106:ナターシャ
その人はナターシャと名乗った。どうやらさっきの子たちの、お姉さん代わりらしい。
「ごめんなさいね、ほんと」
「うん、別に大丈夫……」
ペコリと頭を下げる。あれ、意外とこの人背が高い……おとなしそうな顔してるけど、体すごくしっかりしてるというか、ゴツい……。あちこちに傷もあるし……いろいろと戦ってきた人なのだろうか?
「本当に助かりました。いろいろと騙すような真似をしてすいません」
「えっと……それみんな知ってるの?」
まぁ騙されたっていうか、いろいろ後から言われて驚いたと言うか、いや、騙されたかな。うん。私をこの街に連れてきたのは計画的なことだったんだもんね。まぁ、私のこと信用できるかどうかわかんなかっただろうし……仕方ないか。
「いえ、ラドルゴは私の父ですのでいろいろ聞きました。私が言うのもなんですが、父は不器用……というかなんというか」
「あーうん、まぁラドルゴさんは私のこと連れてきただけだし、特に変なこと言ってないし……」
そこまで言って、こんな言い方したらドクターのことを悪く言ってるのと同じだって気がつく。
「あの、ドクターのことも許してもらえないでしょうか。あの人はなんていうか、多分このアスファルトで一番嘘が苦手なんです。でもちょっと気を使いすぎてストレートに言えないところがあるというか……」
ああ、やっぱり伝わっちゃった。でもまぁ、そんな感じするよねドクター。だからあんなにしょうもない嘘を重ねちゃったんだろうなぁ。
「あは、あははは」
「ど、どうしたんですかソドムさん?」
「いや、なんでもない。いいよ私、みんなと一緒にゴモラ645に行くよ」
「え……」
ナターシャさん、そして後ろの物陰からも「え……」という声がした。
「す、すまない。盗み聞きするつもりは……なかったんだ……いや、あったか?」
ドクター……本当に嘘が苦手なんだね。
「はぁ、なんか恵まれちゃったな」
これは私の独り言。この言葉を聴いてあえてなにも言わないこの三人はきっと――――地獄を見たことがあるのだろう。私みたいに。
「決意してくれてありがとう。よろしく頼む、頭領」
「はぁ?」
えっと、ドクターさん。言っている意味がわかんないです。
「いや、だっておまえが一番強いだろう。だから頭領で良いと思うのだが」
いろいろツッコミたいけど、まずヘッドってセンス!
「ヘッド! ヘッド!」
「わ! また出た!」
物陰からワラワラと出てくる子どもたち。うう、囲まれるのはなんか嫌!
「この子達の希望であってくれ。そういうヘッドでいいんだ。作戦などは私達がやる、頼まれてくれるかね?」
「私も子どもなんですけど」
「…………すまない、配慮が足らなかった。じゃあヘッドはなしだ! そうだな対等なファミリーでどうだ」
ちょっとこのノリについていけるようになるのは、時間がかかりそうだな。
「私達の仲間になってくれてありがとう。よろしく頼むぞ、ソドム」
「う、うん……」
なんかまぁ……いっか。




