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ゴブリン

 ちょっくら時間が飛んで、既に異世界生活は20日目である。

 そろそろ日数を数えるのが面倒になってきたなー。

 当然ながら今は難民キャンプ暮らしでは無い、格安の宿屋暮らしだ。


 生活は狐っ娘のおかげで安定している。

 宿にも泊まれるし、食堂で飯も食える。

 替えの服やちょっとした生活用品なども、少しずつ手に入れている


 変わらぬ日々が続くかと思えたのだが、この日異変があった。


 蟻たちの様子がおかしいのだ。

 昨日までは普通に行進させながら文字や模様を描いて遊べていたのに、昼頃から急に動きが鈍くなった。

 ミスも多くなり、ちょっと心配である。


 蟻たちはだんだんと動きが鈍くなり、黒かったその体も茶色になっていく。

 夕刻には動かなった蟻たちは、最後に砕けて土となった。


 土となった蟻をじっくりと見てみたら、ちっちゃい砂粒のような物がたくさんあった。

「なんだ? これ?」

 指を伸ばすと、俺の中のどこかにその砂粒が入って行くのが判った。

 入って行ったのは『蟻の種』であった。


 1匹につき10粒の種、蟻は100匹いたので種は全部で1000粒だ。

 この種を育てれば一株に10個の実ができると計算して、俺は10000匹の蟻の軍団を手に入れられるのだ!

 ……凄いけど、特に役立つ気はしないな。


 蟻の種は、俺の中のどこかに収納されているようだ。

 たぶん【魂の刻印:農神】の能力だろう。


 てか収穫した蟻に、種なんてあったのか……。

 ということは、狐っ娘にも種があったりするのか?

 ついでに思い出したけど、俺の中には狐っ娘の魂が収納されている。

 この魂って、収穫した狐っ娘の体に入れたりできるのだろうか?


 気になってしまったので、試してみることにしよう。


 隠れ家で待機中の、一番近くにいた狐っ娘を外に連れ出す。

 毎日俺が出す農業用水のシャワーを浴びているので、モフモフはけっこう清潔である。

 さて、実験を開始してみよう。


 俺の中から狐っ娘の魂を取り出して、目の前にいる狐っ娘の体に入れてみる……。

 文字にするとややこしいな。


 狐っ娘の魂は、あっさりと体に入っていった。


「おぉー! 生き返ったコン!」

 これが魂の入った狐っ娘の、第一声であった。

 あー……語尾、コンなんだ……。


「喋れたのか!?」

 コンしか言えないのかと思ってたさ。

「もちろんだコン! タッキはおしゃべりできるんだコン!」

 だそうだ。

「一応聞いておくけど、タッキというのは名前か?」

「そうだコン、タッキというのはタッキの名前だコン!」

 やっぱりそうなんだ。


「あ、そうだコン」

 狐っ娘――タッキが、急に居住まいを正しておじぎをしてきた。

「しんせつな人間の人さん、生き返らせてくれてありがとうだコン!」

 うん、そう言われたけどな……。


「いや、別に生き返らせようとしたつもりはなくて、ちょっと試したらこうなっただけだから」

「そうなのコン!?」

「そうだよ」

 ちょっと考え込む狐っ娘――タッキ。


「でもやっぱりありがとうだコン。人間の人は人間なのにいい人だコン」

 再び頭を下げられてしまった。

「良吉だ」

「コン?」

 首を傾げるタッキ。


「俺の名前だ。田畑良吉、それが俺の名前だ」

「リョーキチ?」

「そうだ」

「じゃあタッキはリョーキチにお礼をしなきゃだコン! 森の中で何か見つけてくるコン!」

「あ、ちょっと待て! 昼間にチョロチョロ動き回ったら誰かに……」

「行ってくるコーン!」


 行っちまったか……。

 てか魂入れると、言うこと聞かなくなるのな。

 頼むから見つかるなよー。


 …………


「なんか出たコーン!」

 タッキが戻ってきた……てか、早々と見つかってんじゃねーよ!


 タッキの後ろを追いかけているのは、緑色の小柄な人型の生き物。

 なんだ? あれは……。

「ゴブリンだコン! 助けてだコーン!」


 へぇー、あれがゴブリンか。始めて見た。

 この辺にもでるんだなー。

 ……と、見物している場合じゃ無いな。

 短剣とか持ってやがるし、これヤバくないか?


「リョーキチさん! 助けてだコン!」

「俺の後ろに隠れるんじゃねーよ!」

 ゴブリンがどんどん近づいてくる、ヤバいよ!ヤバいよ!


 俺は戦いなんて出来ねーんだぞ!

 そもそも武器も防具も持って無いし、たとえファンタジーの設定だと最弱モンスターのゴブリンでも、どうにかできる気がしねーし!

 でもどうにかしないと!


 何か手は無いか! 何か!

 うおおぉぉー! なんかポケットの中を必死に探しているネコ型ロボットの気分だぜ!


 あ、思いついちゃった。

 使うのは【魂の刻印:農神】の農業用水。

 いつもシャワー代わりに使ってるやつ。

 無限に出せるこの農業用水を水量増やしてぶつければ、押し流せるはず!


「くらえっ! 農業用水(アグリウォーター)!」

 やべぇ! なんで俺はこんな厨二な叫び声を発してしまったのだ!

 すんげー、こっ恥ずかしい……。


 でも効果はあるようだ、ゴプリンが怯んでいる。

 消防の放水車並みの水量をぶつけているので、少しずつ後ろに下がって行っている。

 というかこれ、放水に溺れかかってないか?


 そういえばこの農業用水って、自由自在に流れを操れるんだよなー。

 試しにこのゴブリンを水で覆ってみたらどうなるだろう?


「あ、やっぱり溺れた」

 ゴブリンは苦しそうにもがいて……やがて動かなくなった。

 死んだかな?


 近づいて(つつ)いてみる。

「おーい、生きてるかー」

 へんじがない。 ただのしかばねのようだ。


「リョーキチさん、すごいだコン!」

「まぁな」

 我ながら本当に凄いな。

 これって呼吸する生き物相手なら、俺ってば無敵じゃね?


 いや、慢心はいかん。

 今回は一対一、しかも相手はゴブリンだったから勝てたんだ。

 対多数、対強者にも通用するとは限らない。

 何より俺の防御は紙なのだ、遠くから弓矢で狙撃されるだけで殺されかねないのだ。


 てなわけで、この屍になったゴブリンを護衛にでも使おう。

 方法は簡単、地面を掘り起こして埋めるだけ。

 ゴブリンの実は一株にいくつ生るだろう?


「ゴブリンのお墓だコン?」

「違うよ、ゴブリン畑だ。明日には芽が出て、たぶんニ三日でゴブリンの実が収穫できるぞ」

「コン?」

 首を傾げているが、理解できなかったか?


「うそだコン! タッキは知ってるんだコン! ゴブリンは畑で収穫できないんだコン!」

 あーそこかー。

 うん、ちょっと待ってろ。


 隠れ家で待機していた、狐っ娘たち5人を外へ連れ出す。

「ほれ、これは何だと思う?」

「タ……タッキがたくさんいるコン……」

 驚愕で固まるタッキ。


「これはお前の死体を畑に埋めて、俺が収穫した量産型タッキだ!」

「りょうさんがたタッキ……だコン」

 思わず量産型とか言ってしまった。

 てか今、語尾にコンをつけるの忘れてたろ。


「じゃあ……じゃあ本当に畑でゴブリンが収穫できるんだコン?」

「さっきからそうだと言っている」

「タッキにも収穫できるコン?」

「それは……」

 考えて無かったな。

 試してみることにしよう。


「そうだな。判んないから試しにやってみるか? やらないなら量産型にでも……」

「やるコン! やってみたいコン!」

 かぶせ気味にタッキが手を挙げてきた。


「そうか、じゃあやってみろ」

「コン!」


 自分でやりたいと言ってるのだから、やらせてやろう。

 とにかくこれで、量産型ゴブリンという戦闘力を俺は手に入れられるはずだ。

 ついでに魂を入れたらどうなるか、という実験もできた。


 明日にはゴブリンの芽が出るだろう。

 そうだ、蟻の種も蒔いておこう。10000もの蟻の軍団を、俺が率いるのだ!

 役に立つ気はあんまししないけど。


 さて、それはいいとして……。


 この目の前ではしゃいでいるタッキは、どうすれば良いのだろう……。

お待たせしました、女の子キャラです。

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