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秘密基地

 目の前には、狐の子供獣人が6人。


 全部わけわからん植物の実から収穫されてしまった者である。

 なんでこんなのが実に生るんだ?


 ちょっと【魂の刻印:農神】を、今一度確認してみる。


 ※ ※ ※ ※ ※


【魂の刻印:農神】


 農神能力一覧


 絶対生育:どんな物でも作物として絶対に生育できる。

 品種改良:品種改良が必ず成功する。

 品質向上:作物の品質を向上させる。(一等級程度)

 促成栽培:収穫までの期間を大幅に短縮する。(期間は固定)

 完全土壌:耕した農地が作物に最適な環境になる。

 収穫増加:作物の収穫量が増える。(増加量は固定)

 農業用水:農作物に最適な成分の水を無限に出せる。

 作物管理:作物に命令できる。(他者の収穫禁止や品質の微調整など)

 収穫保管:収穫物や種を完全な状態で保管できる。


 ※ ※ ※ ※ ※


 あ、原因が分かったぞ。

 これだ。


 絶対生育:どんな物でも作物として絶対に生育できる。


 たぶんこれが原因だ。

 確か最初に確認した時は……。


 絶対生育:どんな作物でも絶対に生育できる。


 これだったはずだ。

 そうか! 神様とお金を育てる話をして、それで神様が刻印をいじったんだっけ。

 それで刻印の能力が変化して、結果このような事態に……。


 お金を埋めたらお金が実り、獣人を埋めたら獣人が実る。

 服もそのまんま実るってのも凄いな。

 てかこの能力、自分の能力ながらなんか怖いんですけど?


 もうあれだよね、墓守の仕事とかやったら凄い事になるよね。

 穴掘って埋める片っ端から、どんどん人が実っちゃう……。

 たぶん棺桶付きで。


 うん、もう考えるのは止めよう。

 それより、この目の前の状況だ。


 この6人の狐っ子をどうするべきか?

 1.獣人国まで送り届ける……無理、そもそも俺一人でも辿り着ける気がしない。

 2.俺が養う……これも無理、そんな稼ぎは無い。

 3.捕まえて奴隷商人に売っ払う……なんて鬼畜なことを考えるんだ、俺!


 などと、あれやこれや考え続けている俺なのだが、その間も狐っ子はじっとしている。

 逃げるでも無くどこかへ行くでも無く、その場でじっと俺を待っている。

 あれ? ひょっとして俺待ち?

 まさか生まれて初めて見た相手を親だと思う系の、刷り込み的なあれか?


「えーと、そろそろ暗くなりそうだし、今日は解散……じゃないか。そうだな、今夜は悪いけど野宿でもしてくれるかな? これからどうするかは、明日考えよう」

「コン」「コン」「コン」「コン」「コン」「コン」

 狐っ子たちが、返事をしながら頷く……てか、返事って『コン』なのね。


「誰にも見つからないように注意するんだぞ、見つかったら奴隷商人に売られちゃうからな」

「コン」「コン」「コン」以下略。


「食べ物は、これも悪いがその辺の草で我慢してくれ」

「コン?」「コン?」以下略。

 あれ? なして首をかしげる?

 狐って、草食べられなかったっけ?


「食べられる草が無いとか?」

「コン?」×6

 違うようだ。


「お腹が空いてない?」

「コン」×6

 空いてないらしい。


「そうだったのか、じゃあお腹が空いたら……」

「コン?」

 これも違うってことは……。


「ひょっとして、お腹すかないの?」

「コン」×6

 マジかよ。

 てことは、食べさせなくていいのか……。


 食べさせなくていいんなら、養えるんじゃね?

 いや、食べさせないんだから養うとは言わないか。


 まずいな、そろそろ日が暮れそうだ。

 とりあえず街に戻ってじっくり考えよう。


「じゃあ俺は街へ戻るから、見つからないようにしっかり隠れてるんだぞ」

「コン」×6

「見つかりそうになったら、全力で逃げるんだぞ」

「コン」×6

「また明日な」

「コン」×6


 俺がその場を離れようとすると、狐っ子たちはササッと素早くどこかへ隠れるべく去って行った。

 見つかるなよー。


 …………


 街へ戻って薬草を換金し、いつものようにパンを買って避難所へ。

 今日の稼ぎは朝の分と合わせて80ギニス。

 でも稼ぎのことよりも考えなければいけないことが、今はある。


 あの子たちが、俺が死体を埋めたことによって生まれたのは間違いなかろう。

 俺の言うことを聞くのはたぶん【魂の刻印:農神】の……。


 作物管理:作物に命令できる。


 これの影響だろう。

 食べ物がいらないのは何でだ? 作物だからか?

 金が無いから、食わせる必要が無いってのは有難いんだけどさ。


 保護するったって、今の俺にそんな甲斐性は無いしなー。

 いっそ本当に奴隷商に売っちゃおうか……いや、駄目だな。


 同じ姿かたちの獣人を奴隷として売るのは、さすがに不自然だ。

 人間国に俺の能力がバレたりしたら、死ぬまで強制労働とかになりかねん。

 兵士や奴隷を無限に畑で作り出せる能力……間違いなく放っておいてはくれないだろう。


 となると、他の人間に捕まるというのもマズそうだ。

 いっそ始末するか? それだと死体の処理に困るか……迂闊に埋めるわけにはいかない。

 獣人国へ向かえと命令すれば、途中で勝手に野垂れ死んでくれるか?


 …………何を考えているんだろうなぁ、俺は。


 人間国の環境に毒されちまったのか、それとも元からこんな人間だったのか……。

 案外このクズなことを考えている俺が、本当の俺なのかもしれない。


 考えを修正しよう、明るい方向へ。

 やらないとマズいではなく、やりたいの方向へ。


 よし、決めた! あの子たちは手元に置いておこう。

 街の中に連れてはこれないから、隠れ場所を作ろう。

 神様にもらった鍬なら、隠れるための穴程度なら簡単に掘れるだろう。


 今日はここまで。

 あとは、やってみてから考えよう。


 考え方を変えたら、なんか楽になった。

 たぶん今日は良く眠れるだろう。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


 異世界生活八日目


 難民キャンプにいられるのも今日を入れて三日。

 そろそろ新しい寝床の目途をつけておかねばいけないのだが、それどころではない。


 朝っぱらから狐っ子たちのところへ行く。


「おーい、いるかー?」

 声を掛けると、その辺からぞろぞろと狐っ子たちが集まってきた。

 良かった、6人全員いるな。


「どうだ、昨日は眠れたか?」

「コン?」

 一番近くの狐っ子に尋ねてみたが、首を傾げられてしまった。

 なんとなく、ピンときてしまった。


「ひょっとして、眠らなくてもいいのか?」

「コン」

 頷かれてしまった……。

 食べなくても眠らなくてもいいのか!

 すげーな。


「よし、まずはお前たちの隠れ家を作るから、ついておいで」

 狐っ子たちを引率しながら、俺は人気の無さそうな場所へと向かって行ったのであった。


 …………


 到着したのは木々が立ち枯れた荒地で、大きな岩がゴロゴロしている場所だ。

 ここの岩と岩の隙間に入り口を作って、地下を掘り進めて隠れ家を作るつもりなのである。


 神様にもらった鍬――神鍬とでも呼ぼうか――を構えて、岩に突き立ててみる。

 ザクッ

 やれそうだとは思っていたけども、いともあっさり岩を掘れたことに驚きを隠せない。

 まるで、軽くて柔らかい土のように簡単に掘れるのだ。


 ザクッ ザクッ ザクッ


 どんどん掘れるぞ、もう少し奥まで掘ったら今度は下に……。

 と、ここで狐っ子たちが、じーっと俺を見つめていることに気が付いた。

 なんか見られていると、やりづらい。

 そうだ!


「なぁ、暇だったらこの薬草を採取してきてくれないか? この袋の中に集めて来てくれ」

 いつもの袋を出して、狐っ子たちに頼んでみる。

「コン!」×6

 元気よく返事をして、狐っ子たちは採取に出かけて行ったのであった。


「誰にも見つからないように、気を付けるんだぞー!」

「……コーン」×6

 少し遠くから返事が聞こえてきた。


 …………


 面白いようにスコスコ掘れる。

 掘るのはいいけど、土を外へ出すのが大変だな。

 でも次々と形になっていくのは楽しい。


 空気穴を開けたり浸水しないように工夫したりして、隠れ家はあっと言う間に完成した。

 外へ出てみると、狐っ子たちは全員戻ってきていた。

 袋には薬草がいっぱいに詰め込まれ、さらにもう一袋分はありそうな薬草の山があった。


 随分早く採取したんだな。

 人海戦術で集めたにしても、俺より手際がいいんじゃないか?


 この子たちに任せれば、明日から大量採取で稼ぎもぐ~んと……。

 いや、駄目だな。

 急に大量採取なんてしたら怪しまれる……少しずつ量を増やすか、別なもっと金になる採取に切り替えるかしたほうがいいな。


 そんなことを考えている俺を、12の瞳がじっと見つめていた。

 うん、俺のためにもこの子たちのためにも、慎重にこっそりとやらねばならないな。


 とりあえず、隠れ家はできた。

「ここがみんなの隠れ家だ、入ってごらん」

 ぞろぞろと狐っ子たちが、隠れ家に入って行く。

 全員が入っても、中の空間には余裕があるはずだ。


 秘密の抜け穴とかも、作っておいた方がいいかな?


 なんか懐かしい気分だ。

 子供の頃に作ったなぁ……秘密の隠れ家。


 いや、あの頃は秘密基地って呼んでいたっけ。

作物管理:作物に命令できる。

この設定がキツいのは自覚しております。

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