでも働いているのだろう」
「大丈夫だよ、もう一回千切ればいいから」
「やめておけ。ナノマシンの数を減らしてはおまえの傷が治らなくなる。それに、もうじゅうぶんだ」
ドクターはスッと立ち上がる。とても姿勢良く。
「おっとっと」
「ダメだよ無理したら……」
「そうだな。とりあえず腕を戻すか。ああ、心配するな。壊れたところは着脱できる部分だ。私のは安物なのでね、改造した腕をいくつかもっているのだよ」
よかった……。本当に、よかった。




