102:どれから歌っていいかわからないんだ
リューリーはたくさん私を殴った。速い、それに正確。全然捕まえられない。戦えば戦うほど、動きを読まれていく。
「はぁっ、はぁっ」
ああ、痛いなぁ。頭がくらくらする。
「ヨワヨワなのだ! さぁ、リューリちゃんのちっちゃかわいいお耳をちぎったことを懺悔するのだ!」
「……さ…………さ」
博士もいなくなっちゃったし、こんなに痛い思いしてがんばらなくていいのかな。
「ん、なにブツブツ言ってるのだ?」
「……どこさ……ひ……」
なんてね……全くさ、意味分かんないよね、博士にさ、捨てられてさ、博士がさ、どこかにさ、いっちゃってさ、どこさ、あんたが、た、どこさ、ひごさ……って歌を……一緒にいた時……寝る時に歌ってもらったなぁなんてことをさ、今急に思い出してさ。
「あんたがた……どこさ、ひごさ……うひひ」
「おまえ、殴られすぎて頭がおかしくなったのか?」
「これってさ、あんたってどこから来たのって意味なのかな。うひひひ、歌ってもらってた時は気にしたことなかったなぁ」
歌の意味なんてさ、考えたことなくてさ……ってのは嘘だけど、なんとなく聞いてて、なんとなくいい感じだったってあるよね。それって心で聴いてるのかな? うひひ、なに言ってるんだ私。あはは、言ってないね、思ってるだけだね。うひひ。
「なんだその目……いきなりどうしたのだ…………なんでそんな目をしてるのだ!」
「あんたがたどこさ、ひごさ、ひごどこさ、私さ、それを私が鉄砲で……」
歌詞間違ってるな……。でも鉄砲ではあってるよ。博士っぽい歌詞だなぁって思ってたから。よく覚えてる。
「うひひひ、あなたリューリーだっけ?」
「りゅ、リューリーなのだ……」
「私、ソドム。頭がさ、おかしくなっちゃったみたい。だから私はさ、心に従うよ!」
「なっ! ぐあ!」
ああ、気持ちいい。背が低い相手は下からえぐるようにいけば顎に当たるのかぁ。うひひ、そういえば、ラヴちゃんに脇腹殴られたの痛かったなぁ。
「おまえ、急に速くっ……がぁ!」
「うひ」
地面を手で叩いて跳ねて、蹴っ飛ばす。狂姫さんが教えてくれた変則的な戦い方。
「ようやくわかったの。ありがとうリューリー」
「な、なにがなのだ!」
「私、戦うの大好き」
「が!」
重心が読みにくいでしょ? 腕がかたっぽだと。うひひ、まぁ、なんでもいいや。なんかよく当たるようになったし。
「このっ! いい加減にするのだ!」
「ぐあっ……うひひ、やっぱり殴られると痛いね。うひひ、ぐあっ! でも大丈夫なの、大丈夫だから……ずっころばし……ごまみそずい……うひひ、ずいずいずっころばー! ごまみそずーい!」
「なんでこんな時に歌なんて――ぎやっ!」
体の痛みなんて我慢すればいいだけ。それに、うひひ、おかげでさ、体が痛いおかげでさ、心の痛いのを気にしなくていいでしょ! だから戦う時は痛くていいんだよ!
「かーごめかごめ……かーごのなかのとりは……いつ、でやる?」
「へ、変な歌ばっかり歌うんじゃないのだ! ぐあっ! がっ! おまえは痛くないのか! おまえはなんなんだ!」
痛いってば。殴られてるんだもん。でもね私は今痛みを求めてる、博士の歌ってくれたいろんな歌を、なぜか、なぜか思い出しながら! 断片的にね、バラバラにね、思い出しながらね!
「もうやってられないのだ、この気狂い! リューリちゃんは帰――――おい、離すのだ……その手を、離すのだ!」
「……どっぴんしゃん…………てっぽうでっ……うってさ……どんどこしょ」
ああ、歌が、混ざる。あちこちから……頭の中のあちこちで博士が歌ってくれてるから私は……どれから歌っていいかわからないんだ。うひひ、もう、寝ないとダメなのかな。
「離せぇええええええええええええええええええええええ!」
「うぐっ、ずいずい……うしろのしょうめん……がっ! どこさ……あのこが……ちょいとかぶせ、ぎゃふっ! ちゅうちゅうぐあっ!」
ああ、そういえばメメメスを掴んだ時は両手があったっけ。うひひ、片手じゃ殴られっぱなしだよ。(あ、でもメメメスには両手があっても殴られっぱなしだったっけ。)
「離せ! 離せ! 離すのだぁ! 離せって言ってるのだ!」
「わからん……ぐぎっ! こわい……ぐあっ! ……どこさ……ぐあっ! あ! はぁっ、はぁっ……ちゃつぼにとおりゃんせ……くって、くってさ…………」
「離すのだ! 殴り殺すぞ!」
「ほしい、いきっこなしよ、だぁれ?」
嫌だよ、何回殴られても離さない。だってさ、掴んだままあなたを倒す方法を思いついちゃったから。うひひ。




