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グータレ・ヌーボー  作者: 地輿
10/10

第9話 ― Let's スポーツ

『キィーン!』


「レフトー!行ったぞー!」

「オーライオーライ!」


 バットに打ち返されたボールは落下地点に先に入ったレフトの守備に就いていた奴のグローブにすっぽりと収まり、それと同時に片方からは歓声、もう片方からは嘆息が起こった。


「ふわぁあ~…」


 俺はそれをグラウンド全体を見渡せる、屋外倉庫の屋根の上に寝転がって見ていた。

 ゴールデンウィーク直前の金曜日、球技大会と称したソフトボールが行われている。全学年対抗のトーナメント戦だ。ご苦労なこった。

 全学年対抗と言うだけあって、各クラス2チームも作ってるもんだからとんでもない試合数だ。俺らのクラスの試合はまだ先だが、とてもじゃないがやってられん。早々にボイコットしてここに来てるという訳だ。


「ふわぁあ~…」


 ただでさえ睡眠時間を授業中にとっていると言うのに、こんなことしてたら寝るタイミングなんか皆無に等しい。俺は正々堂々と睡眠時間の確保を訴えたい。


「あ、いたいた。真琴ー」


 うげ、俺の休憩時間が…

 聞きなれた声。屋根の上から下を覗くと、呆れた顔をした辰巳が両手を腰にあてながらこちらを見上げて立っていた。


「まーたサボってんのかお前は」

「『また』って何だよ。『いつも』って言え」

「うるせえ、『久慈川知らない?』って真っ先に訊かれる俺の身にもなれ」

「恩着せがましく言うなよ。第一、何で辰巳が俺を探してんだよ」

「クラスの奴が探してたぞ、予定がずれて試合時間が早くなったらしい」

「パス、代わりに出てくれ」

「あのなぁ…」


 辰巳はそう呟くと、俺が登ってきた時と同じように雨樋(あまどい)と取付金具をつたって屋根の上にあがってきた。


「たまには体動かすのだって悪くないだろ?」

「生憎、辰巳みたいなスポーツマンとは程遠くてな。身分相応のことやってるだけなんだよ」

「カッコつけて言ってるけど、要するにサボってるだけじゃねえか」

「ご名答」

「この捻くれモンめ」


『キィーン!』


 手前のコートで行われている試合で快音ともとれる金属音が聞こえた。

 高く上がった球をセンターが必死に追うが、ボールは守備の頭上を越えてグラウンドに落ちる。

 そしてダイヤモンドを周っているのは… 女子生徒?


「おっ、すげー。ソフトボール部の子かな」


 辰巳もその様子を見ながら感嘆の声をあげた。


「トーナメント表持ってないのか?」

「あぁ、そう言えば貰ってたな。ちょっと待てよ」


 辰巳は後ろポケットに差していた今日の日程表を掴み出すとゆっくりと広げながら、時間とコートが印字された部分に目を落とす。


「えーと、ここのコートは…。あぁ、1-Eと3-Aがやってるな」

「1-E?」

「そう、1-E。あれ?」

「1-E…」

「…って言うと」


「「まさかな」」

「ナーイス和泉嬢!」


 俺と辰巳が顔を見合わせて声を揃えた瞬間、そんな声が下から聞こえてきた。そんな呼ばれ方をしてるのはこの学園で一人しかいない。


「当たり前よ、私を誰だと思ってるの。それから軽々しくハイタッチを求めないで」


 フンッと荒々しく息を吐いている和泉さんがチームメイトに囲まれていた。


「和泉さん、ソフトボール部来なよ。きっといい選手になれるよ」

「生憎だけど、私にその気は無いの。ごめんなさいね」

「えー、そんなー」


 おやおや、いつものことながら絶大な人気のご様子で。


「和泉さんまだ部活入ってなかったよな、いいパワーしてるな」

「センスがいいんだろ」


 辰巳もその場に腰を下ろし、俺もうつ伏せの体勢に移ったその時だった。


「あっ、ねぇねぇ、あれ成瀬先輩じゃない?」

「あ、ほんとだ!成瀬せんぱーい!」


 和泉さんのクラスメイト数名が辰巳に気付き、名前を呼びながら大きく手を振り出した。


「げっ」

「よー、有名人。手ぐらい振り返してやったらどうだ」


 顔をしかめる辰巳を全力で茶化す。この男、以前にも言ったが顔もよく人当たりもいいので男女問わず人気が高い。

 最近では1年生の女子からの人気がうなぎ上りだそうだ。精々バラ色の学園生活でも送るんだな。


「他人事だと思って…!」

「他人事だからな」

「このやろっ」


 今にも飛びかかってきそうな辰巳から目を逸らすと、今度は和泉さんと目が合った。和泉さんはクラスメイトの輪から抜け出し、こっちに向かってゆっくりと歩いてくる。


「真琴さん、成瀬さん、おはようございます」

「ん、おはよさん」

「や、和泉さん」

「いつからそこにいたんですか?」

「開会式始まる前後ぐらいからずっと」


 そう言い返すと、途端に和泉さんの顔がパッと明るくなり、手をパンッと打ち鳴らした。


「じゃぁ、さっきの私の打席見てくれてました?」

「あー、うん、見てたよ。凄かったね」


 それを和泉さんに伝えながら先ほどのホームランを思い返す。と言っても、打った瞬間を見た訳じゃなかったけど。


「そ、そうですか?」


 両手を頬に当てて表情を崩す和泉さん。何を照れてんだか。


「そんなことより、真琴さんの試合はまだですか?」

「俺?試合はまだらしいけど、面倒くさいからサボって──」

「そうだ、和泉さん。真琴の試合にコイツ応援してやってよ。そうすれば活躍すると思うよ」

「…は?」


 何を言い出すんだこの阿呆は。そんなこと言ったら──


「それいいですね、そうと決まればこんな試合すぐに終わらせてきますねっ」


 辰巳の提案を疑うことなく鵜呑みにした和泉さんはその勢いのまま試合に戻っていった。張り切る和泉さんを止められなかった俺は、恨めしげに辰巳を睨み上げる。


「辰巳ぃ…」

「そう怖い顔すんなって、そうでもしないと動かないだろ」


 だとしても他のやり方っていうのがあってだなって、えぇい、このやろう。俺はぶつけようのない、このもどかしさにどうしようもなく頭を掻きまわした。とは言え…


「仕方ない、それまで寝るか…」

「俺は真琴のその頭の切り替えの速さにビックリだよ」


 やかましいと心の中で毒を吐きつつ、数十分後には来るであろうクラスの迎えを寝て待つことにした。


「ふわぁあ~…」


 久々に手で隠しきれないぐらい口開いたな。


「おい久慈川、欠伸してないでこっち来いって。今から打順とポジション決めるんだから」


 結局10分もかからない内に迎えがやってきて、一番気持ちいいときに強制的に連れてこられた。大が付くほど迷惑な話だ。薄っすらと目を開けると今回のチームであろうクラスメイト達が円になって、残る一人の俺へと顔を向けていた。やめろ、そんなに見られると照れるだろう。

 クラスを半分に分けたところでざっと20人。選手は9人しか出れないんだから俺を頭数から抜きゃいいんだ最初から。

 ま、そんな文句もわざわざ言うつもりないし、俺はのそっと立ち上がってクラスメイト達の円に近づいた。


「よーし、全員集まったなー」


 ちなみに、今この場を仕切っているのはクラスの野球部らしい。ま、当然といえば当然か。


「この野球大会、やるからには優勝目指すぞ。それで守備には9人しか出れない訳だけど、運動神経がいい人を守備に回すつもり。野球部やソフトボール部の人間は当然だけど、運動部って今この場に何人いる?」


 次々に手が上がり、それを数える野球部。


「俺入れて丁度8人か… あと一人、残りのメンバーから選ばないとダメなんだけど…」


 何だ、意外と運動部少ないな、うちのクラス。あ、でも半分に分けてるからそんなモンか。俺は欠伸をする為に息を大きく吸い込んだ。


「あ、久慈川とかどうよ?」


 息が止まった。

 欠伸の肩透かしを喰らった俺は野球部に顔を向ける。


「勝ちにこだわるんなら俺を選ぶの間違いだろ。女子の3分の1しか力出ないぞ俺は」

「どんだけ貧弱だよ。しょうがない、お前とかどう?」


 すぐさま俺を選択肢から外した野球部は別のクラスメイトに声をかける。それから二言三言、言葉を交わすと、どうやらそいつに決まったらしい、ポジション欄に名前を書き込まれていた。


「あー、それから必ず一人1回は打席に入ってくれよ。今回のルールらしいから」


 あぁ面倒くさい。せっかくこっそりと抜け出せると思ってたのに。


「整列ー」


 すると、ホームベースの前で審判役の3年生が声を張り上げた。皆が駆け足の中、俺はいつも通りトボトボと歩いて整列に向かう。相手は1年生かな?


「それではこれより、2-Cと1-Eの試合を行います。礼っ」

「「お願いしまーす」」


 何だ、和泉さんのクラスだったのか。中央で礼をしてから握手のために右手を差し出した。


『グッ!』

「っつ!?」


 すると突然右手に痛みがこみ上げた。

 眠気が一瞬で覚め、その手の持ち主に目を向けると和泉さんのクラスメイトであろう男子生徒が俺の顔を見ながら薄ら笑いを浮かべ、口を開く。


「よろしくぅ」


 ………。

 おいおい…


 右手をさすりながらベンチに戻る途中、ちらりと後ろを振り返ると、さっきの男子生徒がピッチャーマウンドで肩をぐるぐると回していた。訊くだけ訊いてみるか。


「おい、野球部」

「名前で呼んでくれよ、どうしたんだ?」

「あの1年、知ってるか?」


 俺は肩越しに彼を指差した。


「ん?あぁ、野球部の後輩だよ。中学の時にピッチャーやっててさ、いいセンスしてんだ」

「ふーん」


 それだけ分かれば充分だった。まだ何か言ってくれてるみたいだけど興味ない。


「真琴さーん」

「ん?」


 声を掛けられて今度はそっちに顔を向けると、和泉さんと辰巳が一緒に並んで俺たちのクラスのベンチ後ろに立っていた。


「和泉さん、ベンチ間違ってるんじゃない?1-Eは向こう側だけど」

「何でですか?私は真琴さんを応援しに来たんですけど」


 和泉さんはキョトンとした表情でそう言い返す。

 なるほど、彼女の頭には同じクラスの応援というものは存在しないらしい。いや、実に彼女らしい。


「そ、好きにしなよ」

「真琴、どこかの守備つくのか?」

「そんな訳あるか」

「即答かよ、おい」

「残念です、真琴さんのカッコイイ姿が見れると思ったのに」


 和泉さんが拗ねた表情で口を尖らせる。


「余計なもの期待しなくていい。それに、このチーム優勝狙ってるらしいから俺から外れたんだよ」

「確かに、真琴とは無縁の二文字だな」


 辰巳は腕を組んでそう笑い飛ばした。


「で、和泉さんはちゃんと勝ってきたの?」

「まさか、その反対です。負けてきました」

「何で?」

「だって、そんなことすると次の試合があるじゃないですか」

「トーナメントってそういうもんだからね」

「そうしないと真琴さんの試合をゆっくり見れないでしょ?」

「……あぁ、そう」


 自分にしては珍しく反応が数秒ほど遅れた。

 それに辰巳も勘付いたのか、和泉さんの隣でニヤニヤと笑う。笑ってんじゃねえぞ。


「ま、好きにしなよ…」

「はい、だからここで一生懸命応援してますから頑張ってくださいね、真琴さん」


 回ってくるかどうかも分からん出番に全神経を集中させにゃならんのか。コイツは骨だな。


 そうこうしている内に試合はとっくに始まってたらしく、それどころか三者凡退で攻守交替していた。

 相手側の例の男子生徒のコントロールがいいのか、うちの連中は手も足も出ず、最終5回までヒット2本に終わっていた。

 現状の結果は2対0でこっちが負けている。既にツーアウト、終わったかな。


「久慈川、打席立つか?」


 野球部が半分諦めた様子で俺に声を掛けてきた。


「あー、別にいい。他の奴ら打たせてやれよ」


 それを俺はベンチの背凭れに全体重をかけながら右手をぶらぶらと振って断る。


「おいおい、見せ場無しだぞ?」

「何だったら私言ってきましょうか?」

「こらこら、ただでさえ自分のクラスの応援を外れてるんだからそういうこと言うのはやめなさい」


 冗談にもならない冗談が和泉さんから聞こえてきた。しかも彼女なら本当に言いかねない。円滑に行事を進めるなら彼女は抑えつけておいてもおかしくないんじゃないか。


 ところがここで思いもよらないことが起こった。4回まで一度も無かったフォアボールが三人連続で続き、あっという間に満塁になっていた。

 おい、ちょっと待て。その順番だと…


「久慈川!チャンスだぞ!!」


 さっきまで諦めモードだった野球部の顔がうってかわって、期待の眼差しでこっちに目を向ける。


「ほら、バットもって早くバッターボックス行ってこい!」


 まだ一言も喋ってないのに野球部は俺にバットを持たせると、背中を叩いてベンチから追い出した。


「おっ、打てよ真琴ー」

「真琴さん頑張ってー」


 外野は呑気なもんだ。これっぽっちも参加するつもりなかったのに、まったく…



「どーも」


 俺はトボトボと脱力感を目一杯に出して打席に向かい、キャッチャーに軽く頭を下げてバッターボックスに入る。

 さっきまでマウンドを蹴っていた例の男子生徒が顔をあげて俺の姿を確認すると、またあの薄ら笑みを浮かべた。


「プレイッ」


 審判の声で試合再開。ピッチャー振りかぶって…


 振りかぶって?



『ビュンッ─』


『パァンッ!』


 ボールは俺の顔のすぐ横を通り、キャッチャーミットに収まった。


 危険球ビーンボール──。


 誰が見ても明らかだった。コート全体にどよめきが起こる。理由は恐らく二つ。今の今まで下投げだったのが急に上投げに変わったこと、それから、危険球に対して俺が微動だにしなかったこと。


 呆気に取られて動けなかったのは内緒だぞ。あー、びっくりした。


「バ、バカやろう!どこ投げてんだよ!下投げだって言ってんだろ!?」


 そう大きな声をあげたのは俺の後ろで間一髪ボールを捕ったキャッチャーだった。

 俺が一度キャッチャーの彼に目を落とし、それから反対方向に顔を動かすとグラブで鼻から下を覆いながら例の男子生徒がこっちに向かって走ってきていた。


「すいません、大丈夫ですか?」

「別に、特に問題ないけど」

「そうですか、よかった」


 男子生徒はホッとしたような表情を浮かべたかと思いきや、スッと俺に顔を近寄せ──



「本当は狙ってたんだけどなぁ、あんたの顔面」


 その顔は今日で三回目となる薄ら笑いだった。


「前からムカついてたんだよね、あんた。和泉は俺が狙ってたのによ、急に横から出てきやがって」


 再びグラブで顔を覆い、男子生徒は続ける。


「さっきのボールもビビれよ、つまんねーな。どうせだから和泉の目の前で恥掻かせてやるよ。せーぜー頑張れよ」


 それだけ言い残し、彼はマウンドに戻っていった。


「………。」


 うわぁ…

 俺は瞬きを数回、それからこめかみ辺りを人差し指で掻いた。


「プレイッ」


 二度目の審判の声、今度はアンダースローのモーションになる。少し様子見るか。


『ビュンッ!』

『パァンッ!』

「ストライーク!」


 今度はちゃんとストライクゾーンにボールは収まった。ただ…

 めちゃくちゃ速えーじゃねぇか。さっきまでそんなんだったか?そうすると、さっきの危険球はわざとだろうか。ソフトボールをあの球速であのコース、なるほどセンスは確かに良さそうだ。


 マウンドの上で、彼は再びあの薄ら笑みを浮かべる。まるで打ってみろと言わんばかりのように。


『和泉は俺が狙ってたのによ──』


 ………。


 彼がモーションに入り─


『ビュンッ!』


『ブゥンッ!』


 彼がボールを投げると同時に俺も投げた。


 …バットを。


『コカーンッ!』


「ッおっぶぇッッ!!?」


 スイングしてすっぽ抜けたかのようにして俺の手から離れたバットは遠心力によってブンブンと回転しながら一直線に男子生徒に向かっていき、投げ終わると同時だったために無防備となっていた下腹部、と言うか股間に直撃した。

 鈍い音とともに、男子生徒は叫び声とも何とも言い表せない短い声を発して膝から崩れ落ちる。


「おっ、おい!大丈夫か!?」

「あ゛ぁっ…!がぁっ!う゛えぇぇぇ…!!」


 クラスメイトの男子が駆け寄って彼を介抱するが、男子生徒は両手で股間を押さえながらマウンドの上で体を縮ませ両足でバタバタと地面を蹴りながら悶え転げる。

 同じ男として想像を絶する痛みなんだろうが、生憎放り投げたバットが股間を直撃した経験がないので共感はできない。


「キン○マか!?キンタ○当たったのか!?」

「……ッッ!!!」


 当たった箇所について、周りを気に留めず大声で確認する男子生徒のクラスメイトと、声も出なくなり背を上にして体を縮こめた状態のまま時折体をビクンと震わせる男子生徒。

 その光景が男子生徒のクラスメイトの言った言葉をよりリアルに表してしまい、事態を完全に周知させてしまう結果となった。


「はっはっは!いってー!」

「ヤベーって、あれは痛いって!あっはっはっは!」

「ヤダー、かわいそー、アハハッ!」


 本人からしたら生死の境を彷徨っていたとしても傍から見たらオモシロ出来事になっているらしく、男女問わず可哀想とは思いつつその悶え転げる様が可笑しいのか、周りからも笑いの声が上がる。

 誰かの「打つのはそっちの『タマ』じゃねーよ!」という下品な冗談がトドメとなり、ドッと大きな笑い声に変わった。


 しばらく試合は中断していたが、結局その男子生徒は自力で立ち上がることができず、最終的に担架で保健室へと運ばれていった。

 運ばれていく道中、知らない他の生徒に『何があった』と注目され、続けてその理由を知られるや否やクスクスと笑われていた。奇しくも彼が俺に言い放った『どうせだから和泉の目の前で恥掻かせてやるよ』が自分自身に、更に全校生徒の前でという形で返ってきたわけだ。

 後日談だが、彼はしばらくの間『タマバット』という不名誉なあだ名をつけられてしまったらしい。


 その後、上級生の審判から危険球に対する報復か?と問われたが、野球をあまり知らないから剛速球に対応しようと早目に振ったら手からすっぽ抜けたという咄嗟のごまかしで事無きを得た。

 まぁ、普段の俺の様子でスポーツに精通しているとは思われなかったのだろう。日頃の行いは大事だな、とつくづく思う。


 それからして、ピッチャーは交代し俺はバットを振ることなくフォアボール。次のバッターがヒットを打って逆転勝ちとなった。


「あっ、真琴さんっ」


 試合後、誰にも気付かれないようにサボりに行こうとした瞬間、和泉さんに見つかり思いっきり呼び止められた。


「和泉さんか…」

「何処行くんですか?」

「一人で静かに過ごせるところ」

「私も行きます」

「いいの?さっき事故とは言え、君のクラスメイトが保健室送りになってるんだけど」

「あぁ、あの運ばれていった人のことですか?特に興味ないわ」


 それとなしに彼の話題を振ってみたが、和泉さんにとっては眼中に無かったらしい。一瞬悪いことしたなと思いつつ、あんな本性があるんなら潰しておいて正解だったかも知れないな。そう思うようにしよう。


「ふわぁあ~…」


 欠伸をひとつ、屋上へと向かって足を進める。隣に余分なオマケを連れながら。


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