#1 魔王は人間界に行きたい
魔王城
禍々しい気に覆われた巨大な城、その城の最上階の奥にある部屋こそ玉座の間。
仰々しいデザインだがこれは魔力増幅装置を付けた玉座である。
座っているのは大魔王ニールキース。
大魔王は約100年前に人間界を占領しようと乗り込んだが、女神の加護を受けし勇者と闘い、精霊の力を付けた聖剣で肩から胴まで切られ、魔力を封印されてしまった。
かろうじて魔界に逃げ込んだニールキースは自分の魔力を少しでも出し、ケガを治すことに専念した。
それがこの玉座である。
ある日ニールキースは魔王ラングを呼び出した。
「ラング、ただいま参りました」
魔王ラング、ニールキースの息子でありニールキースを越えるほどの魔力の持ち主。
外見は長身で細身だが端正な顔立ちや鋭い目つきから貫禄のある出で立ちとなっている。
「よく来た、ラング、貴様に頼みたいことがある」
ラングは何を頼まれるかある程度予想はついていた。
「はっ、何でごさいましょうか」
「私はあと少しで傷が癒える、1年も待てば魔力も回復するだろう、さすればまた人間界を我が手中に納めたいと思っておる」
ラングの予想は確信に変わった。
「そこでだ、以前は何の情報も無しに人間界を攻めた結果私はこうなった、だから貴様には一足先に人間界に行き情報収集を頼みたい」
ラングはニヤリと微笑んだ。
「はい!!大魔王様がそう仰られると思い、準備は完璧にしております!!大魔王様さえ良ければ明日にでも向かう準備は整えております!」
ニールキースは驚いた。
「ほぉ!私の思うところを読んでおったか!!よろしい、人間界に行った後は貴様に任せても良さそうだな」
ラングは自信満々に笑みを浮かべた。
「吉報を待っておるぞ!」
「はっ!!」
ラングは自室に戻った。
周りを見渡し誰も見てない聞いてない事の確認をした。
そして
「キャッホォォォォイィィィィィ!!!」
ラングは狂喜乱舞状態になった。
「人間界に行けるぜぇぇ!!」
そう、ラングは人間界に行きたくて仕方がなかった。
人間界の食べ物やお祭り、いや、それ以上に魔界より発展していた人間の生活というものに憧れを抱いて生きてきた。
「よし、もう早々に出発の準備を進めなければ!」
かくしてラングは人間界に向かうことになる。
将来自分が人間界と魔界を結ぶ存在になるとも知らずに……。
しかし、実際は何の準備もしていなかった。