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モフトピア

 ― 新秘密基地・指令室 ―


金獅子(きんじし)元帥よ、基地の防備はどうか」

 豊かなたてがみと強靭そうな肉体、知性と意志の強さを感じる歩く雄ライオン――金獅子(きんじし)元帥に俺は問うた。


「完成度は9割ほどですが、未完成とはいえ迎撃能力は十分にございます」

 こいつ無茶苦茶威厳があるんだよなー。

 俺の首領としての威厳が薄くなっている気がする――気のせいか?


白虎(びゃっこ)将軍よ、ゴブリン隊を指揮してみた感想はどうだ」

 白虎(びゃっこ)将軍は、その名の通り白地に黒い模様の入ったトラの獣人だ――獰猛さと凶暴さを冷徹さでコーティングしたような、極めて危険な男である。


「単純な命令しか遂行できませんが、特殊能力は魅力ですね。命令者のセンスが問われますな」

 自身の能力に対して、少々自惚(うぬぼ)れているところがある。

 人間に対する憎しみも半端ではなく、放っておくと何をやらかすか判らんヤツだ。


赤河馬(せきかば)参謀よ、勇者の動向はどうなっているか」

 赤い汗をかいている巨体が、赤河馬(せきかば)参謀――常に脳内で2つ3つの思考を処理している、かなり優秀な頭脳を持った乙女である。


「軍所属の7名のうち3人は国都駐在、他の4名は各国の攻略軍に1名ずつ配置されており、現在狙い目となっております。宰相部の勇者は、相変わらず軟禁状態ですね……各勇者の配置の詳細はここに」

 渡された紙には、勇者に関しての詳しい情報が記されていた。

 うむ、やはり気配りの効いた仕事をするな。


黒犀(くろさい)大佐よ、対勇者の前線指揮は任せて良いな」

 がっしりした体躯に雄々しい角を持ったこの血気盛んな若者は、獣人軍に志願入隊したばかりの少年兵だった男の子で、とにかく出撃がしたくてたまらない様子――それが黒犀(くろさい)大佐だ。


「お任せ下さい! 勇者など僕が蹴散らしてやります!」

 返事は優秀なんだけどなー。

 今ひとつ信頼できなさそうな気がするのは、どうしてなんだろう?


 ……というわけで、以上が新しい組織の幹部たちだ。

 ちなみに幹部たちは、語尾にコンだのワンだのニャアだのと、鳴き声的なものは付けない。

 これは全員が軍経験者だからである。


 獣人軍は兵士それぞれの特性が、種族によってあまりにも違い過ぎるため、別種感や差別感を無くして統一感や仲間意識を出すために、語尾のクセを修正しているのだそうだ。

 確かに我がモフトピアの幹部4人も、全員クセがバラバラだしなぁ――同じネコ科の金獅子元帥と白虎将軍でも、そこそこ違う感があるし。


 そして全部で4人の幹部――そう、幹部が4人と言えば、もちろんその呼称はアレだ。


「我が四天王たちよ! いよいよ組織を動かし、勇者たちを抹殺する時が来た! これより準備は最終段階に入る――準備が整い次第、作戦に取り掛かるのでそのつもりでいろ!」

 そう、幹部が4人といえば四天王だ!


 ちなみに1人だけわざと少し弱くしてあるのは、俺だけの秘密である。

 何でそんなことをしたのかと言われると――まぁ、なんだ――四天王最弱ネタは、お約束だしさ。


「私ならば常に臨戦態勢ですので、いつでもご命令ください」

「自分もいつでも行けます、出撃が今から楽しみですな」

「わたしは引き続き、情報収集を――新たな情報は入り次第、書面にてお伝え致します」

「僕だってすぐにでも出撃できますよ!」

 四天王たちが、やる気に満ちた返事を返してきた。


「よし、では引き続き準備を頼むぞ!」

 と、俺はセリフだけはカッコ良く、仕事を投げた。

 ……いや、俺も仕事はするよ――改人作ったりとか、いろいろ。


「「「「ははっ! 我らがモフトピアの為に!」」」」

 四天王の声が揃う――そう、新たな組織の名前は『モフトピア』。


 勇者を抹殺し、人間国の衰退を企む悪の秘密結社『モフトピア』だ!


 ――――


 ― 秘密基地・首領の部屋 ―


「あ゛ー、緊張したー」

 作ったばっかしの組織って、慣れるまで緊張するんだよね。

「普通でいいのに、変に格好つけようとするからだコン」

 銀杏(ぎんなん)の殻を――手だけ器用に蟻キツネ獣人にして――パリパリと割りながらタッキが言う。


 タッキのやつは獣人メインのこの組織――モフトピアに来てから、今まで以上にリラツクスしているようだ。

 やはり周囲に同族が多いと、安心できるのだろう。

 生意気で傍若無人で気ままで食い意地が張っている奴だが、なんだかんだでこいつも子供だからなー。


 パリパリパリパリ……。

「それにしてもすげー量の銀杏(ぎんなん)だな」

 山盛りになったそれは、バケツにして5杯分はあるであろう。

「基地のすぐ近くに、イチョウの木がたくさん生えてたコンよ」

「あー、そういやそうだったか」

 秋にイチョウの落ち葉で、焼き芋焼いたっけ。

 ちなみに今は冬である。


 春にこの世界にやってきて……。

 夏に秘密結社デンジャーを立ち上げ……。

 秋にはシン・デンジャーを作り……。

 冬になってモフトピアを……。


 うむ、見事に季節(1クール)ごとに組織を作ってるな。

 別に視聴率とかがあるわけでは無いのだが、なんだか四半期ごとにテコ入れしているみたいだ。


「ところで、その銀杏どうするんだ?」

「どうって……食べるコンよ」

 いや、それは食べるんだろうけどさ。


「そうでなくて、何の料理に使うのかな、と」

「……ふつうに串焼きにするコンけど」

 串焼きか……それはそれでツマミにするには良いのだけど、俺はアレの具にしたい。

 そう……。


「茶わん蒸しが食いたい」

「とうとつだコンね――でも茶わん蒸しは悪くないコン」

「だろ?――そうと決まれば、タマゴの実を収穫しに行くぞ!」

「そうだコンね!――ほい、カゴだコン」

「おうっ――て、なんで俺がカゴを持つ?」

「だってしゅりょーは男の子……おっさんだから力持ちだコンからねー」

「おい、その言いなおしには悪意がないか?――つか、蟻キツネ獣人になれば、お前だって十分力持ちだろーが!」


 すっもんだ言い合いながら、俺たちは基地を後にする。

 前回イノゴブリンを使って基地の場所を突き止められた反省から、今度の畑は基地から少し離れた場所に作ってあるのだ。


 ――――


 ― 組織の畑 ―


「とりあえず10個もあればいいよな」

 深めのカゴに収穫したタマゴを優しく放り込み、畑の他の作物も確認しておく。

 この間交配した実がもう生っている、元茶の勇者――野呂田だったやつだ。

 こいつも収穫しておくか。

 触ったらポロッと実が落ちて、中から改良野呂田が出てきたのだが……。


 出てきたのは棺桶――いや、別に間違ってはいない。

 棺桶ごと死体を埋めて、そのまま育てて交配しちゃったので、棺桶も付録で生産されてしまったのだ。

 というわけで、棺桶を開けたらちゃんと改良野呂田が出てきた。

 もちろん改人の姿で。


 あとは――え~と、確かこの辺にしまってあったはず……あった――野呂田の魂を入れて、と。

 これで完成♪

 さぁ、目覚めよ! 勇者野呂田改め、改人鋼鉄ワイバーン!


「ん? あれ? 生きてる?」

 細っこい目がそれなりにパッチリと開き、野呂田が目覚めた。

「お、起きたか野呂田くん。そう、君は生きてるぞ――1回死んだけど」

「死んだ? ん? リョーさん、それはどういう?」

 だから『リョーさん』呼びは、おちゃめな派出所勤務のおじさんみたいだからやめれ。


 百聞は一見に如かず――ごちゃごちゃ説明するより、今の自分の姿を見せてやった方が良かろう。

「野呂田くん、そこの樹にかけてある鏡を、ちょっと覗いてみ」

 指で示した先にある栗の木には、お盆サイズの鏡が紐でくくりつけてある。

 言われた通り、素直に鏡を覗き込みに行く野呂田。


「なっ!……なんじゃこりゃー!」

 ふむ、やっぱそうなるか。

 人間よりやや大きいその姿は、全身金属の鈍色に光り、尻尾と翼と鱗を持った、爬虫類っぽい人間の姿であった。


「落ち着け野呂田くん、君は人間国に敵対する、テロリストの仲間になったのは覚えているな?」

「え?――あぁ、そういえば……」

「人間に敵対しているのだから、そんな中に人間の姿のままで仲間になろうとしても、難しいとは思わないかい?」

「そう言われれば、そうかもしれませんね」


「だから俺が、野呂田くんのことを改良人間――改人にしておいたから。あぁ、いや、お礼とかいいからね」

「かい……じん?」

 あれ? お礼は言ってくれない感じ?


「そう、改人鋼鉄ワイバーン。元の野呂田くんの肉体に、アイアンゴーレムとワイバーンを交配してみた――で、どう? 空とか飛べそう?」

 最初はバッタ男2号とかにしてやろうかと思ったが、想像してみたらあんまし面白く無かったのでワイバーンにしてみた。

 彼には買い物とか連絡役とかパシリを頼む予定なので、飛べないと使い辛い。


「改……人?」

 まだ動揺しているらしい。

 そんなにショックだった?


 大丈夫、大丈夫、そのうち慣れるよ。


 バッタ男みたいにさ。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


 ― 人間国・国都中心部 ―


 サヒューモ教の本部大聖堂前を、1人の男が顔を伏せ気味に歩いている。

「この辺を歩くのは、やっぱりちょっと緊張するなぁ」

 元勇者――現バッタ男である、本号(ほんごう) 隼太(しゅんた)であった。


 隼太は大聖堂で偉いさんの警護をしていたので、大聖堂にいる誰かに自分の顔を覚えられているのではないかと、びくびくしながら警戒していた。

 実際はその辺によくあるモブ顔な上に影が薄かったおかげで、誰にも覚えられていないどころか、たとえ名乗っても『誰?』と言われてしまうほどなのだが……。


「あの人、まだここにいるのかなぁ……」

 思い出している『あの人』とは、大聖堂内にいた唯1人の魔人の奴隷――イザミアのことであった。


「奇麗な人だったな……」

 彼女は奴隷の首輪をつけていたので話もできなかったが、一目見た瞬間にゾクゾクとするほどの美人だったので良く覚えている。

 そこまで強く印象に残っているのは、一目ぼれでもしたか、それとも妖しい呪いでもかけられたものか……。


「まだここにいるなら、助けてあげたいなぁ……」

 どうやって助けるのか――その方法論も無ければ、助けた後にどうするかも考えていない。

 でも助けられるものなら、助けてあげたい。


 威風堂々たる佇まいの大聖堂を仰ぎ見ながら、隼太はそう思う。


 正義に目覚めたのは、伊達では無いのだ。

獣人軍では鳴き声風の語尾を強制する――という設定は、河馬とか犀の鳴き声をどう文字化すればいいのか、思いつかなかったからという理由ではありま………………す。


色々考えたのですが、面倒くさくなったんでこんなんで見逃して下さい。

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