収穫
異世界生活五日目
今日も朝から薬草採取♪
採取ついでに例の巨大な芽の出たところ――狐の子供獣人の死体を埋めた場所を確認しに行く。
「マジかよ……」
巨大な芽は、たった一日で俺の背丈を超えるほどに大きくなっていた。
【魂の刻印:農神】って、すげーな。
植物としてはキク科の植物に外観が似ているが、細かい特徴が一致しない。
何より茎が極太で俺の太ももくらいの太さがあり、しかも木のように硬い。
見た目は草の茎なのになー、これが異世界クオリティというやつか……。
順調に育ってはいるけど、一応水やりでもしておこうか。
確か農神の能力の中に【農業用水】という力があったはずだ、水を無限に出せるやつ。
やり方がわかんないけど、とりあえず手から出すイメージをしてみよう。
「水、出ろ!」
――出てきた! 水道の水みたいにジョロジョロと。
「どうせなら、シャワーみたいに出ればいいのに」
とか思ったら、シャワーみたいになった。
あれ? これって思った通りに出せるの?
霧状にもできたし、ジェット水流みたいのにもできた。
なんと水量調整も自由自在。
試しに、離れた場所――上空からだしてみようと思ったら、それもできた。
これ、シャワーにも使えるな……。
こっちにきてから風呂もシャワーも機会が無かったので、若干匂って来ている自覚はある。
「よし、シャワーを浴びよう!」
全裸になって、服や靴は近くの枝に引っ掛けておく。
シャワー開始!
久しぶりのシャワーだ! 超気持ちいいー!
冷たいけど。
温度調節はできないようだ。
これは冬場に使うのはキツいなー。
ついでに洗濯もしちまうか、水流だけで洗うことになるけど。
強めのシャワーにして手もみしてみたけど、手洗いって面倒くさい。
洗濯機みたいに水流がグルグル回ればいいのに……。
グルグルグルグル
――うん、できちゃったね。
空中で自在に動かせるなら、形を思い浮かべたらその通りにできたりして。
――それもできた。
よし、いろんな形を作ってみよう。
うさぎ、家、飛行機、箱、etc.
色々と作ってみて気が付いた……うん、俺には芸術的センスが無い。
知ってたけどさ、知ってはいたけどさ!
流線形とか幾何学模様とかは上手くできるんだけど……。
昔から図面は書けるけど、絵は駄目なんだよなー。
まぁいい。
とりあえずシャワーと洗濯と飲料水の目途はできた。
全裸のままというのもどうかと思ったので、服を着る。
濡れてて気持ち悪い。
待てよ、これも農業用水なんだから……。
おっ、水分が抜けて乾いたぞ。
なんて便利な農業用水。
この服1枚でいつまで暮らせるかなー。
冬までには防寒服を手に入れたい。
防寒服って、いくらするんだろう?
…………
今日の薬草採取は、袋に満杯だ。
ギュウギュウに袋に詰め込まれた薬草は、70ギニスになった。
口入屋の婆さんに『詰め込み過ぎだよ、薬草が痛んじまうだろうが。明日から午前中に一回持ち込みな、まだ袋を二枚渡せるほどじゃあ無いからね』と言われた。
薬草が痛むか……言われてみればその通りだな。
採取物は商品なのだから、雑に扱って良い物ではない。
明日から気を付けよう。
今日の稼ぎで、念願の袋を買おう。
服の中で物を補完するのは、もうおしまいにするのだ!
B5サイズの小さな麻袋だが、40ギニスもした。
またパンを二つ買ったら、手持ちが20ギニスになってしまった。
そろそろ宿に泊まりたいんだけど、安宿で素泊まりでも120ギニスはするんだよなー。
まだまだ安定した生活には程遠い……。
ともかく自分用の袋は手に入れた。
これでお腹周りのチクチクとはおさらばだ!
こうしてちょっとずつ、生活の向上を図っていく俺であった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
異世界生活六日目
例の植物に花が咲いた。
トマトの花に似た、黄色い花が六つ。
しかもでかい……俺の顔と同じくらいある。
ちなみに俺の顔はそこそこでかい……ほっとけ!
花の周りを蜂が飛び回っている、これなら俺が何もしなくても実はつくであろう。
受粉の心配は無さそうだ。
この調子なら、明日には収穫できたりして。
今日も水やりしておこうっと。
…………
口入屋の婆さんに言われたとおりに、午前中に採取した薬草を納品。
これで20ギニス。
午後からの採取で60ギニス。
パンを二つ買ったから、残りの手持ちは60ギニスとなった。
そろそろまともな食事にありつきたいのだが、屋台でパスタを頼んでも最低50ギニス必要だ。
だけど飯の美味さよりも今は身の安全を優先したい、治安も良くないし野生動物や魔物もいる。
せめて護身用に、ナイフでも手に入れたいのだ……戦いでの使い方とか、全然知らんけど。
武器屋でナイフの値段を見たら、安いやつでも400ギニスという値がついていた。
全然足りないし。
地道に貯めるしかないか……金が盗まれないように気をつけないとな。
買いたい物がたくさんあるのに金が無い。
侘びしいわー。
さて、晩飯だ。
自分の袋を手に入れた俺は、食べられる草もたくさん手に入れたのだ!
そろそろ草は飽きているが、無いよりマシなのである。
昨日買ったばかりの袋から、集めた食べられる草を出しているときに思った。
これ、俺が耕した場所に植えたら増やせるんじゃね?
明日にでも試してみよう。
☆ ★ ☆ ★ ☆
異世界生活七日目
例の植物に実がついた。
すんげーでかい、白くて楕円形で縦長の実が六つ。
なんとなくまだ収穫は早い気がしたので、放置しておく。
早い気がするのは、たぶん【魂の刻印:農神】が教えてくれたのだろうと思う。
それにしてもこれって何の実だ?
長さで1mは優に超え、直径は50cm以上は確実にある。
これだけでかいと、むしろ食べられない系の実の確立が高い気がする……。
食べられなくても、何かの役に立ちますように。
…………
夕方近くなって様子を見に来たら、白かった実が黄色く色づいていた。
そろそろ収穫時期のようだ。
【魂の刻印:農神】が教えてくれている。
よし! 収穫、収穫っと。
いよいよこの実が何の実か、ヴェールを脱ぐ時がきたのだ!
食べられる実だといいなー。
うん、どうやって収穫すればいいのか判らん。
ヘタの部分から切るにしても、刃物とか持ち合わせて無いし……。
とか思いながら実に触ってみたら、ドスン! と地面に落ちて、パッカン! と割れて……。
中から狐の子供獣人が出てきた。
出てきてしまった。
たぶんここに埋めたのと同じような狐の子供獣人。
着ている服も一緒。
服といっても、麻袋に頭と腕を通す穴を開けただけのやつだけど。
それはいいとして……。
どゆこと?
試しに他の五つの実にも触ってみたら、同じように地面に落ちて、パッカン!と割れて……。
やっぱり中から狐の子供獣人が出てきた。
狐の子供獣人が6人に増殖してしまった。
うん、どうしよう……。