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魔法陣の恐怖!さらばズンクル村

 ― 秘密基地 ―


「人間国軍に動きがありました、イザミアを発見したようです」

 肉壁団長が、諜報員からの情報を持ってきた。


「捕まえたのか!?」

「いいえ、報告によると『発見して、捕縛の為の部隊を向かわせた』とのことです」

「向かった場所は?」

「報告では不明です」

 しまった、人間国に先を越されたか!

 どうする? 人間国軍を追うか?


「追加で報告が入りました。イザミア捕縛部隊の数は1000人、率いている勇者の数は4人。紺の勇者・緑の勇者の他に、小豆(あずき)色の鎧の勇者と銀色の鎧の勇者です」

「小豆色と銀色は初めてだな」

 これはついでに、未見の勇者たちの【魂の刻印】を確認するべきか……。

 となると、俺が行かないと。


「イザミア捕縛の部隊を追う。時間との勝負になるかもしれないから、飛べる奴らを準備させてくれ――あと俺も勇者たちの【魂の刻印】を確認しに同行するぞ」

「了解です、それでは――」


「首領が出撃されるのでしから、私も同行します」

 肉壁団長の声を遮って、火事校長が同行を申し出た。


 火事校長はシン・デンジャーの壊滅時に、俺を守ろうとして逆に瞬殺されたのを気にしている。

 なので再改良の時も、防御重視の改人になることを申し出ていた。

 俺の護衛を主目的とするためである。


 別にそこまでせんでもいいのに、俺だってかなり防御重視の再改造をしてるんだし。

 まぁ火事校長みたいな美人が、護衛目的でも近くにいつも居てくれるのは、正直嬉しいけど。


「では首領と火事校長の出撃は決定ということで」

「うん、まぁ、それで」

 なんか当然のように押し切られてしまった。


「改人は、ソニックパイア・ゴールドストーン・女帝ビー・ドラハルコンを招集します」

 誰それ? という名前が並んでいるが、もちろんこいつらは既出の連中である。

 それぞれ、ソニックパイアは元蝙蝠エルフ、ゴールドストーンはキノコドワーフ、女帝ビーは蜂ドワーフ、ドラハルコンは野呂田で、再改造したので改人名を変えてみた。


 ただでさえ出番の少ない連中なのに、名前を変えたら分かりにくくってしゃーないって?

 安心しろ、俺も後悔している。

 呼び名を、しょっちゅう間違ってしまっているのだ!


 本当は元に戻したい。

 だがしかし、変えた呼び名を部下たちに気に入られてしまったので、今更戻せなかったりする。

 ということで、過去の俺をアホと罵りながら、部下の呼び名は変えたまま現状維持だ。


「えーと、野呂田――ドラハルコンは、緊急連絡要員に残しとけ」

 そう言ったら、肉壁団長がちらりとこちらに目線を向けた。

 見透かされたかな?


「決戦が近いのですから、今のうちに慣らしておいた方が良いと思いますが――了解しました、ドラハルコンは緊急連絡要員として残します」

 伝令のモグゴブリンに支持を出しながら、肉壁団長がそう言った。

 やっぱ見透かされてたか。

 ついつい野呂田には、人間を殺さなくても済む立場にしてやろうと考えてしまう。


「私情だよね」

「私情ですな」

 肉壁団長の視線が生暖かい。

 微妙にニヤニヤしてる気がしないでもない。


 うむ、気にするのは止めよう。

 つーか、知れた気心に甘えてしまおう。


「ソニックパイア、参上しましたソニ」

「ゴールドストーン、ここにゴール」

「女帝ビー、参りましたビー。わらわも出撃かえビー」

 改人たちが呼ばれてやってきた。


「人間国のやつらがイザミアを見つけた、なので我々はイザミアを追っている軍を追跡する」

「ようやく出番ですソニな」

「再改良の成果をようやく確認できるゴール」

「眷属も連れて行くかえビー?」


「そうだな、飛べるのを中心に編成しとけ」


「戦闘員はどうしますか?」

 肉壁団長が聞いてきたが……ふむ、どうすっかな。

「ゴブリン隊を適当に100匹と、オーガ隊も試しに20匹連れていく。オオカミオーガを作っておいたから、臭いを追わせれば付いてこれるだろう」


 オーガ隊というのはもちろん、オーガをベースにした戦闘員のことだ。

 身長2~3mもある筋肉ゴリマッチョなこの魔物をベースにした戦闘員は、強力だがそれなりに欠点もあったりする。

 ゴブリン戦闘員に比べて、とにかく畑の面積を食うのである。


 どれだけ違うかというと、育ててみたらゴブリン戦闘員の9倍もあったのだ(当社比)

 いくら強力な戦闘員と言えども、畑の面積対効果に見合わなくては使えない。

 畑は俺が耕すので、オーガ戦闘員を大量生産するには俺が大変な思いをするのである。


 というわけで、今回はコトのついでにオーガ戦闘員の使い勝手を試してみるとするのだ。

「では出発す……」

「カメレオンドワーフから緊急連絡です」

 タイミング悪いな、おい。


 俺がコケかけるのを無視して、肉壁団長が続ける。

「イザミアの所在を突き止めたとのことです」

「マジか! 場所は書いてあるか?」

「ズンクル村だそうです」

 良くやったカメレオンドワーフ!


「命令変更だ、直接ズンクル村へ向かうぞ!」


 ふっふっふっ……これでようやくイザミアを始末できる。

 今度こそ、逃がさんぞ!


 ……うむ、なんか悪役っぽい。


 ……いや、まぁ、悪の首領なんだけどさ。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


 ― ズンクル村 ―


 さっきから、門の方がザワザワしている。

 魔物でも出たのかな?

 そんなことを気にして門のほうを眺めている俺は、バッタマンこと本号隼太である。


「あのー、何かあったんですか?」

 俺は門の方から来た、おばちゃんに声を掛けた。

 情報収集は、おばちゃんからするのが一番手っ取り早い。


「あらシュンタちゃんじゃないの――なんかねぇ、軍が来るらしいのよ」

「軍が?」

 ここに何をしに? まさか追っ手か?


「何しにくるのかしらねぇ、念のために色々隠しといたほうがいいかしら……」

 おばちゃんが、おしゃべり攻勢に出ようとした。

 だが相手をしている場合ではない。

 急いでイザミアに教えないと!


「すいません、急ぎますんでこれで!」

 俺はおばちゃんに背を向けて、急いで借家に帰った。


 この村は人手を国都に取られて空き家がけっこうあり、俺とイザミアはそこを借りている。

 住人がいなくなり手入れがされていなかった割には、そこそこ状態が良かった家だ。


「イザミア! 軍が来た! 追っ手かもしれない」

「そう……でも魔法陣は完成しているから、問題は無いわ」

 慌てて入ってきた俺とは対照的に、イザミアは落ち着き払っている。


「あ、あぁそうなんだ」

 動揺していた自分が馬鹿みたいだ、イザミアに情けない男と思われただろうか?

「ええ、そうよ。だからまず、村の外へ出ましょう」

 外へ?


 逃げるつもりなのかな?

 それとも村に迷惑が掛からないように、外へ出ておこうというつもりなのか……。

 どちらにせよ、外へ出るのは賛成だな。


「分かった、村の外へ出よう」

 俺たちは村の人に見つからないよう、2人でこっそりと村の外へと出た。

 タイミングがいいのか悪いのか、軍の移動する音が聞こえてきた。

 軍はすぐそこまで来ていたようだ。


 俺とイザミアは大きな茂みに隠れていた。

 隠れて軍の動向を、見ていようと思っての事だ。

 ところが、ここで想定外のことが起きた。


 軍の連中が村を素通りして、まっすぐこちらへと向かって来たのである。

「なるほど、隠れても無駄ということね」

 イザミアが立ち上がり、茂みから出て行った。


「おい、ちょっと……」

 俺は慌てて、イザミアと軍の間に立った。

 イザミアは俺が守る!


 軍の中の1人が前に出てきた、緑色の鎧を着ている――確か名前は、緑川小百合だったか?

 兵士たちと明らかに違う色の鎧を身に着けている彼女は、勇者だ。

「イザミア、お前を迎えに来た」

 人間に化けているはずのイザミアの正体は、とうにバレているらしい。


「人間国には、もう用は無い」

 そうだ、お前たちには用は……何だって?


「用があろうと無かろうと、我々はお前を連れて行くだけだ――捕らえろ」

 緑の鎧を着けた勇者がそう言うと、兵士たちが俺たちを取り囲もうと前に出てきた。

 たかが兵士くらい、俺が止めてみせる!


 勇者だと、ちょっとヤバいかもしれないけど……。

 でも今の俺なら、逃げる時間稼ぎくらいは稼げるはずだ。

 そう、バッタマンに変身すれば。


 俺はエネルギーの流れを変……。

「アハハハハハッ! あたしを捕らえるだと? 実験動物ごときが?」

 突然イザミアが笑い出した。

 と同時に、体に描かれた魔法陣が輝きだす。


「実験動物だって?」

 緑の鎧を着けた勇者が、問いただす。

 俺も意味が分からないので、それは知りたい。


「人間など所詮は、あたしが開発した魔法陣を起動させるための道具、発動させるための生贄、理論を確認し実践するための実験動物! さぁ、実験開始よ!」

 イザミアの体の魔法陣がいっそう輝きを増し、村にまで光が及ぶ。

 村の光は、真っ赤な光だった。


 あぁ、そういえば村にはイザミアの魔法陣が、無数に描かれていたな……。


 光は村の全てを覆いつくした。

 やがて光は収まり、それらは生まれた。


 イザミアの魔法陣が生み出した、得体の知れない何かが。


 村にあった、全ての生き物と魂を犠牲にして。


 ――――


 ― 村から少し離れた上空 ―


「首領、ご覧になられましたかソニ? 今の光ソニ」

 すぐ前を飛んでいたソニックパイアが、さっき見た光の話をしてきた。

 もちろんそれは、俺も見ている。


「あぁ、見た。【勇者召喚】の時の光り方に似ていたが、光が赤かった」

「まさかまた、【勇者召喚】をされてしまったのではオリ?」

 横を飛んでいるのはオリハルドラゴン――火事校長だ。


「違うと思いたいが、実際に見てみないと何とも言えん」

【勇者召喚】ではないことを祈りたいくらいだが、今更お祈りしても遅い。

 つーか、基本神様は下界のことに不干渉だから、祈ったところで意味が無い。


 ここでゴールドストーンが、何かに気付いた。

「見えましたゴール……って、なんだありゃゴール!?」

 小さくだが、ズンクル村が見えた。


 そこには不気味にうごめく、数体の何かがいた。


 ゴクリと息をのむ音が聞こえた。

 それは自分の喉からの音。

 なんだありゃ……。


「全員上空からイザミアの発見に努めろ、()()にはまだ手を出すな――せっかくだから、人間国軍と勇者に()()と戦ってどの程度のものか確かめてもらおう」

 用心するに越したことはない。

 何と言っても、アレはイザミアの魔法陣によって生み出されたか、召喚されたモノなのだから。


 村が近づいて来た、得体の知れない何かは全部で5体。

 ようやく、得体の知れない何かを観察できる距離になった。


 グニャグニャと軟体生物のように(うごめ)くソレは、生き物であるだろうことは間違いない。

 形状は……形が崩れたスライムというか、ギガ盛りのヘドロみたいな形である。

 見た目腐ってドロドロしているような印象だが、粘液とかでベトベトしているようでもない。


 本体から触手が生えてきたり引っ込んだりしている。

 そして触手と同様になんでだか顔も出来たり消えたりしている、ビニールに押し付けたような顔が。

 色はまるで人間の肌のように見える。


 人間の皮を被った何かのようで、気色悪いな……。

 名前が無いと不便なので、取り敢えず仮称でも付けようか。そうだな――『肉団子(仮)』とでもしておこう。


「お前たちはイザミアを探せ、近くに必ずいるはずだ――俺は勇者たちの【魂の刻印】を確認する」

 改人たちに命令して、俺は肉団子(仮)の強さと未見の勇者の【魂の刻印】をを確認するため、戦いの様子に集中する。


 4体の肉団子(仮)が、人間国軍に襲い掛かった。

 これは予想通りというか兵士は簡単にブチブチと潰され、それこそ肉団子になっている。


「【毒の霧】!」

 緑の勇者が【毒の霧】を吐いた。


 モアウオォォ!

 毒の霧が命中した肉団子(仮)が、声を上げた。

 それは悲鳴だろうか、それとも怒りの声だろうか……。


 ブンブンと触手を振り回して緑の勇者を追い回す肉団子(仮)だが、緑の勇者が高度を取ってしまい触手が届かなくなる。

 肉団子(仮)の動きが鈍い、【毒の霧】は効果があったようだが殺すまでには至らないようだ。


「このクソ化け物め!【火球】を食らえや!」

 今度は別の肉団子に、紺の勇者が攻撃を仕掛けた。

 放たれた【火球】は全弾命中、肉団子(仮)の表面はまるで火傷したようになった――がしかし、見る見るうちに治っていく。


 そうか、肉団子(仮)は回復力が半端ないのか。

 しかも紺の勇者の【火球】の威力に、火傷こそすれビクとも動かない。


 さっきから魔法的な攻撃を放っていないところを見ると、攻撃は物理のみの可能性が高い。

 耐久値と回復速度が異常に高い、物理の化け物ってとこか……。


 タタタタタタと、軽めの発砲音が――って、発砲音ですと!?

 見ると、銀の勇者――初めて見る銀色の鎧を着けた勇者が、小銃っぽいものを乱射していた。

 マジかよ……そんなもんこの世界で使うとか、アリなのか?


 いったいどんな【魂の刻印】を使えば、小銃なんて使えるんだよ。

 つーか、小銃なんてものを大量生産されたら、戦争の在り方そのものが変わってしまう。

 ここにいる兵たちが持って無いところを見るとそれは無さそうだけど、実際あったらヤバい。


 俺は慌てて、銀の勇者の【魂の刻印】を確認した。


 ※ ※ ※ ※ ※


 榊原(さかきばら) 銀次(ぎんじ)


【魂の刻印:聖なる光】 聖属性の光線を放つ。

【魂の刻印:反射鏡】 あらゆる光を反射できる。

【魂の刻印:自動小銃召喚】 自動小銃を召喚できる、但し召喚者の専用装備。


 ※ ※ ※ ※ ※


 よし!【自動小銃召喚】は、専用装備だった――それはいいが、これって弾はどうなってんだろう?

【反射鏡】のせいでビーム攻撃は無効だな、まぁ物理で殴ればいいか。

【聖なる光】というビーム攻撃は、どの程度の威力なのだろうか。


「こっちは駄目か、ならば……皆さん下がってください、僕がやります!【聖なる光】!」

 おぉ! ナイスタイミングで【聖なる光】を使ってくれるようだ。

 銀の勇者が腕をクロスすると、腕から銀色のビームが放たれた。


 放たれたビームは肉団子(仮)に命中し、その肉体を大きく削った。

 モアアァァァ!

 削れた肉団子(仮)の肉体が、元に戻って行く。


「僕の【聖なる光】でも駄目だなんて!」

 いやいや銀の勇者くん、そこはビームをガンガン連射すればなんとかなるんでないかい?

 諦め早いな、この勇者は。


 今度は小豆色の鎧を着た勇者が、前に出てきた。

「みんな下がれ! おいらの【魂の刻印】を使う! くらえ【メテオ】!」

 メテオだと!?

 ファンタジー異世界でも、最高位の魔法と言われるあの!?


 …………?

 来ないな……。


 …………


 10秒くらい間があったろうか、それはやってきた。

 空から――いや、宇宙空間から……なのかな?

 摩擦熱で真っ赤に燃え盛る隕石が5つ、真っ直ぐに落ちてきたのだ。


 ドオンドオン!と落下の轟音が5回続いた。

 周囲に土砂が舞い上がり、周辺が見えなくなる。


 馬鹿勇者め、これじゃ改人たちがイザミアを見つけられないじゃないか!


 少しずつ舞い上がった土砂が収まり、視界が開けてきた。

「やったか!?」

 この声は小豆色の勇者か!

 馬鹿者め、フラグを立てるでない!


 …………


 視界が奇麗になると、そこには3mほどの隕石5つとその隕石が作ったクレーター、そして隕石に潰された肉団子(仮)の肉片と体液が残されていた。


 残された肉団子(仮)の残骸は3つ――残り2体は消えていた。

 イザミアも発見できなかったから、おそらく一緒に逃げたのだろう。


 結局のところ、イザミアには逃げられてしまったか……。

 オーガ隊も間に合わなかったので、試験戦闘もできなかった。

 勇者2人の【魂の刻印】を確認できたことだけが収穫か。


 肉団子(仮)は、イザミアが作ったもので間違いないだろう。

 どこかから召喚したものでは無く、人間を変質させて作ったものかもしれない。


 死んだ肉団子(仮)からは、魂が出て来なかった。

 村の人間の魂は、全て肉団子(仮)を作るのに消費されてしまったようだ。


 イザミアの魔法陣で、村に生きた者たちはすべて消えた。

【メテオ】の落下で、建物や畑もクレーターとなった。


 ズンクル村は消滅した。


 誰もいなくなり、何も無くなったその場所には……。


 取り残されたシュンタが、ポツンと1人座り込んでいた。

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