勝 利
― 引き続きバトラプリ山・山麓の戦場 ―
タッキも野呂田も、どこか行っちまったな。
たぶん各々の相手と、サシで相対したかったのだろう。
人間国の兵士は、もう10万を切っている。
つーか、いいかげん逃げろよお前ら……こっちは勇者さえ残ってりゃいいんだから。
タタタタタタタ、と軽い感じの銃声が比較的近くで聞こえた。
この銃声は……銀の勇者だ。
銀の勇者が両腕をクロスさせるのが見える。
腕からビームが出て、オーガ隊の1人に命中した。
銃はゴブリン隊、ビームはオーガ隊と、攻撃対象によって使い分けしているらしい。
あのビームは確か、光属性だったか?
「あの勇者、誰も対処をしてやせんねポイ。あっしが片づけやしょうか旦那ポイ?」
たまたま近くにいたポイズンヒドラが、俺に聞いてきた。
「そうだな、じゃあ頼む。あの銀の勇者の武器は手に持ってる銃と、光属性のビームだ――あと光線の類は反射するから、一応気を付けとけ」
「へい、承知しやしたポイ」
ポイズンヒドラが銀の勇者に向かって行った。
こうして銀の勇者vsポイズンヒドラの戦いが始まったのである。
ポイズンヒドラ――元毒蛇ラッコは、ラッコ獣人×ヒドラ×ポイズンドラゴン×雷撃砲の魔具の改人である。
今回使ったヒドラは7つ首のヒドラ、どこかで見た使い回しの魔物である。
再生力の高いこのヒドラと、毒ブレスと毒の体液を持ったポイズンドラゴンを組み合わせてみたのだが、なんとなく物足りなかったので雷撃砲も追加してみた。
攻撃面はなかなか使えるのだが、防御面では正直微妙だ。
ポイズンドラゴンはドラゴンの類ではあるのだが、そんなに硬くない。
毒の体液が敵への攻撃にもなるから、むしろ防御が高すぎないほうが良いのだろう。
タタタタタタタタ――。
銀の勇者が自動小銃を撃つが……。
カンカンカンカン――。
ポイズンヒドラの鱗で弾かれる。
防御面が微妙とはいえそこはドラゴン系、自動小銃の弾なんぞが効くはずも無い。
そうなれば銀の勇者としては、光属性のビームを放つしかない。
「くそっ! これで倒れろ化け物め! ぼくはこの戦いで手柄を立てて、エアルルさんと結婚するんだぁーー!!」
……銀の勇者が壮大にフラグを立てた。
光属性のビームは軽くポイズンヒドラを削ったが、圧倒的な回復力ですぐに元に戻った。
「倒れろ、倒れろ、倒れろぉぉーー!」
銀の勇者が何発もビームを放つが、ポイズンヒドラの回復力はそれを大きく凌駕している。
「倒れるわけにはいきやせんね、あっしも仕事なもんでねポイ」
ポイズンヒドラが毒のブレスを吐いた。
毒に包まれ、銀の勇者の動きがギクシャクしてきた。
効いているようだ。
「ぐはっ、げぼっ……ぼくは……手柄を立てて……」
まだ言うか銀の勇者。
「そうはいきやせんポイ。あんたにゃここで、死んでもらいやすポイ」
ポイズンヒドラが、ザクリと銀の勇者の胸を鋭い爪で貫いた。
「ごふっ……エアルル……さんと……結婚……するん……」
倒れながらもポイズンヒドラに銀の勇者がしがみ付こうとした。
「すいやせんが、そいつはあっしには関わりの無ぇことでござんすポイ」
しがみ付こうとした手をポイズンヒドラが軽く払い除け、戦いは終わった。
いともあっさりと。
フラグなんて立てるからだよ……。
* * * 敵勇者の数:残り3人 * * *
――――
順調である。
順調過ぎるかもしれない。
勇者の数はあと3人。
そう、いつの間にやらあと3人なのだ。
今までさんざん苦労しながらちまちま倒していたのは、いったい何だったのか……。
それほどまでに順調なのである。
残る勇者は、白と紺と小豆。
そのうちの紺の勇者はさっきから目立っている。
【火球】をバンバン放っているからだ。
「おーい、いいかげんウザったいから、そろそろ誰かアレをなんとかしろー」
俺が紺の勇者のほうを指差すと、ふわりと誰かが俺の横に降りてきた。
「ならばわらわが始末致しましょうビー」
「おぉ女帝ビーか、頼むわ。俺はここを動くと、その……怒られる」
俺はちらりと左のほうで寄ってくる人間の兵士を叩き潰している、火事校長を見た。
女帝ビーが『あぁ、なるほどねー』的な感じで、黙ってニヤニヤと頷いた。
そうなのよ、俺の保護者が前に出るのを許してくれないのよ。
「では首領、そこでごゆっくりご観戦下さいビー」
「気を使って俺にゆっくりさせんでもいいぞー。できればなるはやでヨロシク」
「お任せをビー」
女帝ビー――八本脚・八つの目を持った蜂の改人が、紺の勇者へと向かって行った。
どうも気が緩んでる気がする。
戦力に自信を持つのはいいが、油断して舐めプはいけない。
少し気を引き締めよう。
空の色が少し変わった気がして上空を見た。
少し黄色っぽく……少しずつオレンジ色に染まる空。
小豆色の勇者の【メテオ】だ。
人間国の兵もかなり減ったので、もう巻き込んでもOKと判断して放ったのだろう。
質量兵器としては【メテオ】はそこそこ脅威であるが、そのまま馬鹿正直に直撃しなければどうという事は無い。
なのであの落下中の隕石は、迎撃させてもらおう。
高高度のうちに砕いて質量を減らし石ころにしてしまえば、我々改人には大した脅威では無くなる。
「火事校長、すまんが邪魔が入らんよう頼む」
「お任せをオリ」
拡散魔道砲の発射準備に入っている俺を見て、火事校長が1段階警戒レベルを上げた――気がする。
俺は火事校長に守りを任せて、発射体制に入った。
「魔力充填120%――拡散魔道砲、発射!」
強大な魔力が発射され、それはやがて拡散する。
拡散したそれは落ちてくる5つの隕石に命中し、粉々に粉砕した。
これで処理完了。
破壊された【メテオ】の破片が、パラパラと降ってきた。
でも元々バトラプリ山の火山灰が降り注いでいる戦場なので、大して気にもならなかったりする。
時折ちょっとだけ大きな――拳大の破片が落ちてきて人間の兵士が死んでいるけど……。
「クソったれめ! 俺の【火球】が効かねぇってえのかよ!」
あぁ、始まっている……紺の特攻服を着た勇者と女帝ビーの戦いが。
「お互い障壁持ち――このままでは長引きそうですビーね」
紺の勇者の【火球】も女帝ビーの各種糸も、互いの障壁に阻まれて意味をなさないようだ。
だが女帝ビーの武器は、自分自身だけでは無い。
「痛ぇ! くっそ、なんだこいつら……いつの間に!」
紺の勇者の足元には、蜘蛛がわらわらと集っていた。
「てめぇの仲間ってとこか? 生憎だが、この俺にゃあ毒は効かねーぜ――【毒無効】持ちだからな!」
忘れてた……あれ? だったらこの勝負、決着つかなくない?
「甘いビーわね。殺すだけなら、いくらでも殺りようはあるビーわよ」
女帝ビーがそう言うと、わらわらと蜘蛛の軍団が……ブンブンと蜂の軍団が、大量に集まってきた。
「痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ! クソったれが! こんなチクチク刺したところで、死ぬわきゃ……うご……あが……」
「殺りようはいくらでもあると言いましたビーよね――もっと集まりなさい、もっと突撃なさいビー!」
集まってきた蜘蛛や蜂たちは、紺の勇者の鼻や口の中に続々と突撃していた。
「ふご……うぇ……ごあ……」
紺の勇者は暴れた、息が出来ずに暴れた。
暴れ方は徐々に必死になり、やがて動きを止めた。
紺の勇者は死んだ……。
鼻や喉に蜘蛛と蜂を大量に詰まらせ、窒息で。
うわぁ……あの死にかた、嫌だなぁ……。
* * * 敵勇者の数:残り2人 * * *
――――
また空が黄色くなった。
【メテオ】である。
「あー……懲りねーな、小豆色の勇者」
再び拡散魔道砲の出番のようだ。
「ソニックパイア、私は首領の護衛で手が離せないオリ。小豆色の勇者を倒しなさいオリ」
「了解したソニ」
なんか火事校長がソニックパイアに命令してるし……。
まぁいいか、とりあえず【メテオ】潰しだ。
「発射!」
拡散魔道砲を放つ。
そして【メテオ】は粉砕された。
再び隕石の破片が、戦場に降り注ぎ始める。
さて、小豆色の勇者vsソニックパイアは、どうなったかな?
「またか、なかなか難しいソニな」
ソニックパイアが小豆色の勇者を殺し損ねたようだ。
たぶん【変わり身】で兵士と入れ替わったのだろう。
周りの兵士を始末しないと、なかなか小豆色の勇者を殺すのは難しいぞ。
とりあえず範囲攻撃でもしとけ。
「ならばブレスでソニ!」
ソニックパイアが音波ブレスを吐いた――範囲攻撃だ。
兵士やらゴブリン隊やらが、強力な音波でボロボロになっていく。
音波くらいなら人間は死なないように思えるが、意外にそうでもない。
強力な音波は脳を振動させる、そして脳そのものは脆い――ちょっと揺らしただけでも脳震盪くらいにはなるし、強い振動を与えれば脳は崩れるのだ。
バタバタと周囲の兵士たちが倒れた。
だがその中には小豆色の勇者はいない。
また【変わり身】で逃げたのか……こりゃ兵士を皆殺しにしないと、小豆色の勇者は殺せないかな?
「ははははは――無駄だよ! この【変わり身】の能力がある限り、そう簡単には殺されない――兵士たちを全滅させられでもしない限りね!」
うむ、本人もそう言っている。
はてさて、これは厄介――。
「ぐああぁぁ!」
小豆色の勇者の胸から、いきなり剣が突き出た。
なんですと!?
いや待て、この展開はちょっと前にもあった気がする……。
小豆色の勇者が倒れたその後ろには、やっぱりというか何と言うか……。
カメレオンドワーフが立っていた。
お前、ホント美味しいとこ持っていくよな……。
「そう簡単には殺されない……だったかオン。自分の能力を過信し過ぎだぜオン」
カメレオンドワーフが、なんかカッコつけた風のセリフを吐いた。
カメレオンドワーフよ……。
お前、なにげに有能だよな。
* * * 敵勇者の数:残り1人 * * *
――――
さて、残る勇者は只1人。
因縁浅からぬ、白の勇者である。
ドオオォン!と音がして、ドスンと俺に何かがぶつかり崩れ落ちた。
こいつは……狼オーガ?
狼オーガが兵士なんぞに後れを取るとは考えられない。
だとしたら、相手は勇者――そして残っている勇者は、ヤツだけだ。
「俺の首を取りに来たのか? 白の勇者よ」
振り返ると――やはりそこにはヤツがいた。
「その通りだ――この戦況を覆すには、もう敵の頭を潰すしか方法はあるまいからな」
俺は、白の勇者と対峙――しようと思ったのだけれど、2人の間に火事校長が立ち塞がってしまった。
えーと……できれば俺が、白の勇者と戦いたいんだけどな……。
ほら俺ってば、あいつに殺されてたりするし。
駄目……?
火事校長――オリハルドラゴンが、白の勇者に立ちはだかる。
「首領と戦いたくば、まずは私を倒してからにして頂きましょうオリ」
俺が戦うのは、やっぱり駄目らしい。
その時――。
ドオオォォォン!と、バトラプリ山のほうから轟音が響いた。
轟音だけでなく、地面が揺れる。
見るとバトラプリ山から巨大な噴煙が立ち上り、山の1/3が消し飛んでいた。
ここで大規模噴火かよ……。
バトラプリ山も、随分と粋な演出をしてくれるじゃないか。
火山弾がちらほらと降り注ぎ、灰が舞い落ちる。
太陽が消え、暗くなった世界でその戦いは始まった。
「ならばそうさせてもらおう。俺は『勇者』白場 遊馬――推して参る!」
白の勇者が、悠然と前に出た。
「ふんっ!」
初撃は白の勇者の拳――オリハルドラゴンはそれをあえて受ける。
ガギン!と硬い物がぶつかる音がして、オリハルドラゴンの体が受け止めた姿勢のまま、10mほど弾け飛んだ。
パワー負けしたのでは無い、質量に対してパワーが大きすぎるのだ。
そしてそれは白の勇者にも言えること、故に拳を振るった側の白の勇者も大きく後ろに弾け飛んでいた。
「今度はこちらの番ですねオリ」
オリハルドラゴンが爪を振り抜いた。
ギャン!と硬い物が削られる音がして、白の勇者の体が弾け飛ぶ。
はじけ飛んだ白の勇者の鎧は柔らかい飴のように切り裂かれていたが、その肉体は全くの無傷であった。
白の勇者の拳が、オリハルドラゴンの爪が、交互に何度も叩きつけられた。
だが互いの防御力の高さにより、ダメージはほぼ無い。
しかし凄いな、白の勇者のヤツ。
戦っているのはドラゴン系の改人だぞ!? それとほぼ互角の殴り合いをするとか、マジで化け物だろう?
改人は能力を強化されているのだから、当然野生のドラゴンより強い。
つまり白の勇者は、単体でドラゴンと戦っても勝てるくらい強いということになる。
しかも生身の肉弾戦で、である。
「なぁ白場よ、ひょっとして前より強くなってないか?」
そうなのだ。
以前から強かった白の勇者――白場ではあったが、こんなに強くは無かったはず。
そもそも『秘密結社エデン』の改人は、この白の勇者の能力を参考にし、余裕で勝てるようにと改良したつもりなのである
以前のままの能力なら、互角の戦いなど有り得ないはずなのだ。
「俺は日々の【努力】と鍛錬は欠かさん」
白の勇者が、その強さの秘密を明かした――【努力】恐るべし……。
※ ※ ※ ※ ※
【魂の刻印:努力】 努力するとそれだけ強くなる。
【魂の刻印:根性】 根性でダメージを減らす。
【魂の刻印:気合】 気合で攻撃力を上げる。
※ ※ ※ ※ ※
以上が白の勇者の【魂の刻印】。
ドラゴンを凌駕する強さを身に着けたのは、このうちの【努力】によるもので間違いない。
俺は『危なかった』と、本気で冷や汗をかきながら胸を撫でおろす。
もしもこの決戦が半年後――いや、3ヵ月後だったら負けていたかもしれない、と。
それほど白の勇者の強さの上昇度で計算できる【努力】の効力は、恐るべきものだったのだ。
白の勇者と火事校長――オリハルドラゴンの攻防は続いている。
一見互角に見えるが、ダメージは白の勇者のほうが多い。
いや、ダメージは互角なのだが、オリハルドラゴンの耐久値が大幅に白の勇者を上回るのだ。
このままなら白の勇者が先に倒れる。
このままなら勝てる。
戦いは続いている。
誰も手出しはしていない、俺が止めている。
複数で袋叩きにはしたくない。
何故だか俺は、白の勇者には1対1で負けて欲しいのだ。
戦いはさらに続いた。
白の勇者は逃げなかった、引かなかった。
最後まで真正面から戦い、最後まで諦めることも無かった。
その全力を使い果たし前のめりに倒れた漢の姿は、真に『勇者』と呼ぶのに相応しかった。
最後の勇者――白場 遊馬の魂を回収し、ようやく俺は一息をつく。
「やっと終わったなぁ……」
「終わりましたなゴキ」
肉壁団長――ゴキーモスが俺の隣で、やはり感慨深げな表情をしている。
「火事校長も、お疲れ様――あと、ありがとう」
「いえ……首領のご苦労に比べれば、何ほどのことでもありませんオリ」
戦い終わった火事校長――オリハルドラゴンが、俺のそばでゆっくりと羽を畳んだ。
決戦は終わった。
人間国の勇者はもういない。
人間国の兵士は全滅していた。
どうして兵士たちが最後まで戦ったのか、俺には理解できない。
そういやタッキと野呂田がいないな。
一緒にいなくなった勇者が戻ってこないのだから、負けたのでは無かろう。
どうせタッキのヤツは、畑にでも戻って何か食べてるんだろう。
野呂田は――まぁ昨日の様子から、なんとなく想像はできるか……。
「ちょっとタッキと野呂田の様子見てくるから、後始末適当によろしく」
うちの戦闘員は土に返るからいいとして、人間の死体をそのままにしておくと疫病の原因になったり、ゾンビになったりしかねないので、後始末をみんなに押し付……頼んで、俺はタッキと野呂田を探しに行くことにした。
戦場を、死体を踏まないよう避けながら歩く。
ここまで死体が多いと、何か映画でも見ているようで現実味が無い。
これ全部、俺が引き起こしたようなもんだよな……。
歩いている間にも火山灰は降り注ぎ、死体を隠し灰色の世界が広がっていく。
こりゃ畑の被害も甚大だな……。
ひと際目を引く鎧の死体があった。
ボルホア将軍だ。
いろいろとやってくれた相手だが、死体を見て終わったんだなと思える相手だ。
ようやく少し、終わった実感が湧いてきた。
――――
戦場から少し離れ、死体も見なくなった。
確かタッキのヤツは、こっちのほうに向かったはずなのだが……あ、いた。
いたけども……なんか上半身と下半身で、きれいに2つに分かれてるんだが?
のんびりと――ついでにため息をつきながら近づくと、赤の勇者の死体もあった。
魂もあったので、ついでに回収しといてやろう。
で、タッキなのだが――。
こいつ絶対油断しやりやがっただろ。
ドラゴン形態で赤の勇者に殺されるとか、有り得んし。
「しゃーねーな、回収して復活させてやる――けど飯の前にまず説教だかんな、油断なんかしやがって」
タッキの魂が、テヘペロしてやがる。
……テヘペロじゃねーよこいつめ、お前が復活するまで勝利の宴を延期しないといけねーじゃんか。
なんだかんだで、お前が一番古い付き合いだからな。
お前抜きじゃ、宴会が盛り上がらんのだよ。
さて、あとは野呂田なんだが……。
少し探すとすぐに野呂田は見つかった。
青の勇者と一緒に。
2人の死体は抱き合っていた。
ついでに言うと、魂も抱き合ってやがった。
ちっ! リア充死ね!
……あ、もう死んでたか。
はいはいそうですか、分かりましたよ。
一緒に元の世界に帰れるよう、手配しますよ。
俺は野呂田と青の勇者の魂を回収した。
お前ら、日本に帰って元の生活に戻れるといいな。
――――
これでだいたいやることは終わった気がする。
バトラプリ山の噴火で、ここいらはもう住むのが難しい。
秘密基地は、破棄しなきゃ駄目だな。
畑ももう使えないだろう。
せっかく実った作物が、勿体ないな……。
まぁいいさ、全ての種は俺が持っている。
バトラプリ山から離れて、またその辺の土地を耕せばいいさ。
とりあえずみんなのところへ戻ろう。
まだ死体処理は終わってないだろうか?――よし、ゆっくり帰ろう。
そう考えた矢先、火事校長――オリハルドラゴンがこちらへと飛んできた。
急いだ様子で。
「首領! お逃げ下さいオリ!」
逃げる? なんで?
「どうした? 何が――」
ドサリ、と何かが落ちてきた。
それは肉壁団長――ゴキーモスの死体。
肉壁団長の魂を回収してすぐに、そいつが近づいて来た。
「あとはお前たちだけだ、覚悟しろ――改人ども!」
近づいて来た男は、元勇者の改人。
俺が改良した、正義の味方をやっていた改人。
だがその姿は俺の知っているヤツでは無い。
姿かたちは変わってはいないが、その全身は赤く光り輝いていた。
そいつの名は――本号 隼太。
バッタ男が、そこに立っていたのである。




