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異世界で★悪の秘密結社★を作ってみた  作者: 五十路
シン・デンジャーの章
44/68

地を割る巨人! ロプスドワーフ

 ― 秘密基地・指令室 ―


「みんなご苦労だった――で、どうだった?」

 幹部たちとアイムササビ獣人が帰ってきたので、作戦の成果を聞いてみた。


 雷船長と火事校長が、どうしようかといった表情で顔を見合わせる。

 やがて雷船長が、あたしが言うといった感じで口を開いた。

「炎・電撃・酸・光線、全て通用しませんでしたワン」

「まじか……」

 となると、魔法的な攻撃全般が通用しないと考えるのが妥当か……。


 こうなると後は、召喚の鍵となる魔人の女奴隷――イザミアを暗殺するしか、勇者召喚を防ぐ手立ては無いということになる。

 大聖堂内の魔法陣を残しておくというのは、解析されて再使用されそうだから後々不安ではあるが……。


 暗殺に適した改人を作らないといけないな。

 どんなのがいいだろう……。


 考えごとをしていると、目の前の床に穴が開いた――モグゴブリンだ。

 何やら身振り手振りで、何かを伝えようとしているらしい。

 慌てている様子だが、どした?

 解読してみるか……。


 なになに――たくさん、人間、くる、ここに――ふむふむ……ん?

「たくさんの人間が、ここに向かってくると?」

 コクコクと頷くモグゴブリン。

 なるほど――って、それって……!


「人間国が攻めてきたってのか!?」

 まじか!――攻めてくるってコトは、基地の場所を知ってるってコトか!?

 おいおい、何でこの基地の場所がバレた?


「急ぎ偵察に行ってまいります!」

 地割れ店長が大急ぎで外へと向かおうとする。

「うむ、頼むぞ」

 短く返事をして、俺はこの事態が何故起きてしまったかを考える。


 尾行には細心の注意を払っているから、尾けられてはいないはずなのだが……。

 新たな勇者の中に、探索の刻印でも持っているヤツでもいたか――それとも俺が見落として、気付かなかった方法でもあったのか……。


「畑へ行って、未収穫のゴブリン隊を収穫してまいります!」

「迎撃の布陣と準備はあたしがワン! アイムササビ獣人、あんたも一緒に来なワン!」

「アイ!」

 火事校長・雷船長・アイムササビ獣人が、それぞれ自主的に動き出した。


 いったい何故この基地の場所が……。


 見つからない答えを考えている間にも、人間国軍は基地へと迫っていた。


 …………


 ― 秘密基地前 ―


「人間国軍の数はおよそ2000、勇者の数は4人おりました。白の勇者以外は、まだ【魂の刻印】を確認できていない勇者です」

「未見の勇者が3人か」

 こちらが攻撃される側で無ければ【魂の刻印】を確認できるチャンスだ、と喜ぶ事態なはずのだが……。

 どんな【魂の刻印】があるかの情報が無いと、迎撃の為の策も立てられんのが今の現状である。


「収穫したものを含めても、ゴブリン隊は200匹ほどしかおりません」

「布陣は完了したけれど、いかにも薄いワンねぇ」

 火事校長と雷船長の報告が、更なる不安を掻き立てる。

 我が悪の秘密結社――シン・デンジャーが、奇襲に対してこんなに脆弱だったとは……。


 正直、勝てる気がしない。

 となれば、行動目標は1つ。


「良く聞け、お前たち――ぶっちゃけるがこの戦闘、俺は勝てる気がしない。なので目標をまだ確認していない勇者たちの【魂の刻印】を確認することだけに絞る――それが完了し次第、我々はこの基地を破棄し、全員撤退するものとする」


「基地を破棄……ですか……」

 地割れ店長が悔しそうに呟く。


「仕方ないだろうさ、白の勇者1人だってあたしらじゃ持て余す相手なんだからワン」

 雷船長の言葉通りだ。

 実際に白の勇者と相対してみれば解るが、倒すにはあまりにも準備が足りない。


「ならば私たちの役目は、勇者たちを首領の前に引き出すことですね」

 火事校長が行動目標を明確にしてくれた。


「そういうことだ――とにかく俺の視界に入りさえすればいい、勇者を引っ張り出せ」

 その上で1人でも勇者を倒すことができれば、上出来というものだ。

 さすがにそこまでの戦果は、贅沢というものかもしれないが。


「ならば先陣は、この地割れ店長にお命じを――雑魚の兵士を、駆逐して御覧に入れます」

 こいつは今までお留守番が多かったからな――うむ、ここは出番をあげよう。

「よかろう――ならばアイムササビ獣人とともに、先陣を務めよ。人間国軍のザコ兵士を駆逐するのだ」

 この二人なら、勇者以外の兵士など瞬殺だろう。


「先陣の栄誉、ありがたく!」

「お任せくださいアイ!」

 2人が膝をついて畏まった。


 偵察のモグゴブリンが戻り、火事校長が報告させている。

「首領、敵が近づいて来たようです」

 ついに来たか――さぁ、開戦だ!


「うおおぉぉぉぉ!」

 いきなり吠えたのは地割れ店長、変身の為に気合を入れたらしい。

 別に変身するのに吠える必要は無いのだが、なんとなく雰囲気がカッコいいので良しとしよう。


 地割れ店長が本来の姿に変身してゆく――どんどんと巨大化し、身長10mを超える巨体に。

 その正体は、一つ目の巨人――サイクロプス×ドワーフの改人、ロプスドワーフなのだ。


 手に入れたサイクロプスはかなり大型で身長は約20mもあったのだが、交配したことによってドワーフのほうにサイズ感が寄り、この身長となった。

 だがそのパワーは格段に強化され、巨体と相まって凄まじい破壊力を持つ。


「でかい!」

「何だあれは!」

「サイクロプス?」


 正面方向から声が聞こえる――人間国軍が見えるところまで近づいて来たようだ。

 それを見て、ズシンズシンと足音で地響きを立てながら、人間国軍へと近づいて行く巨人。


「我はシン・デンジャー幹部、ロプスドワーフであるロプ! 罪深き人間どもよ、おのれの所業を地の底で悔い改めるが良いロプ!」

 そう叫んだロプスドワーフが、思い切り地面を殴りつけた。


 ドオオオォォン!

 ズズズズズ……。


 大地が大きく揺れ、地面が人間国軍向かってヒビ割れていく――これこそが幹部名を地割れ店長とした、ロプスドワーフの能力である。

 何で特定の方向の地面しか割れないのかは知らん、とにかくこういう能力なのだ。


「あわあぁぁ!」

「助けてくれ!」

「落ちる!」

 割れた地面に人間国の兵士たちが、次々と落ちていく。


「おい、押すな!」

「止まれ! 落ちるだろうが!」

 進軍してきた人間国兵士が、地割れに落ちまいと進軍を止めた――が……。


「そこで止まっても、まだ射程圏内だアイ――目からビーム、扇射(せんしゃ)だアイ!」

 アイムササビ獣人の第3の目から、ビームが扇状に発射される――威力は減衰しているようだが、地割れの向こう側にいる兵士たちは、そのビームを受けて大きく数を減らした。


 序盤戦はこちらが圧倒している。

 だが、倒しているのは所詮は兵士だけだ。

 勇者は未だ無傷である。


 軍の中央付近に、そいつらは平然と立っていた。

 一番前に立っている紺色の特攻服を着た勇者が、おそらくビームを防いだのであろう。

 いや、特攻服って……あとその髪型はリーゼントとかいうやつでは……?


 遠目で顔が良く見えんが、お前たぶんおっさんだろ。


 ※ ※ ※ ※ ※


 紺野(こんの) 邦夫(くにお)


【魂の刻印:絶対障壁】 全ての攻撃を無効化する4m四方の正方形の障壁を、前面に発生させる。

【魂の刻印:火球】 火の玉を放つ。最大直径5.3m・射程距離333m。

【魂の刻印:毒無効】 毒が無効となる。


 ※ ※ ※ ※ ※


 やっぱりな――【魂の刻印】を覗いてみたら、この紺色の特攻服のおっさん(たぶん)は【絶対障壁】なんてのを持っていやがった。

 アイムササビ獣人のビームを防いだのは、これだったか。


 攻撃能力は【火球】――どの程度の攻撃能力を持つかは、使わせてみないと判らない。

 ついでに【毒無効】持ちか……。

【絶対障壁】は前面にしか発生させられないようだから、背後から襲撃させれば……。


 そんなことを考えていたら、紺の勇者が火球を放ってきた。

 標的はロプスドワーフ。

 真っ先に狙って来たのは、目立つ巨体だから――それとたぶん地割れで、足場が不安定になるのを嫌ったというのが理由だろう。


 ドンッドンッドンッと、3発の火球が命中した。

「うおぉロプ!」

 ロプスドワーフの巨体が火球によって炎上し、その勢いに押し込まれてドオォンと地面に倒された。


「早く火を消しなさい!」

「土をかぶせるんだワン!」

 火事校長と雷船長が、ゴブリン隊にロプスドワーフの消火活動をゴブリン隊に命じているが、その間にも紺の勇者はこちらに向かって火球を放ってくる。


「やらせないアイ!」

 次々と飛んでくる火球を、ビームで迎撃するアイムササビ獣人。

 弾速の遅い火球は、放たれた直後にビームに撃墜され、逆に紺の勇者が【絶対障壁】を張らねばならなくなった。


「全員、紺野さんを先頭に、割れた地面に気を付けながら前進! 接近戦に持ち込むぞ!」

 指示を出しているのは白の勇者、どうやらあいつが指揮官のようだ。

 マズい――接近戦に持ち込まれたら、白の勇者にこちらが蹂躙されかねんぞ……。


「モグゴブリン隊、スラゴブリン隊――地面の裂け目から攻撃! 敵の足止めをしろ!」

 幹部たちはまだロプスドワーフの消化に手間取っているので、もう直接俺が指示を出したほうが良さそうだ。


 ここで妙な事に気付いた。

 人間国軍の中に、なぜか1匹のイノゴブリンがいたのだ。

 なんでそんなところに……?

 戦闘中であることを忘れ、つい敵軍の中にいるイノゴブリンを凝視してしまう俺。


 うん?……そうか、そういうことか! くっそやられた!


 そのイノゴブリンの首には、奴隷の首輪がはめられていた。

 何らかの方法でイノゴブリンを捕らえて奴隷の首輪をはめ、基地までの案内をさせる――こんな単純な手にしてやられるとは……。


 基地の場所が敵に知られた件は後で考えることにしよう――今急ぐべきことは、勇者の【魂の刻印】を確認することだ。

 まだ確認していないのは2人。

 ゴブリン隊が地面の裂け目から襲撃しているおかげで進軍速度は低下しているが、勇者たちは着実に裂け目の無いこちら側へと近づいてきている――急がねば。

 裂け目から襲撃しているゴブリン隊は、既に半減しているのだ。


 まずは勇者っぽいんだけど、普通の鉄の鎧を身に着けている比較的若い男だ。


 ※ ※ ※ ※ ※


 火野(ひの) 鉄平(てっぺい)


【魂の刻印:目利き】 物の価値が正確に判る。

【魂の刻印:剣豪】 剣・刀の達人になる。

【魂の刻印:投網】 投網を使って、生き物を捕獲できる。網の強度は銅線程度。


 ※ ※ ※ ※ ※


 イノゴブリンの捕獲をしたのは、こいつだったか!

【目利き】はどうでもいい。

 攻撃面の刻印は【剣豪】――近接戦闘を避ければ、攻略はできそうだ。

【投網】――こいつがイノゴブリンを捕獲した刻印だろう。

 戦闘にも使えそうだから、注意はすべきか……。


【魂の刻印】の確認をしているうちに、ついに勇者たちが裂け目の無いこちら側へと辿り着いた。

 生き残った人間国軍の兵士たちも、じきにこちらへ到着するだろう。

 まだもう1人、【魂の刻印】を確認していない勇者がいるというのに……。


 近接戦に持ち込むべく、勇者たちが散開を始めた。

 こちらもロプスドワーフの炎が、ようやく鎮火できた。


 避けたかった勇者との乱戦が、ついに始まろうとしていた。

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