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ソドム・パラノイア  作者: Y
heaven can wait
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9:コード404

 輸入市をやるのは、街を囲う壁にある大扉(おおとびら)の近く。外から持ちこまれたいろいろなものを売るためのテントは数日前から準備されていてるけど、買い物は決められた日の朝十時から夜七時までと決まっていたりして、ちょっとややこしい。(外からくる人たちがたくさんいるから、仕方ないけれど。)


「よい時間についたな」


 博士と私が輸入市についたのは十一時半。もう少し早く来ることもできたけど、博士が開始直後は混みすぎるからその時間は避けようって。


「でも博士、もう良いものは買われちゃったんじゃない? 大丈夫?」

「大丈夫だ。開始早々全てのカメラが売れてしまうわけではない」

「そうだけど、今日はお金いっぱいあるからレア物狙いたいのかなって」


 カメラは値段の高いものほど売れてしまいやすいと、博士が前に言ってた気が……。


「今日はそのつもりはない。おまえとの買い物を楽しむために来ているのでな」

「うひひ、()()()()()()()()!」


 うわ! 嬉しすぎて、なんか変なお礼の言い方しちゃった「ありがとござます!」だなんて博士に笑われ……あれ? 博士はなんか()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいで、私の「ありがとござます!」には気づいてなかったみたい。はぁ、よかった。


「ふむ。このカメラは……」

「お! お客さん良い目をしているね。そのカメラはあの伝説の冒険家、ジョージ・ハーバード・ルー・マロリーがエベレストに持っていったカメラと同じ型で――」

「熱く説明してくれているところで申し訳ないのだが、これはマロリーのカメラではない。同系統のカメラであることは確かだが、彼が使っていたのはもっと後期に作られた別のモデルなのだよ。それに彼の名はハーバー()ではなく、ハーバー()だ」

「ああ、わかったわかった! それ以上いらんオタク知識を披露されると俺の商売が疑われちまう。¥3,000-で売ってやるからさっさと持って帰ってくれ」


 なんか腹が立つ人。でもこの人は壁の外から来てる人間判定の合格者だから、私はこの人を叩いてやることはできない。だって、コード404が出ちゃうから。(もちろん404が出なくてもいきなり叩いたりはしないけど。)


「見ろ、これは単玉のついているタイプだぞ」

「?」


 博士が買ったのは、薄い箱の蓋みたいなところをひっぱると伸びて、えっと、()()()()だっけ……なんかそういうのが出てくるとっても古そうなカメラ。家にもジャラバのついたカメラはたくさんあるけど、これは凄く小さいなぁ。なんかベストとかのポケットに入っちゃいそう。(私はベストは着ないけど、たまたますれ違ったおじいさんが着ていたから何となくそう思った。あれ、ベストってヴェストって発音するのが正しいんだっけ? ベストだと「一番いい!」とかそういう意味になっちゃうんだっけ?)


「これはな、ここを外すと――」


 クルクルと博士が外したのはレンズ? ん? レンズじゃない? なんだろそれ、金属の輪っかみたいな部品。なんかこのカメラのレンズの(落ち着いた)周りの金属の色(感じの金色)、私の腕の色に似てるなぁ。この色、ギラギラしてないし、アンティークな感じですっごく好き! うひひ、やっぱり綺麗だな私の腕。博士が毎晩磨いてくれるから綺麗に光を反射するし。あ、でもねあんまりたくさん反射はしないよ? なんていうかいい感じ。くすんでいるのとは違ってね、つや消しっぽいけどちょっと違う。とにかく落ち着いていて、ツヤツヤの金属みたいにいっぱいの光は反射しないんだけど完全に反射しないってわけではなく、優しくて本当に本当に綺麗で綺麗な感じで――っていけない! 博士の話の途中だった!


「――――と、いうわけで、このカメラはふわりとしたとても幻想的な写真が撮れるようになるのだよ」

「え、えっと、これは特殊なカメラなの?」

「いや、そういう意図で作られたわけではないのだがな。しかし楽しみだな、()()()()()は本当に素晴らしいと言うからな。127フィルム(ベスト判)を使用するからちょっと手間はかかるが……。それともレンズだけ外してデジタルでやるか? ああ、そうそうこのレンズには面白い呼び名があってな、プアマンズ・ヴェ――おっといけないな、この私が人間の作った工(この街で言って)業製品の固有名(はいけない言葉)を口にしそうになるとは。ふむ、どうやら興奮しすぎているようだな」


 よくわからないけどさっき博士が外した部品は、本来つけっぱなしにしておくべきものなのかな。それにしても博士、本当に嬉しそう。いいカメラ買えて本当に良かった。(博士がこうしてちょっと早口でたくさんしゃべる時って本当に機嫌が良いときだし。)


「ああ、そうだ。このカメラはおまえが稼いでくれた金で買わせてもらった。ずっと探していたものだからな、おまえにプレゼントしてもらったほうが私は嬉しい」

「うひひ! 博士ありがとう」

「礼を言うのはこちらだ。ありがとう」


 博士は私の背負ったカバンの中からタオルを取り出し、綺麗にそのカメラを包んでから、またカバンの中に入れた。それから私と手をつないで、騒がしい輸入市を一緒に歩く。

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