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カマキリオーガ、最期の襲撃!

 ― 秘密基地・指令室 ―


「それで無様に逃げ帰ってきたのか? 我らがモフトピアの幹部とあろうものが」

「しかも命令違反を犯し勝手に出撃し、更には感情に任せて暴れた挙句という……恥を知りなさい」

「あなたは勇者との戦いで退却した僕のことを、弱虫だの臆病者だのと言ってくれましたよね? だったら今のあなたは何なんですか?」


 なぜか吊るし上げられているのは、もちろん白虎将軍。

 吊るし上げているのは、他の幹部の面々だ。


 俺も白虎将軍が帰ってきたら、嫌味の1つも言ってやろうと考えていたのだが、まさか他の幹部の面々に吊るし上げを食らうとは思っていなかった。

 今回のことで、ちゃんと俺の命令を遂行してくれるようになるといいなー、とか思っていただけである。


 ところでこの吊るし上げ、だんだんと俺が考えもしていない方向へと勝手に向かっている。


「失態は償うべし。次は本当に命を懸けて、勇者を倒してもらおうか」

「貴方も恥をすすぎたいでしょう。次の出撃は、あなたに御譲りしますわ」

「白虎将軍に勇気があると言うのなら、僕にもちゃんと見せて下さいね」

 という感じで、白虎将軍がまた出撃するという流れになってしまっているのだ。

 俺としては切られた爪が伸びるまで、謹慎とかにしようかと思っていたんだが……。


「という訳で首領、白虎将軍に出撃許可をお願いします」

 いやいや金獅子元帥さんや、それもう俺の許可必要?

 もうさ、俺抜きで決まっちゃってる気がするんすけど……。


「そういえば今人間国の国都って、何人勇者いたっけ?」

 なんとなく流れで出撃が決まったけども、だからといって白虎将軍1人を行かせるのはさすがに可哀そうだと思う。

「青の勇者が帰還したので、今はまた3人となっております」

 情報収集担当の赤河馬参謀から、すぐさま答えが返ってきた。

 ふむ、それなら……。


「そうか、だったらテッポウマンドラとゴーストキノコを付けてやろう」

「白虎将軍1人に行かせればいいんですよ!」

 黒犀大佐が不満そうに言うが、さすがにそれはどうよ?


「どうせ出撃させるなら、勇者の1人でも始末してほしいからな――勇者相手に3対1ではさすがに白虎将軍でも勝ち目は薄かろう。それとも黒犀大佐は、白虎将軍を勇者に殺させるために出撃させるつもりだったのか?」

「あ、いえ、それは……」

 黒犀大佐が、赤河馬参謀や金獅子元帥に助けを求めるような視線を向けるが、同意されずにシュンと下を向いてしまうことになった。


「では決まりだ――白虎将軍、お前もそれでいいな」

「はっ! 必ずや勇者を殲滅して、恥辱をすすいでまいります!」

 殲滅はいくら何でも無理なんじゃないかなー、なんせ向こうにはヤツがいるし。


「あー、なんだ、白の勇者が出てきたら無理せず引いていいからな。アレは初見で倒せるような勇者じゃないから――ヤツは化け物だから」

「……ご命令通りに」

 不満そうだが、お前の為にもここは言うことを聞いとけ。


 テッポウマンドラとゴーストキノコが入ってきた。

 テッポウマンドラは以前説明した通り、モグラ獣人×テッポウウオ×マンドラゴラの改人だ。

 そしてゴーストキノコは――サル獣人×ゴースト×毒キノコの改人である。


 交配に使ったゴーストは人の霊とかではなく、魔物である。

 なのでゴーストのくせに死ぬのだ。

 で、死んだらほんの少し残りカスみたいなのが残るので、埋めたら収穫できた。

 ゴーストは幽体化という、物理攻撃がすり抜けてしまう能力を持っているので、交配してみたのである。


 そして毒キノコは、今度は致死性の神経毒を持ったものを使ってみた。

 だが、今回の毒は胞子ではなく本体にあるので、本体を食べさせなければならない。

 幽体化して相手の体をすり抜けつつ、胃の中で一部実体化するという荒業もできると言えばできるのだが、体の一部を置いて行くので実体化した時に肉体欠損の激痛に襲われるという、もの凄い使い辛い能力となってしまった。


 そんなこんなで、テッポウマンドラとゴーストキノコは、とても使い方に難がある改人たちなのだ。

 うむ、全部考えの浅かった俺のせいだね。

 しかしながらこいつらの能力は、相手によっては使い方次第で必殺のはずの能力のはずだ。

 そこは白虎将軍の手腕に期待をしよう――そこ、無責任に丸投げとか言うな。


「ふむ、来たな2人とも」

「テッポウマンドラ、まかりこしましたわえテッポ」

「ゴーストキノコ、お召しにより参上しましたでゴース」

 テッポウマンドラは鱗のある歩く朝鮮人参みたいな体で膝をつき、ゴーストキノコは歩く毒々しい赤いキノコの肉体を、器用に曲げて跪いた。


「白虎将軍に命ずる。テッポウマンドラとゴーストキノコを率いて、国都の勇者を襲撃せよ」

「今度こそ、この手で勇者を倒して御覧にいれます――我らがモフトピアの為に!」

「「「「「我らがモフトピアの為に(テッポ/ゴース)!」」」」」


 何の打ち合わせもしてないのに声が全員揃うって、何か微妙に気持ち悪いのは俺だけだろうか?


 …………


「行ったか」

「そのようですな」

 司令室が急に静かになってしまったので、つい静寂に耐えかねてひとりごとをつぶやいたら、金獅子元帥が律義にも返事をしてくれたた。

 ついでだから流れで、こいつらにも命令を出しておこう。


「お前たちも国都に向かって、白虎将軍の戦いを見届けろ」

「見届けるのですか? 何故我々まで……?」

「さっき白虎将軍にも言ったことが理由だ。白の勇者、あれは初見では倒せん――だから見てこい」

「なるほど。そういうことでしたら、了解致しました――ですが、見届けるだけで良いので?」

「白虎将軍が危なくなりそうなら、助けてやれ。相手はあの白の勇者だしな――それに……」

「それに?」

「いや、なんでもない。しっかり白の勇者を見ておけよ」

「はっ!」

 金獅子元帥は俺との会話が終わると同時に、軽く頭を下げて踵を返した。

 赤河馬参謀と黒犀大佐が、俺に挨拶してすぐに金獅子元帥の背を追う。


 3人が出て行った後で、俺はさっき言いかけたことの続きをつぶやいた。

「それに……白虎将軍は、あいつらの中では1人だけ少し弱いからな……」


 本人に聞かれたら怒られそうなこのセリフは、もちろん誰もいなくなった司令室でのひとりごとである。


 ――――


「聞こえたか?」

 金獅子元帥が、左右にいた2人のどちらともなく聞いた。

「聞こえましたわ――首領は人間ですから、我々獣人の聴覚を分かっておられぬようですね」

 そう相槌を打ったのは赤河馬参謀。


「でも何で首領は、白虎将軍だけ少し弱くしたんでしょうね?」

 黒犀大佐は、素朴な疑問を持ったようだ。

「恐らく白虎将軍が今一つ信用できないと思ったので、念のためというところだろう――赤河馬参謀はどう推測する?」

 その金獅子元帥の問いに、頷く赤河馬参謀。


「同意いたします。というより、わたしが首領でもそうしますね」

「なるほど、そうなんですね――でも僕より弱いくせに僕のことを弱虫呼ばわりとか、白虎将軍って笑っちゃいますよね」

 黒犀大佐は案外、根に持つ性格なのかもしれない。


「そう言ってやるな、弱いのは本人の責任ではあるまい――急ぐぞ、戦闘が始まる前に到着したい」

「そうですね、急ぎましょう」

「はいっ!」


 3人の幹部は、国都へと急ぐ。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


 ― 国都・軍司令部付近 ―


「出てこい勇者カマ! 我が名はカマキリオーガ、秘密結社モフトピアの幹部だカマ! ザコ兵士など相手にならん、さっさと殺されに出てこいカマ!」

 既に改人カマキリオーガの姿になっている白虎将軍は、わらわらと出て来る兵士たちを、鎌爪でサクサク切り裂いていた。


「出て行くのは構わんが、殺されるわけにはいかんな」

 その姿はもはや威風堂々、熱血と暑苦しさを纏ったその男は、白の勇者――白場(はくば) 遊馬(ゆうま)

【努力】と【根性】と【気合】の勇者である。


「まぁ、あたくしがいる限り、そう簡単には死なせませんけどね」

 気取った態度で後ろから出てきたのは、金ぴかのおばちゃん――じゃなくて金の勇者。

【女神の歌声】という、回復と味方能力上昇効果のある歌声を持ち、更に【復活】すらできる勇者だ。


「今だカマ!」

 白虎将軍――カマキリオーガが指示を叫ぶと、白の勇者と金の勇者の中間地点にポコッと穴が開いた。

 穴から顔を出したのは、地下に潜っていたテッポウマンドラ。

 マンドラゴラの持つ即死の叫び――引き抜かれて発動するその能力を、自ら飛び出すことで発動させようと待ち構えていたのだ。


「即死攻撃のやつだ!そいつから早く離れて!【爆裂拳】!」

 声のした方向から何かが凄い勢いで飛んできて、テッポウマンドラに命中。

 土煙の消えたその場所は、大きく抉られていた。

 テッポウマンドラの肉体は穴ごと潰され、これで改人の数は早くも3体から2体となったのである。


「悪い! こいつを持ってくるのに時間掛かっちまった」

 そう謝ったのは青の勇者。

 その横には【爆裂拳】の爆発力によって砲となる、荷台に乗せられた分厚い鉄の筒があった。


「いや、丁度いいタイミングだった。助かったぞ葵」

「葵ちゃん、グッジョブでしたわよ」

 親指を立てる二人。


「だったらもう1発サービスするわね――1号弾装填、目標キノコ!」

 指が指し示したのはゴーストキノコ。

「1号弾装填完了!」

「照準合わせ完了!」

 兵士が素早く準備を整え、発射準備が完了した。


「2匹目貰った!【爆裂拳】!」

 鉄の筒から砲弾が放たれ、一直線にゴーストキノコへと向かった。

 だが……。


「その攻撃は、おいには当たらないでゴース」

 そう言うと、ゴーストキノコは半透明の姿となった――幽体化だ。

 砲弾はゴーストキノコの体をすり抜け、後ろにあった両替屋の石の壁をブチ抜くこととなった。

 建物の中にあった金貨銀貨に着弾したらしく、辺りには硬貨がキラキラと飛び散っている。


「嘘!? マジで?」

 すり抜けた砲弾に驚く葵。

「幽体化したおいの体には、物理攻撃は効かないでゴース」

 それに対して、ゴーストキノコは余裕の笑みを浮かべた。


「そうかな? 俺はそうは思わん」

 そう言って白の勇者は悠然と前に進み出る。

 そして、ゴーストキノコに対して拳を構えた。

「無駄でゴース。ぬしの拳がどんなに威力があろうと、おいの体を通り抜けるだけでゴース」

 ふわふわと浮かびながら、ゴーストキノコは余裕を見せている。


 その余裕を見ながら、白の勇者は拳を引き絞った。

「ならばこの拳、受けてみるがいい!」

 白の勇者が拳を振り抜く――その拳は……。

「うげえぇぇゴース!」

 ゴーストキノコに、しっかりとダメージを刻んだのだった。


 ダメージを負ったことが、信じられないゴーストキノコ。

「そん……な馬鹿な……どうやってゴース……」


 その答えは、白の勇者によってすぐに明らかにされる。

「単純なことだ。幽体とはすなわち魂――魂と戦うというのならば、こちらも拳に魂を乗せるのみ!」

 どうやら白の勇者――白場は、魂を拳に乗せたらしい……。

 しばしの沈黙……。


「……あんた当り前みたいに言ってるけど、普通それできないからね」

 青の勇者が、あきれ顔のジト目でそう指摘した。

「そうか? 努力すれば葵にもできると思うぞ」

 さも当たり前のように言いながら、白の勇者は瀕死のゴーストキノコに止めを刺し、残るはカマキリオーガ――白虎将軍のみ。


「この化け物めカマ!」

 襲い掛かったカマキリオーガの鎌爪が、ガシリと素手で掴まれた。

 掴んだのは白の勇者の左手。


「君たちに化け物と言われるのは、少々心外だな」

 ガッシリと掴まれたカマキリオーガの鎌爪は、押せども引けどもビクともしない。

 やがて『ふん!』と白の勇者が気合を入れると、カマキリオーガの鎌爪はパキパキと握りつぶされた。


「素手で……カマ……」

「魂の入ったこの俺の拳、受けてみるがいい!」

 そう言って放たれた白の勇者の右の拳の凄まじさを目の前にしたカマキリオーガ――白虎将軍は、勝利することを、生き延びることを諦めてしまったのであった。


 こうして悪の秘密結社『モフトピア』の幹部は、早々と1人消えたのである。



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