シン・デンジャー全滅!勇者よ永遠に
散開した4人の勇者たち vs シン・デンジャーの4人の改人たちの戦闘が始まった。
白の勇者――白場には、地割れ店長――ロプスドワーフが相対している。
「ぬうおぉぉ!だロプ!」
紺の勇者の火球によって火傷を負ってはいるが、まだまだパワーは健在――ロプスドワーフの拳が、白の勇者を目掛けて振り抜かれた。
白の勇者が、真っ向からその拳を受け止める。
ドンッという衝撃音とともに、その身体が吹き飛ぶ――が、飛ばされただけで倒れはしない。
まともに食らってノーダメージかよ!――いや、少しフラついた。
よしっ! 化け物勇者にダメージが通った! これなら……。
「やるな……相手にとって不足無し! ゆくぞ巨人よ! 今度は俺の攻撃を受けてみろ!」
白の勇者がロプスドワーフへ向かって走って行き――足元に辿り着くと、そのまま上へと飛び上がった。
そのまま顎への一撃!
ゴズンッと首から上を跳ね上げると、ロプスドワーフがたまらず尻餅をついた。
やはり白の勇者は化け物だな……。
おっといかん、本来の目的を見失ってはいけない。
勇者の【魂の刻印】を確認せねば!
他の勇者の刻印は確認している。
残りはド派手な金ぴかの鎧を着けた、年齢不詳で厚化粧のおばちゃんだ。
急いで確認を……。
「うんぎゃあぁぁ!」
なんですと……?
見ると金ぴかのおばちゃんが、雷船長――ウナギ犬獣人の電撃により倒されたところであった。
え~と……これは【魂の刻印】は確認しなくても良さそうかな?
よし、逃げよう。
金の勇者――おばちゃんは間違いなく死んでいる。
だったら勇者全員の【魂の刻印】は確認した、だったらもうここで無理に戦う必要は無い。
紫の勇者の【火球】は、火蜥蜴エルフが防いでいる。
その火蜥蜴エルフは、紫の勇者の【絶対障壁】のせいで近づけない。
ここの戦闘は膠着状態だ。
ロプスドワーフは、白の勇者に押されているが何とか持ちこたえている。
鉄の勇者は、アイムササビ獣人と相対しており――お、目からビームだ。
いくら【剣豪】の刻印持ちでもさすがにビームは……って嘘だろ! 切りやがったよビーム!
【剣豪】ってすげー……。
そのままアイムササビ獣人に向かおうとする鉄の勇者に、電撃が飛んできた――金の勇者を倒したウナギ犬獣人が、鉄の勇者へと攻撃対象を変えたのだ。
「うぁっ!」
電撃を受ける直前、自ら剣を手放す鉄の勇者――あれ? これって、勝てるんじゃね?
鉄の勇者が懐に持っていた短剣でまたビームを切り裂き防いでいるが、ウナギ犬獣人の電撃は頑張って避けている――電撃は切れないのか……。
こっちの局面は勝てる! 間違いない!……たぶん。
鉄の勇者を倒した後に、アイムササビ獣人とウナギ犬獣人を白の勇者に向かわせれば――いや、白の勇者と紫の勇者に1人ずつ向かわせて、紫の勇者を倒してから一斉に白の勇者に襲い掛かれば、完勝も夢では無いかも!
問題はロプスドワーフが持ちこたえられるかどうかだけど……。
お前もカブトムシ男という改人なんだから参戦しろよ、というツッコミは止めてくれ。
肉弾戦で突貫するしかできない上に、白の勇者に一撃で倒されたヘボ改人なので、ぶっちゃけ無理っす。
俺の実力だと、生き残った普通の人間兵士をお片付けするのがせいぜいですがな。
「金田さん! 歌を頼む!」
俺が無邪気な妄想をしていると、白の勇者が叫んだ――歌? つーか金田さんって、誰?
それと紫や鉄の勇者が『げっ!』とか『ちょっと待って!』とか言ってるのは、なして?
勇者さんたちの視線の先を辿ってみると、1人の人物がいた。
さっきウナギ犬獣人が倒したはずの、金ぴかの鎧を身に着けたおばちゃん勇者が仁王立ちで――って、あんたなんで生きてるんだよ! さっき間違いなく死んでたはずだろうが!
先に【魂の刻印】を確認しておくべきは、このおばちゃんだったかも……。
※ ※ ※ ※ ※
金田 正子
【魂の刻印:復活】 死後1分で、完全な状態で復活する。
【魂の刻印:罠看破】 13m以内にある罠を必ず発見できる。
【魂の刻印:女神の歌声】 可聴範囲内の味方の体力・生命力を回復し、能力を上昇させる。
※ ※ ※ ※ ※
【復活】できるのかよ!
ヤバい――このおばちゃんナメてたわ。
【罠看破】は別にいいとして――この【女神の歌声】というのもヤバくないか?
周囲の味方を回復して、能力上昇の効果まである歌声とか、この状況だと洒落にならんぞ!
「あの金ぴかを止めろ! 歌わせるな!」
「アイ!?」
「任せなウナ!……て、何で生きてるんだいウナ! あいつは確かにあたしがウナ……」
驚き戸惑いながらも、ビームと電撃が金ぴかの勇者へと放たれた。
「させるかよ!」
紺の勇者が間に入って【絶対障壁】を展開し、ビームと電撃が防がれる。
マズい!
「良くやったわねクニオくん、誉めてあげる――さぁ坊やたち、あたくしの美声に酔いなさい!」
大きく息を吸った金ぴかのおばちゃん勇者から、ついに【女神の歌声】が響き始めた。
「ホンゲラゲ~♪※#▼!?♪」
いやいやいや、どこが【女神の歌声】だよ!
女神どころか、某アニメのガキ大将のリサイタルじゃねーか!
うおっ! なにか精神を削られる系のダメージが……。
この時点で勝負はついてしまった。
【女神の歌声】による能力上昇の効果はなかなかに強力で、ロプスドワーフ――地割れ店長は、あっけなく白の勇者に頭を吹き飛ばされた。
ウナギ犬獣人――雷船とアイムササビ獣人は、紺の勇者の巨大化した火球に呑み込まれ、火蜥蜴エルフ――火事校長は、鉄の勇者から俺を庇って両断された。
残りは4人の勇者に囲まれた俺1人……。
鉄の勇者が俺を切ろうしたところで、白の勇者が止めに入った。
「待て鉄平、そいつには聞きたいことがある」
剣は俺を切り裂く寸前で止まり、鉄の勇者が俺から離れた。
「さて、お前は確か俺が倒したと思ったのだがな――カブトムシの怪物よ」
白の勇者が俺に近づきながら、何の警戒も無しに話しかけてきた。
「ほう、覚えていてくれたとは光栄だな――確かに倒されたぞ、本人がそう言ってるんだから間違いは無い」
あぁ、ちゃんと覚えているよ、貴様の拳に貫かれた感触はな。
「復活できる――というわけか」
白の勇者が【復活】の魂の刻印を持つ金ぴかの勇者を、ちらりと見た。
「もちろんできるぞ、復活程度ならな――そこの金ぴかのように【魂の刻印】を持っているわけでは無いが」
そう言って、角で金ぴかのおばちゃん勇者を指し示してやる。
「やはり【魂の刻印】のことまで知っていたか」
「そうでなくては貴様ら勇者とは戦えんよ――そろそろ本題に入ったらどうだ、貴様が知りたいことは他にあるのだろう?」
今までの会話はあいさつ代わりだ、そのくらいは解る。
「そうだな、では聞こう――お前たちは何者だ? どこかの国の手の者か? それとも……」
「はっはっはっ――どこの国の手の者でも無いよ、我々は独自の組織だ」
「独自の組織……」
「そう、独自の組織――勇者を抹殺し人間国の衰退を企む『悪の秘密結社』、それが我々の正体だ」
「悪の……秘密結社……」
白の勇者が絶句する。
「だがな、その悪の秘密結社とやらは俺たち勇者がぶっ潰したぜ」
紺の特攻服を着た勇者が、ちょっとカッコつけた感じで勝利宣言をしてきやがった。
何だろう――なぜか金属バットを持たせたい……。
「ふはははは! その通りだ、悪の秘密結社『シン・デンジャー』は貴様たちに滅ぼされた――だがな……」
ここで勇者全員を睨め付けてやる。
「我々は何度でも蘇るぞ――より強大になって、何度でもな!」
考えてみたらそこまで執念深くしなければいけないほどの深い恨みは、持っていない気がしないでも無いのだが、成り行きでここまでやっちゃったし、あとは意地である。
始めてしまったことは、最後まで責任を持ってやり遂げよう――それが大人というものだ。
「何度蘇ろうと、俺が――いや、俺たち勇者が人間の為にお前たちを亡ぼしてみせる!」
白の勇者が、力強く拳を握って宣言をした。
「無駄なことだ――いくら貴様たち勇者が強かろうと、永遠に人間どもの為に戦うことなど出来んぞ」
ぶっちゃけ俺も永遠に戦うとかは出来ないのだけれど、なんとなく雰囲気と流れで言ってみた。
「確かに俺たちの命は永遠では無い、だが志は――想いは次へと繋ぐことができる。俺たちは想いを永遠に繋ぎ、人間の為に戦ってみせる!」
暑苦しいスポコンキャラな見た目と同じで、言うことも暑苦しくて熱血だな、白の勇者君は。
「無駄無駄無駄――お前たちの戦いは全て無駄だ。貴様たち勇者は、無駄に殺し無駄に殺されるだけの、無意味な争いの歯車をやっているだけに過ぎないのだ」
嘘は言ってない、人間国の戦争なんて無駄どころか迷惑でしか無いし、勇者なんてそんな人間国に洗脳された兵器みたいなものなのだから。
「偉そうにほざいてんじゃねーよ! 負け犬が!」
紺の勇者は見た目通りに短気なようで、俺のセリフにキレて火球を放った。
「紺野さん!」
もっと俺から情報を引き出したかったのであろう白の勇者が、その行動を非難するようにその名を呼ぶ。
「ふはははは、今回は我々の負けだ――勇者の諸君、また会おう!」
カブトムシ男である肉体を火球に焼かれながら、最後の生命力と気力を振り絞って、俺はなんとか捨てゼリフを残すことができた。
そういえば幹部たちの魂を回収し損ねたなと思う。
俺を庇って死んだ火事校長の魂だけがかろうじて視界に入ったので、回収しておこう。
「黙れ化け物!」
鉄の勇者の剣が、袈裟懸けに俺にとどめを刺す――こうして悪の組織の首領は死んだ。
悪の秘密結社シン・デンジャーは滅び、人間国には再び束の間の平和が戻ったのであった。
☆ ★ ☆ ★ ☆
― 人間国内のどこか・予備の秘密の畑 ―
「むう~、ヒマだコン」
戦闘の役にはほぼ役に立たないので先に逃がされたタッキであったが、合流予定の首領たちが待てど暮らせど到着しない。
食料は畑で収穫できるものを食べているが、この場所はキッチンがまだ完備されていないので、食べられるものは生食できるものだけだ。
この場所には道具博士もいるのだが、研究室に籠っているのでヒマ潰しの相手にはなってくれない。
「よく生の食べ物だけで、飽きないコンね~」
生食でも全く頓着しない道具博士は、食いしん坊キャラのタッキとはある意味対極な存在である。
「首領はまだコンかな~」
ここまで誰も来ないとなると、みんな勇者に殺られてしまったのだろう。
だけどここには首領の予備の体が実っているので、殺られたら殺られたで、首領だけはやっぱりここに来るはずなのである。
魂が入ったら自動的に実が落ちるはずなので、まだここには来ていないのであろう。
余りにもヒマなので、逆立ちをする。
少し前までマイブームだったが、簡単にできるようになって飽きたやつだ。
逆立ちをしながら首領の実を眺めていたら、ポコッと実が落ちた。
やっと首領がやってきたようだ。
…………
「いやー、殺られたわ。つーかあの歌は無いわー」
「キッチンが欲しいだコン」
「おめーな……首領さんが大変な思いをして死に戻ったってのに、最初に掛ける一声がそれかよ」
このお気楽狐っ子め。
「ここで合流予定だったのに待てど暮らせど来ない首領たちを生の食材だけを食べて不安と寂しさを我慢しつつ来ないから殺られたんだろーなと理解を示しながら健気に待っていた女の子なんだから第一声がキッチンが欲しいと言ったくらいで文句言うな――だコン」
「お、おう……すまんかったな」
「解ればよろしい、だコン」
なんで俺が謝罪せねばならんのかは正直解ってないが、とりあえず謝っておいた。
「それにしても全滅とは参ったなぁ――新しい組織は、まだ作ってる途中だってのに……」
「基地もまだだコンか?」
「そこそこ完成してるけど、今回の反省も踏まえて畑は少し離れた場所に作り直さないとならんし、基地の守りも考え直したい――あ、でもキッチンはもう据え付けてあるぞ」
「だったら早くそっちに引っ越すだコン」
はいはい、解りましたよ。
すぐにでも引っ越して、新しい組織と基地を完成させますよ。
組織って、立ち上げるまでが大変なんだよなー。
今度の組織は獣人たちがメインになる予定だが、能力も性格も違い過ぎるので管理が面倒なんだよね。
だけど苦労しそうな分、戦力的にはきっと期待できる組織にはなるはずだ。
待ってろよ、勇者め。
今度こそ『悪の秘密結社』が勝利してやる。
……勝利、できるよね? たぶん。
シン・デンジャー編、これにておしまいです。




