エデン
~春、それは新たな悪の組織の季節~
特に子供向けのTV番組では、雨後のタケノコのように悪の組織が生えてくる季節だったりする。
そしてここにも新たな悪の組織がひとつ……。
☆ ★ ☆ ★ ☆
悪の秘密結社『エデン』
俺が作った恐らくは最後の組織だ。
なぜならばこの組織は俺の持つ全てを注ぎ込んだ、集大成とも言える組織だからである。
人員は全て、本当に信じられる仲間で構成されている。
間違ってもクーデターなど起こさない連中だ。
メンバーは以下の通り。
肉壁団長・火事校長・蝙蝠エルフ・キノコドワーフ・蜂ドワーフ・ゴーレムエルフ・毒蛇ラッコの7名。
そう、こいつらは魂を回収して復活させた者たちである。
性格に難のある者もいるが、信用できるやつらだ。
これに先日組織に復帰したカメレオンドワーフが加わった8名が、新たな組織『エデン』の改人たち――ここに俺と野呂田も加えて10名。
これが我らが『エデン』の精鋭部隊、その名も『十勇……。
ん? 何だタッキ? お前も入れろと?
いや、そうなると予め考えておいた『十勇士』という呼称が使えなくなってだな……。
じゃあ何のために、お前にドラゴンを交配したのかって?
いや、それはほら、お前がドラゴンがいいって駄々こねるから……。
あー、分かった分かった。
じゃあタッキも入れて全部で11人な。
そうなると呼称を『十勇士』から変更しないと……。
11人だから『イレブン』?
なんかサッカーチームみたいだな。
じゃあ俺が率いるから……『リョーキチジャパン』とか?
え? 何だよ野呂田。
そもそもここはジャパンじゃない?
いや、そうだけどさー。
おれは首領だから真田幸村のポジションで、配下で『十勇士』にしろと?
うーむ……みんなどう思う?
あ、みんなそれで賛成なのね。
じゃあそれで。
あーあ、俺も十勇士に入りたかったなー。
……おいこら、無視すんなよお前ら!
…………
さて、気を取り直して組織の紹介の続きをしよう。
こいつらは信用できるメンバーだ、というところまでは説明した。
これが意味するところは、裏切りや脱走などを考えなくとも良いということである。
なので、一切の遠慮なく強化が出来る。
今までは裏切りや脱走を警戒して、万が一の時には倒せるように強化していた。
だがもうその心配は無いので、ドラゴンなんかをバンバン素材に使っているのだ。
しかもドラゴンのような強力な魔物は、魔力もすさまじく強い。
つまり道具博士の作った、人間の魔力では微妙な威力の魔具兵器が、強力な兵器として使えるのだ。
なので改良時に、魔具兵器も交配してみた。
交配は成功し、今では皆ただの改人ではない。
魔具兵器を交配した『サイボーグ改人』なのだ!
……いいよね、このサイボーグって響き。
戦力的に自信があるので、秘密基地は地上に露出している。
もちろん畑もだ。
軍隊でも勇者でも持ってこいや! 返り討ちにしたる!
という気持ちで派手に作ってあるのだ。
場所は山の麓。
いいよね、山麓の秘密基地。
本当は海底の秘密基地を作りたかったんだけど、残念ながら人間国に海は無い。
だがしかし、この秘密基地を山麓に作った山、これが最近小噴火をしたのだ!
だからこの基地は、現在は『火山の麓にある秘密基地』に昇格した。
これもなんかいいよね、なんたって『火山の麓にある秘密基地』なんだぜ! カッコいいじゃん!
火山灰がウザいけど……。
…………
戦力的にも整い、あとは勇者を倒すだけとなっているのだが、その前に1つだけやるべきことがある。
イザミアの捜索と殺害である。
サヒューモ教の大聖堂を破壊した今、【勇者召喚】をできる者はいない。
だが【勇者召喚】のシステムを創り出したイザミアが生きている限り、第2・第3の大聖堂が建てられ【勇者召喚】がされないとも限らないのである。
なので現在、組織の諜報員は全員イザミアの捜索に当たっている。
再び【勇者召喚】を目論む人間国もイザミアを探しているので、現在は争奪戦だ。
こっちの諜報員は数が少ないので些か不利ではあるが、ここは負けられない。
必ずや人間国より先に、イザミアを見つけなければ!
それにしても、自力で逃げられるはずも無いイザミアを、いったい誰が逃がしたのだろうか……?
俺あの時殺されちゃったから、見てないんだよね。
…………
そうそう、獣人国と組んだ金獅子元帥たちは、案の定苦戦している。
最初は勢いよく勝ち続けていたのだが、勇者たちが本格的に出撃してきて、その勢いは止まった。
今では改人の数も減り、獣人国側はジリ貧である。
どうやら新しく召喚された勇者の中に、化け物級のがいるらしいとの情報も入っているので、そのうち【魂の刻印】を確認しに行こう。
たとえ戦力に自信があろうとも、情報収集を怠ってはいけないのだ。
☆ ★ ☆ ★ ☆
― 人間国・ズンクル村 ―
「はいシュンタ、お弁当よ」
イザミアがお昼のお弁当を持ってきてくれた。
「ありがとう、イザミア。今日のも美味しそうだね」
俺は汗を拭きながら、弁当を受け取る。
午前の畑仕事の手伝いも終わり、今は昼の休憩時間。
この時間になると、毎日イザミアは弁当を持ってきてくれている。
軍や組織から逃げたのはいいが手持ちの資金に不安があった俺は、ここズンクル村に腰を落ち着けて、農作業の手伝いをして小銭を稼いでいる。
本当はバッタマンに変身してしまえば、この程度の農作業など軽々と終わらせられるのだが、さすがに潜伏先のこの村でそんなことはできないので、人間の姿で汗水を垂らしているのだ。
それにしても、やっぱ美人だなぁ。
魔人のはずのイザミアは、今は人間の姿をしている。
奴隷の首輪を外した後に、イザミアは新たな魔法陣を自分の太ももにいくつか追加をした。
すると外見が人間と変わらなくなってしまったのである。
青い肌が白い肌に、赤い瞳が茶色の瞳に。
これは肌の色や目の色が変わったのではなく、幻覚のようなものらしい。
おかげで人のいない場所を逃亡する必要も無くなり、俺たちはこの村で生活をしている。
ところで俺には、ここ数日気になっていることがあった。
「なぁイザミア……あちこちに魔法陣を描いてるみたいだけど、何の魔法陣なんだ?」
最近イザミアが村のあちこちに、目立たぬように魔法陣を描いているのだ。
初めはなんとなく聞くのを遠慮していたのだが、どうにも気になって仕方が無いので、俺は思い切って聞いてみた。
「そうね……あれは守り為の魔法陣よ、シュンタ」
「守りの?」
「私たちは軍に追われているでしょう? あの魔法陣は軍に襲われた時に、私たちを守るための魔法陣なの」
「そうなんだ……」
軍が入れないように障壁を張るとか、そんな感じかな?
「でも発動させるには今の3倍は描かなきゃいけないから、まだ役立たずなのよ」
「そんなに?」
「人の持っている魔力は微弱なのですもの、増幅したり周りの魔力を集めたりするには、複雑で膨大な魔法陣の組み合わせが必要なの」
なるほど、それで大聖堂もあんなに魔法陣がたくさんあったのか。
「私たちの、た・め・よ」
そう耳元で言われると照れるんだが……。
「大丈夫。助けてもらったお礼に、あなたは使わないわ」
言ってることが良く判らないんだが、それは俺のバッタマンとしての力を使わないということかな?
別に兵士と戦うくらいなら、やってもいいんだが……?
今の幸せな時間を守るためなら、俺は喜んで人間相手でも戦う。
いざとなったら、イザミアは俺が守る。
問題は生活費だけだ!
……正直、畑仕事の手伝いだけでは、生活費が心もとない。
せめて、国都の俺の部屋に貯めてある金があれば……。
おやっさんに手紙でも書いて、持ってきてもらおうかなぁ。
心配してるかなぁ、おやっさん。
でもこの状況、おやっさんにどう説明しよう……?
☆ ★ ☆ ★ ☆
― 秘密基地 ―
「本当にいいのか? ドラゴンとかで再改良しなくて」
「いいんですオンよ。自分が戦闘とかに向いて無いのは、つくづく理解しましたオン――人間を交配してくれれば、今まで以上に諜報や隠密行動でお役に立てますオン」
俺の目の前でへこへこ頭を下げているのは、カメレオンドワーフ。
保護色で身を隠す能力を持った、隠密行動が得意な改人だ。
大聖堂襲撃で返り討ちにあったり、シン・デンジャー基地への勇者の襲撃にあったりとかした際に、自分が戦闘に向かないと身に染みて感じたのだそうだ。
戦闘力が云々とかいうものでは無く、精神的・心理的な部分で戦闘を苦手にしているということらしい。
「分かった、そういうことなら無理強いはしないよ。戦力的には十分足りてるしな」
「ありがとうございますオン」
「いいよ、それよりも引き続き諜報活動とかを頼む。特に今は、イザミアの居場所を掴みたい」
「お任せくださいオン」
…………
カメレオンドワーフは人間を重ねて交配し、イザミア捜索に出発した。
諜報員を駆使しても、未だイザミアの行方は掴めていない。
更には人間国の人海戦術でも、居場所が掴めていないときた。
いったいどこにどうやって隠れているのだか……。
いっそのこと何か目立つこと、やらかしてくんねーかな。
ここから最終章となります。




