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異世界で★悪の秘密結社★を作ってみた  作者: 五十路
シン・デンジャーの章
42/68

6人のバッタ男

ヒーローものによくある、ニセモノ回です。

 ― 国都・西門付近 ―


 急いでいたので、襲撃地はいつもの場所にした。

 早く再改良したバッタ男の能力を確認したかったので。


 ついでに見物する店も、また組織の店――イノシシ肉料理の専門店の2階個室である。

「今日は何食べるだコン?」

 例によってタッキも付いて来ているが、今日は相手をしてやるつもりは無い。


「何か適当に頼んどけ、俺は見物に忙しい」

 タッキにそう言い放った俺は、窓枠にかぶりついて見物の臨戦態勢である。

「ほーいだコン。適当に頼んどくコンねー」

 うむ、そうしろ。


 5人の量産型バッタ男がやってきた。

 暴れている。

 暴れているのだが……。


 やってることは器物損壊、その辺にある樽や箱を壊しているだけである。

 お前らはどこぞのRPGの主人公か!

 住民がワーキャー言いながら逃げているから、たぶんバッタ男は出て来るとは思うんだけどさ……。


「バッタマン……どうして……」

「やっぱりあいつは悪い奴だったんだ!」

「バッタマンのおじちゃんは、わるい人なんかじゃない!」

「じゃああれは何だ! それに5人もいやがるぞ!」


 住民たちが何やら騒いでいる。

 バッタ男の評判が暴落しているようだ。

 いや、別にバッタ男の評判を下げようとか、そういう意図は特に無かったのだが……。


「バッタマンは、私たちの味方じゃ無かったの!?」

「俺はいつかあいつが裏切ると思っていたさ!」

「バッタマンのおじちゃんは、いい人だもん! いい人……すん……ぐすん……うわあぁぁーん! おじちゃんはいい人だもーん! うわあぁーん!」


 ほら、子供が泣いてるぞ。

 早く来い、バッタ男。


 どこからともなくハーモニカの音が聞こえてきた――おい、まだそれやるのかよ。

「バッタ」「バッタ」「バッタ」

 量産型バッタ男たちが探している。


 なにげにハーモニカが前回より少し上達……あ、ミスった。

 …………最初からやり直してんじゃねーよ! あ、また間違った。


「何の因果か異世界に、流れ着いたが俺の運命、軍や国には義理など無いが、人の情には恩がある――街の人々を傷つけるやつは、この俺がゆるさん! 俺の名はバッタマン! この街の人々は、俺が守る!」

 ハーモニカ諦めて、口上をやるんかい!

 つーか、お前もうハーモニカは止めたほうがいいんじゃね?


「とう!」

 バッタマン着地。

 量産型バッタ男たちが見つける前に、自分から姿を現すんじゃねーよ。


「まさかニセモノが現れるとはな――俺も有名になったものだ」

 いやバッタ男よ、その認識はどうだろう――認知されているのは、この西門付近だけだと思うぞ。

「さぁ来い! 街の人々に迷惑をかけるヤツは、この俺が倒してやる!」

 おう、いいぞ早くやれ――検証開始だ!


「バッタ」「バッタ」「バッタ」「バッタ」「バッタ」

 5人の量産型バッタ男がバッタ男を取り囲み、一斉に襲い掛かる。

 ゴツンゴツンと鈍い音が鳴り響いた。

 全員の拳や蹴りが、まともにバッタ男へと入ったようだ。


 だが、バッタ男は微動だにしない。

 ダメージがある気配も無い。


「とう!」

 バッタ男が軽く飛び上がり、縦軸で回転しながらぐるりと回し蹴りを飛ばす。

 量産型バッタ男たちが、軽く吹き飛ばされた。


「無駄だ! 今の俺には貴様たちの攻撃など、通用せん!」

 よし、いいぞいいぞー。

 あの程度の攻撃にはびくともしないか、アイアンゴーレムの硬さはちゃんと継承されたようだな。


「バッタ」「バッタ」「バッタ」「バッタ」「バッタ」

 今度は量産型バッタ男たちが、俊敏な動きでヒットアンドアウェイの攻撃を繰り出し始めた。

 ダメージが無くとも、チクチクと攻撃しては逃げるを繰り返されるのは、けっこうイラっとするだろう。


 バッタ男が量産型たちの動きに合わせて、反撃を始めた。

 量産型バッタ男たちの早さと比べても、そん色のない動きだ。

 たが少しだけ遅いか?


 アイアンゴーレムを交配したことでバッタ男の重量もかなり重くなったはずなのだが、それでもこの速さが出せるなら十分だ。

 アイアンゴーレムの硬さとバッタの俊敏さが、高いレベルで融合されているようだ。

 これが3種交配の成果か……。


「これでどうだ!」

 自分の早さが以前よりやや遅くなっていることに気付いたらしいバッタ男が、戦い方を工夫して量産型をようやく捕らえたようだ。


 バッタ男のパンチが当たり、量産型が1体吹き飛び倒された。

「バッタ」「バッタ」「バッタ」「バッタ」

 残りは4体。


 今度は大きく飛び上がり、羽を使って空中からの攻撃を仕掛ける。

 バッタ男もそれに呼応して、空中戦を始める。

 あれ? バッタ男のほうが量産型より速くね?


 どうしてだ? 以前より重くなっているから、本当なら遅くなるはずなのに……。

 よく見ると、羽のしなりが違う。

 量産型の羽ばたきは、その羽が柔ら過ぎて空気を完全には捕らえられていない気がする。


 しかしバッタ男の羽は、しなやかさこそ同じだが空気を捕らえる時の羽の強度が全然違うのだ。

 しっかりと空気を捕らえているその羽は、バッタ男に確かな推進力を与えていた。


「バッタパーンチ!」

 倒される量産型。

「バッタキーック!」

 また倒された。

 空中戦では、量産型など相手にならないようだ。


「バッタ」「バッタ」

 残った2体が、バッタ男に組み付いた。

 今度は力比べだ。


 ガッチリと組み付いて膠着状態となるが、バッタ男には余裕があるようだ。

「ふんっ!」

 軽く気合を入れて、バッタ男が2体の量産型を持ち上げる。

 パワーはバッタ男が数段上だ。


「とう!」

 2体の量産型が、同時にぶん投げられた。

 どしゃりと落ちたところに、バッタ男が攻撃する。


 宙に飛び、空中で一回転。

「バッタキーック!」

 1体の量産型にキックが決まり、そのまま足場にして再び空中で一回転。

「二段式バッタキーック!」

 2体目の量産型にもキックが決まった。


 全5体の量産型バッタ男が倒された。

 再改造した新バッタ男の性能評価は終わった。


 アイアンゴーレムの硬さとパワーが加わったが、重くなった分僅かだがスピードが遅くなった。

 ジャンプ力もほとんど変わらず、羽の推進力は上がった。

 全体的に見て弱点が減った分、かなりの能力アップとなっている。


 これならば3種交配で、組織の戦力は底上げされるだろう。

 実験は大成功だ。


「やった! 本物のバッタマンの勝利だ!」

「ほら、やっぱりバッタマンのおじちゃんは、正義の味方だったんだよ!」

「バッタマンばんざーい!」

 やんやの声とともに、住民が喜んでいる。


 バッタ男は住民たちの喝采を浴びながら、照れくさそうに駆け去って行った。


 ――――


「いやぁ~、いいデータが取れた」

 結果に満足して、かぶりついていた窓から離れると、室内には腹を膨らませたタッキが、並べた椅子にあおむけで苦しそうに横たわっていた。

 テーブルの上には、何を食べたのか丼が2つとお重が1つ、更に皿が2枚も空になっていた。


「お前、食い過ぎだろう」

 返事の代わりに『げふぅ』と、げっぷをしやがった。

 おまけとばかりに、ポンポンと膨れた腹を叩いている。


「えい」

 なんとなくムカついたので、膨らんだ腹をちびっとだけ押してやった。

「うげ……やめれーだコン。戻っちゃうんだコン……」

 じたばたしながら、力なく抗議するタッキ。


「こんなドカ食いするからだろーが」

「だって、たまにしか来れないんだコンよー」

「だからといって食い過ぎだ」

「しゅりょーはいつでも食べられるからいいコンけど、タッキはなかなか食べられないコンよ」

 確かに獣人のタッキは、街には俺が連れてこないと入れないが……ふむ。


「だったら、今度人間でも交配してやろうか?」

「!」

 タッキがビクっとして、まんまるに目を開いて俺を見た。


「なんだその反応は」

「タッキの体が、しゅりょーに狙われてるコン!」

 ん? こいつは何を言って……あ。


「ちげーよ! そういう交配じゃねーよ!」

「交尾して種付けするんじゃないコン?」

「しねーよ! 畑で交配するって話だ」

「あおかん……」

 どこで覚えやがったそんな言葉。


「ちげーと言ってんだろーが! 3種交配ができるようになったから、再改良で人間も交配して、人間に変身できるようにしてやろうかと言ってんだ!」

「だよねー、だコン」

「てめー、分かってて言ってやがったな……」

「まぁまぁ、ご飯でも食べて落ち着くだコンよ」

 そう言われて、腹が減っているのを思い出すが――俺の分のメシはどこだ?


「テーブルの上に見当たらんぞ」

「椅子の上コン」

 椅子の上?――あった、俺の椅子の上に丼が1つ。


「おっ、猪丼か」

 猪丼――それは猪のバラ肉を食べやすい薄さに切り分け、それにタレを絡めて炒めたものを、丼飯に乗せた比較的簡単な一品である。

 タレの味はうな丼のタレに似た甘辛い味で、猪の脂によく合う。


 帯広生まれの俺にとっては、故郷の味のようなものだ。

 ちなみにこの世界には、猪が家畜化された豚は存在しない。


 肉は基本的に、狩りで手に入れるものなのだ。

 豚、食べたいなぁ。


 猪なんて、豚のニセモノみたいなもんだ。

 猪が改良されているのだから、やっぱり豚のほうが美味いと俺は思う。


 やっぱホンモノの豚が食べたいなぁ。

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