#70 決意
ラングはトッドギースの所へ向かっていた。
遠目ですでに広場が出来上がっているのが見えていた。
「おぉーい、こっちこっち!」
トッドギースがラングを呼ぶ。
「…王よ、こちらは話すという事で意見は統一された。私とソフィアで皆に話そう」
「うん、わかったよ。じゃあ全員ここに集めてもいいかい?」
「あぁ、頼む」
広場
簡易的にだが作られた壇上にラング、トッドギース、ソフィアが上がった。
「さて、全員納得するかな…」
「大丈夫でしょう、多分」
「多分じゃ困るんですけど……」
どことなく緊張してる三人。
更に緊張が増すかのようにタイミング悪くザリドとルードがその場に現れた。
「おっ?皆集めてんのか?ラング」
ラングは焦る。
「…ザリド、タイミング!!」
「え?」
ざわついたり武器を構えている人間達を見てザリドは全てを察した。
「これから話すところだったか…」
「そうだ、まぁいい。これで話しやすくなったかもしれん」
「…俺とルードは一旦どこか行くか?」
「いや、いいだろ。チマ達も呼ぼう。…王よ」
「…あぁ、キュベね。いるかい?」
「…はい、ここに」
キュベがトッドギースの影から現れたのを確認するとザリドが驚く。
「キュベ?そっちに?」
「…はじめまして」
キュベは礼儀正しく挨拶をした、しかし
「何でだよ!俺が紹介したんだろうが!ラング!どういうことだ?」
ザリドは一連の理解が出来なかった。
「キュベは王に忠誠を誓ったんだ。結果としては戦力に変化は無いから構わないと思ったしな」
「ま、まぁお前が良いというなら良いのか」
ザリドは無理矢理だが理解した。
その頃、壇上とその他では感情が違っていた。
ざわつく人々にソフィアはまず何を言うべきか迷っていた。
「あ!あの!えっと…」
当然声は小さく誰にも聞こえていなかった。
「…ソフィア、私から話そう」
トッドギースが前に出る。
「皆の者、聞け!」
一気に空気がピリつき、場が静まった。
「我々は大魔王ニールキースを倒すために集まった!」
「…いや、そこに魔物いるじゃないか」
「王は一体どうしたのだ?」
またざわざわと騒がしくなる。
「聞けと言っている!!」
その圧力に再度静かになった。
「勇者アーサーはニールキースを退けただけだった!そして今!ニールキースが再び攻めこもうとしている!」
大きな身振り手振りで話を進める。
「ここにいる勇者ソフィアと魔術師ナイアはそれに気付き旅を始めた」
聴衆はそれは知っていると言わんばかりの表情で魔物と一緒にいるラングを一斉に見ていた。
「…彼は魔法剣士ラング、と私は言っていた。しかしそれは違う。皆を騙していた事になっていた事を申し訳ないと思う」
「一体何者なんですか!」
「なぜ魔物と一緒に!」
「…もしかして魔物使い?」
「え?それは話だけで実在はしていないんじゃ?」
またざわざわと騒がしくなる。
「…魔物使いか、あながち間違ってはいないかもな?」
ラングばザリドを見るが
「ふざけるな、使われてるわけじゃねぇ」
「あぁ、知ってる」
「ったく!」
「ただ、ザリド。今から私が話すことには一旦乗っかってくれないか?今後の為だ」
「…わかったよ、俺たちを率いてみたいな話をするんだろ?」
「助かる」
「俺はニールキースさえ倒せりゃそれでいい、戦力も必要だしな」
ザリドはラングの少し後方に下がった。
そして王と目を合わせたラングは軽く頷き、一歩前へ出る。
「我が名はラング!魔族の王だ!」
魔力を抑え込む服を脱ぎ捨て、闇の魔力を前面に押し出す。
辺りは急に静かになった。
その場にへたりこむ者、武器を構える者、状況が理解できずに表情が無くなった者。
様々な様相がそこにはあった。
「…ほう、私を前にしてもまだ武器を構えられる者もいるか」
数人、表情を変えずにラングに立ち向かおうとしている者がいた。
「そこまでだ!」
トッドギースが大きな声で場を抑える。
武器を構えていた者達はその武器を下げる。
「…私はトッドギース王と共にニールキースを倒す!!」
ラングは右腕を高く掲げた。
「……」
「…え?」
ラングは戸惑った。
「……」
反応は薄かった。
「い、いや、え?」
ラングはここで歓声が沸くと思っていた。
ゆっくりとトッドギースの方に顔を向ける。
「…うん、気持ちはわかるけど説明が無さすぎるよ」
トッドギースはラングに近づいて肩に手を置いた。
「すまない…」
本気で申し訳ない気持ちになったラングは肩を落とした。
再びトッドギースが最前線に立ち、説明を始めた。
その間ラングは下を向いていた。
説明が終わった頃、遠くからアグワスが走ってくる。
「トッドギース王!以前王都に現れた魔族がこちらに来ています!」
「…ロキか!」
ラングはすぐに剣を手にし、戦闘態勢に入った。
「ふふふ、まとまってますねぇ。これは非常に好都合」
ロキが薄ら笑いを浮かべながら近づいてきた。
「いい加減しつこいぞ、お前」
「…えぇ、私も自分でそう思ってました。なので今回は本体のまま来てあげましたよ。前回までの私と思わない事ですね」
「それを差し引いてもお前バカか?」
ザリドがラングの前に出る。
「…は?今、なんと?」
「いや、こっちの戦力がわからないのか?」
「ふふふ、そんな有象無象が揃ったところで私には意味ありませんよ」
ザリドは少し苛立った。
「…そうかい、ラングとソフィア以外はいらないと。…ルード!キュベ!」
「我らだけで倒そうというのだな?」
「確かに今のは腹が立ちましたね」
ザリド、ルード、キュベの三人でロキの前に立つ。
「…キュベ、その喋り方は違和感しかない。戻してくれ」
そう言われたキュベはトッドギースを見る。
「…いいよ」
頷いたトッドギースに一礼をしたキュベ。
「ザリド、私には魔力強化ね。あと速さもよろしく!」
「おう、ルードは力と速さか?」
「そうだな、頼んだ」
「…よし!行くぞ!!ラングとソフィアは手を出すなよ!」
ザリドの指先が光る。
ルードはロキに向かい走り、キュベは空高く飛び上がった。
「ふふーん、図書館で読んだ魔法試しちゃおっと」
『サンダーボルト』
『フレイム』
『ストーンエッジ』
キュベは連続して三つの魔法を唱える。
雷を障壁で防いだロキだが炎と岩の刃で障壁は破れた。
「…ちぃ!」
そこに走ってきていたルードが棍棒を振りかぶる。
「…速さを強化してそれですか、遅いですよ」
ロキは後方に飛ぼうとするが、急にルードの攻撃が速くなった。
「ぐっ!」
振り下ろされた棍棒がかする。しかしそれでもダメージはそこそこあった。
「はっはっは!今、速度強化したんだよ!」
ロキから見て一番後方にいるザリドが笑っている。
「…なら!あなたからですね!」
ロキが高速でザリドに向かっていく。
そこに走る四つの影。
「やらせるわけないっス!!」
「我々が盾となる!」
チマを先頭にコボルド部隊がザリドの前に陣取る。
『フルアーマード』
鎧がチマを包む。
「だから何だというのです!」
ロキはそのまま攻撃を仕掛けるが、それを防いだチマにダメージは無かった。
「今ッス!」
上を向くチマ。
『風刃雷躯』
クロキサコンビがロキに突っ込んだ。
「ぐぅぅ…」
ロキはその場から離れる。
「なぁ、なんか弱くないか?」
少し残念な表情をしたザリドがロキを挑発する。
「…何ですって?私が弱い?」
ロキは眉が小刻みに揺れていたが、必死に怒りを鎮めるように話した。
「あれだろ?何回かラングに倒されてるから弱ってるんでしょ」
トッドギースが近付く。
「さて、私達も力を見せつけないとね。アグワス、イガヤル!」
「はぁぁーっ!!!」
槍を持ちながらロキに突進するアグワスと
『ウィンドカッター』
その後方から風の刃を飛ばすイガヤル。
二人の攻撃は空に飛ばれてかわされた。
「じゃあ…」
『ウォーターラップ』
水が空間に円形に現れロキを閉じ込める。
「…水魔法!?王よ!使えたのか?」
「精霊から貰えてたみたい。多分あの時いた皆使えるようになってるんじゃない?」
「そ、そうか」
「…キュベ!」
「はい!」
『サンダーボルト』
水の中にいるロキめがけて雷が落ちる。
ダメージは相当高かったようで、そのまま地面に落ちるロキ。
「…がはっ!はぁはぁ…。私としたことが戦力を見誤ってたみたいですね」
「…だから言ったろうが」
「出直すとしましょうかね…」
ロキは力無く立ち上がる。
「は?出直す?わざわざ本体で来て?ダセェ魔族だな!」
ザリドは全力で挑発する。二度と来れないようにするためにとどめを刺したかった。
「…ふっ、挑発には乗りません。それでは…っ!が!はぁ…!」
帰ろうとするロキの体を禍々しい光が貫いた。
その後ロキは姿を消した、いや、正確には朽ちていった。
「な!なんだ!」
ザリドは辺りを見渡す。
「この力…。ゲートだ!どこかでゲートが開いている!」
ラングは全員に知らせる。
「クロ、キサ、キュベは空を!力を感じるのは私がいる所から後方だ!」
「はい!」
クロを先頭に三人は飛び上がる。
「ソフィア、王は私と共に来てくれ!」
「わかったわ!」
「アグワス!周辺の警備を頼んだ!」
トッドギースはラングの元に向かいながらアグワスに指示を出す。
「了解!騎士団!」
そのままアグワス達王国騎士団は武器を構える。
「ザリド!最悪の場合、お前の能力強化が鍵だ!チマ達とナイアさんと共にいてくれ!ナイアさん、良いですか!?」
「あいよ!任せておくれ!」
「最悪の場合……、まさか!」
ザリドは身構える。
「ニールキースかい?」
「あぁ、しかし早すぎる!まだ半年以上はかかるはずだった!」
「…来たわけではないんじゃないかい?」
「え?どういうことだ?」
「ラングさんはゲートと言ったが大きなゲートの気配は無い」
「…攻撃だけしてきたって事か?」
「そう」
「それはそれでやばそうだけどな」
「しかし逆に言えばまだそれしか出来ないとも考えられる」
「確かに…。今ので復活中の魔力を使ったとも考えられるな」
クロが空から声をかける。
「ラング様!あそこです、木の下!小さなゲートがあります!」
クロの声を聞いたラングはソフィア、トッドギースと共にその木の近くへ向かった。
そこには小さくだがゲートが開いており、奥にはニールキースが座っていた。
「やはり!何をしておられる!父上!」
「ふっ!それはこちらの台詞だ、ラングよ。その横にいる人間は何だ?」
「勇者と人間界の王だ」
「…つまり私とたがえると?」
「魔界から出る時はそんな思いは無かった。しかしルードやザリド、彼らは何なのだ!」
「奴等は実験台だ。私の思想のな」
「…何を企んでおられる?」
「簡単な事、より優れた魔族を作り出し人間界を手に入れる事だ」
「人間界を手に入れたい理由は?」
「魔界はそろそろ限界を迎える、滅びるのだ。だから魔族が住むための世界が新しく必要なのだ」
「…どういうことだ?」
「滅びると言ったが?」
「そんな話は耳にしたこともない」
「話していないからな」
「それを止めようとは考えなかったのか?」
「原因がわからんのだ、考えようがない。それよりも新しい世界を手に入れた方が手っ取り早いだろう」
「…なんと身勝手な」
「ふん、言っておけ。しかしお前が私と戦えるのか?」
「どういう意味だ?」
「お前の力は私よりも弱い、しかも何も通じないぞ」
「通じないのはお互い様では?」
「ふっ、お前には無い力を私は持っているのだよ」
「何?」
「はっはっは!まぁいい。今日はロキを処理することが目的だったからな。このままゲートを閉じるとしよう」
「待て!処理とは何だ!!ロキを呼び寄せたのはあなたじゃないのか!!」
「ん?何を怒っている?」
「何をだと?仲間の命を何だと思っている!」
「仲間?はっはっは!仲間か!お前こそ何を言っている。我は大魔王だぞ?魔族は私が生かしているのだ、仲間などではないわ!」
「……決意したつもりがあなたを前に少し気持ちが揺らいだ。しかし今はっきりとあなたを倒す決意が出来た!私はあなた、いや、貴様ニースキースを倒し魔界も人間界も救ってみせる!!」
「…ふん!そんなことが出来るのか?」
「出来るさ!勇者と人間界の王、私。出来ないことなど何もない!!」
「では見せてもらおう。私はあと二ヶ月もあれば完全に回復出来る」
「二ヶ月…」
「ハハハ!もう臆しておるか!」
「違うさ、随分とかかるなと思ってな」
「…まぁいいだろう。我が息子よ、私を止められると言うなら止めてみせよ!」
「ふっ!止めるのではない!あなたを滅してみせよう!」
「……ふっ、はーっはっはっはっは!!」
ニールキースの笑い声と共にゲートは閉じていった。
「ラング…、いいの?お父さんなんでしょ?」
ソフィアは悲しそうな表情で話しかける。
「…あぁ、構わない。この世界に害を為すと言うのであれば私の敵だ」
「……うん」
「ソフィア、これからずっと私と共に戦ってくれないか?」
「これからずっと?」
「…嫌か?」
「……ううん!ラングには私の光の力が必要だからね!」
「あぁ!頼んだ!」
「うん!」




