97:ドクターと名乗る人物
私の連れて行かれた街は、いろいろなものを積み上げて作ったバリケードに囲われた……砂っぽい、汚い街だ。入り口には武器を持った人たち。なんか物騒だな……。そして私は、この街についてからも車から降りることはなく、さらに奥へと連れて行かれる。
「ねぇ、どこいくのこれから?」
「ドクターのところだ」
「ドクター?」
「そうだ、腕をつけてもらったほうがいいだろう。ちょっと癖のある人だが技術はあるぞ」
そういえば、ゴモラ69の試合の時にも全身金属のドクターと呼ばれる人がいたけど……ぜんぜん違う人だろうな……さすがに。というか、腕……つけれるような人なのかな、変なふうにつけられたら嫌なんだけど……。知らない人に体……触らせるのも嫌だし……。じゃあどうする? ここで車から降りる? こんな知らない街で? はぁ、どうしたらいいんだろ。なんでついてきちゃったんだろ。(そんなことを考えている間にたどりついたのは……なんかボロい家。)
「ドクターいるか! 診てほしい子がいるんだ!」
うわ、そんなに強く叩いたらそのドア壊れちゃわない?
「おい、ラドルゴ。そんなに叩かれたら物理的に開けにくいと思わないかね?」
扉が、開く。家の内側から。
「…………博士」
肩のあたりで切りそろえてある赤茶色の髪はボサボサ、眼鏡は汚れてるし白衣には珈琲をこぼした跡、目の下のクマも酷いし顔色も悪い。そんな人が今、私の目の前にいる。心では別人だとわかっていても、私の心が博士だと認識してしまう。ねぇ、なんなの? ねぇ……。なんで私、こんな目に合わないと、こんな人に会わないといけないの?(顔に出すな、出すな私。絶対に。)
「君は…………まぁいい、とりあえず中に入れ。あとそうだな、私のことはドクターと呼びたまえ」
「……ドクター」
なんか物が多くてごちゃごちゃした家だな……。埃っぽいし、掃除してないのかな。
「じゃあドクター、俺達は集会場に行っているからその子をよろしく頼む」
「ちょっと、まっ……うわ! なにするの!」
ドクターは私の体を隠すカーテンを、なんの遠慮もなしにめくる。
「体を隠されていたら診れないではないか。ふむ、この腕は君のか?」
「触らないで! その腕は私の大事な――」
「ああ、安心しろ。これが仮におまえの宝物なら、私はこれを雑に扱う気はない。それにこれを取りつけないと君は困るのではないかね?」
信用……していいのだろうか。あんなことがあったばっかりなのに、人を信じていいのだろうか?
「この腕一本は作業代として預かろう。おまえがそのぶん働いてくれたら、ちゃんと返してやる」
「作業代って……」
「とりあえず、右腕だけつけてやろうという話だ。どうするかね? 私はどちらでも構わんが」
一本とりつけてもらって、殺して逃げればいい。そんな考えがふと思い浮かび……いや、もしかするとこの人ラヴちゃんなみに強いかもしれないし……。
「働くって……なに?」
「別に抵抗ネズミの集団に入れというわけじゃない。最近この街がやっかいなやつに目をつけられてね、それを追い払ってほしいのだよ」
「…………」
悪くない条件なのか、どうなのか。でも、これから先になにがあるかわからないからこそ、腕をつけることが最優先だ。それにこの人の見た目は、博士と、ラヴちゃんと同じ。つまり……腕をつける技術はあるはず。そうだ――――約束なんて守らなくていい。腕さえつけてもらえば、それでいいんだ。




