モフモフ
とりあえず6匹……じゃない、6人の狐っ子の隠れ家は確保した。
どうも見た目が歩く狐だから、つい匹とか数えがちになってしまうな。
気を付けようっと。
一旦街へ戻って、薬草を納品。
袋に入りきらなかった分は置いてきた。
そのまま別な採取依頼を物色すると、クナル草という毒消しや病の薬に使う草の依頼が目についた。
薬草のようにそこいらにたくさん生えていないし使い道も多いので、同じ量でも金額は10倍以上。
薬草採取と同じ大きさの袋に詰め込んで、一袋で900ギニスという品である。
あの子たちなら、一日で一袋とかいけるんじゃね?
あぁ……これなら難民キャンプを追い出されても、なんとか生活できるかもしれん。
昼からは、クナル草の採取依頼を受けてみることにしよう。
…………
というわけで、昼からはクナル草の採取だ。
採取するのはもちろん狐っ子たちがメインである。
頼むぞ! 俺はたぶん大して役には立たないからな!
うん、ちょっと情けないなこれ。
6人全員を引き連れて採取に出ると、ちょこちょことクナル草が溜まって行く。
もちろん全て狐っ子たちの手柄だ。
俺はただの袋持ち係である。
半分ほど溜まったところで、一人の狐っ子が後ろを振り向いた。
何事かと後ろを振り向いたら、遠くの方に人影が見えた。
「ヤバい! みんな隠れろ!」
素早く隠れる狐っ子たち。
人影が近づいて来た。
俺は『ここは俺のナワバリだ、こっちくんな!』と、口には出さないが態度で精一杯威嚇する。
狐っ子の死体の首を切り落としていた奴のマネだ。
近づいて来た奴は、いぶかし気な顔をしながらも、争いを避けて別方向へと行ってくれた。
「良かった……もう出てきていいぞ」
そう言うと、狐っ子たちがゾロゾロと姿を現す。
「じゃあまた、採取の続き頼むな」
「コン!」
再び採取を開始した狐っ子たちであったが、これはちょっと不安だな。
このまま毎日採取を続けていたら、いつか誰かに見つかりそうな気がする。
ふむ……。
夜なら大丈夫かな?
狐は夜目が効くはずだから、夜の人気のない時間帯に採取をさせる。
あとは俺がそれを袋に入れるだけ。
獣人奴隷なら同じく夜目が効くはずだから夜の採取をしているかもしれないが、基本奴隷の首輪をつけられている者は命令以外のことはしないはずだ。
いける!
もう少し採取したら、今日はもう隠れ家に戻ろう。
そして、今夜から夜の採取をしてもらうのだ!
…………
クナル草が袋に8割ほど溜まったところで、隠れ家に引き上げてきた。
「今夜暗くなってから、またこのクナル草を採取して欲しい。量はこの袋が満杯になるくらいでいいから」
「コン」×6
全員がうなづいてくれた。
本当に有難いよなー。
これでまともな生活が出来る。
ほんと、感謝だよな。
ついつい手近な狐っ子の頭を撫でてしまう……こ、これは!
モフモフが気持ちいい……。
もう一方の手も別な狐っ子の頭へ。
うん、やっぱしこっちも気持ちいい。
ヤバい、これはもう抱きしめてモフモフしたい!
子狐でモフモフ!
背中の毛を触ってみる……柔らかいモフモフだ!
お腹の毛を触ってみる……もっと柔らかいモフモフだ!
お腹の毛に、顔をうずめてみる……あったかいモフモフだー!
おっと、ちょっくらズッコケちまったぜ。
おかげでお股に顔がズレてしまった。
あれ? 何もついてないってことは……この狐っ子は女の子?
そうか、狐っ娘だったか……。
ここでちょっと思い浮かべてみよう。
獣人を動物と考えた場合。
可愛い子狐のモフモフを愛でて喜んでいるおっさん……なかなかに微笑ましい光景である。
場合によっては、おっさんにギャップ萌えしてしまうこともあるかもしれない。
だが見方を変えるとこうなる。
獣人を人と考えた場合。
女の子の体をまさぐり撫でまわして喜んでいるおっさん……間違いなく通報案件である。
場合によっては、周囲の人に変態と認識され取り押さえられてもおかしくはない。
ここまで考えたところで、俺はモフるのを止めた。
いや、だってさー……なんか変質者になってる自分を思い浮かべちゃったんだもの。
さすがにモフるのは躊躇するさ。
そしてしばらくモフりたい衝動と戦った俺は、最終的に頭を撫でるという無難なモフり行為に落ち着いたのであった。
頭のモフモフでも、気持ちいいのさ!
負け惜しみじゃないんだからね!
…………
クナル草は700ギニスになった。
口入屋の婆さんが驚いていたので『俺、こっちのほうが得意かもしれない』と、適当なことを言っておいた。
これで明日からも疑われずに済むだろう……たぶん。
難民キャンプからはまだ出ない。
節約して、お金を貯めるのだ!
替えの服だけは買っておこう……。
☆ ★ ☆ ★ ☆
異世界生活九日目
クナル草の採取の仕事を受けて、狐っ娘の隠れ家へ。
おぉー! 袋に入りきらないくらいのクナル草が集めてあるよ……。
山になっているクナル草を前に、狐っ娘たちがドヤ顔をしている。
褒めろと?
いや、まぁ、大したものだとは俺も思ってはいるけどね。
「よし、みんな良くやった。偉いぞ」
狐っ娘たちが満足そうな顔になった。
てか、こんなんで満足なのか? なんてお手軽な……。
昼間に動き回らせると目立つので、狐っ娘たちには隠れ家で待機してもらう。
で、あくせく採取する必要の無くなった俺は何をするかというと……。
実験と検証である。
狐っ娘の死体を埋めたら、狐っ娘の実が生る植物が生えるのは分かった。
たぶん他の生き物や無機物でも、同様であろう。
とりあえず検証したいのは、必要な割合である
つまり五体バラバラにして、手や足もしくは頭だけでも全体部分の実が生るのか。
それとも各部分だけの実が生るのか。
実が生る条件として全体が必要だった場合、その場合は全体の何割が必要なのか。
とか、そんなの。
人の死体とかは、なかなか転がっている物では無いので、その辺ですぐに捕まえられる蟻を犠牲者にさせてもらう。
すまんな蟻よ、科学の発展には犠牲が付き物なのだよ。
小さい蟻をバラそうにも爪くらいしか使えるものが無かったので、狐っ娘にその辺で使えそうな物を探してもらったら、折れたナイフの刃の部分を持ってきてくれた。
これはあれだね、プチご都合主義ってやつだね。
蟻をだいたい2割・4割・6割・8割に切断して、神鍬で耕したプチ実験用畑に埋める。
他にも頭だけ切り落としたのとか、足だけ切り落としたのとかも埋めておく。
一匹丸ごとすり潰したのとか、別な個体のを半分ずつセットにしたのも埋めちゃう。
うん、人でこの実験をしたら、なかなか凄惨な絵面になっちゃいますな。
そうだ、食べられる草も埋めてみよう。
種から育てるとか植え替えとか株分けとかではなく、草そのものから草が収穫できるのかを知りたいのだ。
とりあえずこんなもんだろう。
あとはその都度思いついたら、実験することにしよう。
つか、まだ昼かよ。
とりあえずパン食って、昼から食べられそうな物でも探そう。
☆ ★ ☆ ★ ☆
異世界生活十日目
昨日埋めた蟻たちが、もう実を付けていた。
切断した蟻は8割残したものが成功、それより割合の少ない物は全滅。
頭や足を切り落としたものも成功、一匹分すり潰したのも成功。
別な個体の物をハーフ&ハーフにしたものは失敗だった。
食べられる草も失敗した。
植物は通常の手順で育てないと駄目なのかもしれない。
蟻の実は成功した一株につき、10匹収穫できた。
成功したのは全部で10株だったので、全部で100匹の収穫だ。
約24時間――丸一日で収穫できた蟻たちは、ちゃんと俺の言うことをきいてくれた。
自分の命令で、100匹の蟻さんが行進する……子供の頃にこんなこと妄想したなー。
いや、妄想などとは言うまい。
子供の頃に夢見たことが実現したのだ!
この日は一日中、蟻の行進を眺めて終わってしまったのであった。
いや、なんか妙に楽しくてさ。
ついね……。