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異世界で★悪の秘密結社★を作ってみた  作者: 五十路
シン・デンジャーの章
40/68

鋼鉄改人ゴーレムエルフ

 で、茶の勇者――野呂田が組織の転入生になることが決まったわけなのだが……。


 野呂田には適当な諜報員を接触させて『適当な改人を送り込むから、やられて死んだふりをしておけ』と、指示を出しておいた。

 人間国も死んだとなれば、追っ手をかけるようなことは無いだろう。


 それだけの為に改人を出撃させるのも勿体無いので、別な目的もあったほうがいいだろう。

 なので検証も兼ねて、サヒューモ教の大聖堂の破壊を試みることにした。

 大聖堂の破壊に出向けば軍司令部にいる勇者も出て来るだろうから、まだ見てない勇者が見られるかもしれないし。


 ――――


 ― 秘密基地・指令室 ―


「火事校長よ」

「準備は整っております」

 うむ、話が早いね。


 ズシンズシンと足音がして、改人が姿を現した。

 今回用意した改人は、こいつだ。

 四角い胴体に四角い手足、四角い頭になぜか尖った耳を持つ、ゴーレムにしてはちょっとスリムで金属の光沢を放つその改人。


 アイアンゴーレム×エルフの改人、ゴーレムエルフだ。

 こいつの肉体は硬い。

 鉄の身体を持つアイアンゴーレムを交配したゴーレムエルフではあるが、改良した上に品質向上しているその身体は、鋼鉄すらはるかに超える硬さを手に入れている。


 そんなもはや謎金属と言えるようなボディと、強化されたゴーレムパワーがあれば、ひょっとしたら魔法陣で強化された大聖堂の壁も破壊できるかもしれない。


「ゴーレムエルフ、お召しにより参上しましたレム」

 ズズウゥーンと音を立てて、ゴーレムエルフが(ひざまず)く。

 指令室が揺れているのは、気のせいではなさそうだ。


「ゴーレムエルフよ、サヒューモ教の大聖堂襲撃を命じる」

「ははっレム!」

「まずは、大聖堂が破壊可能かどうかの確認をせよ。それとおそらくは勇者が出て来るだろうから、その対処だ。あとは流れでよろしく」


「お任せくださいレム。大聖堂など、この吾輩が木っ端みじんに打ち砕いてみせまするレム」

「うむ、期待しているぞ」

「ははっ! では行ってまいります、我らがシン・デンジャーの為に!」


 ズシンズシンと地響きのような足音をたてながら、ゴーレムエルフは出撃した。

 ガッツリ凹んだ足跡を残して――あいつ重いからなぁ……。


「凹みはちゃんと修復させておきます――おい、そこの」

 火事校長が、近場にいたモグゴブリンに、テキパキと支持を出し始めた。。

「頼む。あと人間国の近くまでの足跡も消しといてくれ、辿られるとこの秘密基地の場所がバレる」

「畏まりました」


 自分で作っておいて言うのもなんだが、鉄の塊ってやっぱ重いんだな……。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


 ― 国都・大聖堂前 ―


 ズシンズシンと、ゴーレムエルフは大聖堂に近づいて行く。

 戦闘員は断りたかったが、イノゴブリンを率いている。

 集団に命令すると言うのは苦手なのだが、首領の命令とあらば仕方あるまい。

 だが……。


「吾輩1人で十分レムよ」

 自身の能力ならば何の問題も無いのに、とゴーレムエルフは不満であった。


 ――――


「本当に1人で大丈夫かねー。あ、ソース取って」

「えぇー、目玉焼きには醤油コンよ!」

「いいからソース寄こせ、俺はソース派なんだよ」

「邪道コン! 半熟の黄身に醤油が王道コン!」


 そう、お察しの通り俺たちはまた組織の店で、改人の活躍を見物予定だ。

 今回は現場の大聖堂前からちょっと離れた場所だ、街の中心部なので地価が高すぎて、大聖堂前には店を建てられなかったのだ。

 それでも十分に見物できそうな場所にあるこの店は、組織の定食屋である。


 日替わり定食を、タッキの分と2人前頼んだら目玉焼きが出て来て、先ほどの状態になった。

 目玉焼きにはソースだよね?


 …………


 不毛な言い争いをしていると、向こうからようやくゴーレムエルフがやってきた。

 その重さゆえか、歩くのがかなり遅い。


 窓枠で頬杖をつきながら眺めていると、どこからともなく下手くそなハーモニカの音が響いてきた。

「む、どこだレム?」

 ゴーレムエルフも気になったようだ。

「ゴブ」「ゴブ」「ゴブ」「ゴブ」

 イノゴブリンたちも探している。


 あ、見つけた。

 宿屋の屋根の上にいた。


「ここだ!」

 うむ、本人もここだと宣言した。


「貴様、何者だレム!」

 あー、それな。聞かなくても知ってるんだなこれが。

 毎度おなじみの組織が作った――というか俺が趣味で作った改人。

 なんか知らんが、正義に目覚めてしまった男。


「何の因果か異世界に、流れ着いたが俺の運命、軍や国には義理など無いが、人の情には恩がある――街の人々を傷つけるやつは、この俺がゆるさん! 俺の名はバッタマン! この街の人々は、俺が守る!」

 そう、その男の名はバッタ男――正義に目覚めた、元勇者の改人であった。


 つーかバッタ男よ、お前はいったいどこを目指しているんだ?

 さっきのハーモニカは何のつもりなんだ?

 お前の目指してるヒーロー像って、どんなん?


「とう!」

 バッタ男が空高く舞い上がり、空中で一回転をしてからザシャッと着地した。

「ふん! たかがバッタごときが、吾輩の使命を邪魔をするでないレム!」

「貴様の使命が何であろうと、このバッタマンが許しはしない!」

 おう……なんかヒーローショーみたいだな。


「ふん! 許さないならどうするレム」

「もちろん、貴様を倒す!――バッタパーンチ!」

 バッタ男のパンチが、ゴーレムエルフにさく裂した……が。


 ゴンッと鈍い音がするだけで、ゴーレムエルフはビクともしなかった。

「なにっ!」

「お前の攻撃など、無駄レム」

 ブン! とゴーレムエルフが腕を振り回し、バッタ男が後方へ飛びすさって避ける。


「ならばこれはどうだ! とう!」

 羽まで使って空高く飛びあがったバッタ男が、右足をゴーレムエルフへと突き出した。

「バッタキイィーック!」

 重力に羽の加速を加えたバッタ男のキックが、うなりを上げて向かって行く。


 ガシィッ!

 胸のど真ん中に命中したキックは、それでもゴーレムエルフを動かすことすら出来なかった。

「ふん!」

「ぐふうぁ!」

 ゴーレムエルフがまた腕を振り回し、今度はバッタ男がキックの体勢のまま吹き飛ばされた。

 そのまま最寄りの建物に突っ込み、バッタ男はそのまま気を失ったようだ。


「口ほどにもないレム」

 一瞥しただけで背を向けたゴーレムエルフは、再び大聖堂へとズッシリとした歩みを再開した。


 …………


「あっさりやられたコンね」

「バッタだとこれが限界だったのかな……」

 向こうで見ていたヒーロー物のTVの影響か、俺は勝手にバッタの改人は強いというイメージを持っていた。

 だが、現実はそうでも無かった。


 TVならここで、パワーアップのイベントがあったりするのだが……。

 その時、俺は閃いた――これなら上手く行けばバッタ男の強化ができるし、組織の戦力の増強にも繋がる。

 やってみる価値はあるはずだ。

 実行するのは簡単なので、今はゴーレムエルフのほうに集中しよう。


 果たして、大聖堂の壁は破壊できるだろうか?

 破壊できて欲しいものだが、さて?


 …………


 ようやく目的地へと到着したゴーレムエルフは、大聖堂を見上げた。

 中からワラワラと出てきた人間どもは、イノゴブリンたちが駆逐している。

「さて、吾輩とお前――どっちが硬いか、勝負だレム」


 まずは小手調べとして殴る。

 ドオォンという大きな音がしたが、壁はビクともしない。

 だが、こちらにも大した衝撃は無い。


「ならばこうだレム」

 今度は思い切り蹴る。

 再びドオォォンと大きな音が響いた。

 壁には傷一つ、ついてはいなかった。


「そんな馬鹿な! 吾輩に……吾輩に壊せぬなどあり得ないレム!」

 殴る殴る殴る! 蹴る蹴る蹴る!

 ゴーレムエルフはとにかく、闇雲に大聖堂の壁を叩き続けた。


「吾輩に壊せぬなどとぉー!」

 殴っても蹴っても、壁は壊れない。

 ひび割れて砕けていったのは、ゴーレムエルフの自尊心(プライド)だけであった。


「そこまでだ化け物、俺が相手だ」

 後ろから何かがやってきた。


 …………


「ようやくやってきたか」

 ゴーレムエルフのところに、ようやく野呂田が到着したようだ。

 それにしても、ゴーレムエルフでも歯が立たないとか……あの建物、どんだけ強化されてるんだよ……。

 これは、物理攻撃で破壊するのは無理かな?


「人間か――丁度いい、憂さ晴らしをさせてもらうレム!」

 野呂田に殴り掛かるが、ひょいひょいと避けられる――【自動回避】の刻印の能力だ。

 速度の遅いゴーレムエルフでは、攻撃が当たることはあるまい。

 だがこの為に、渋るゴーレムエルフにイノゴブリンを連れて行くよう命令してあるのだ。


 イノゴブリンたちが野呂田に掴みかかる。

 どんなに【自動回避】しようとも、回避できるスペースが無ければどうにもならない。

 野呂田はイノゴブリンたちに、取り押さえられた。


「ちょこまか逃げおってレム、もう逃げられないレムよ!」

 ゴーレムエルフの拳が、イノゴブリンもろとも吹き飛ばした。


 野呂田の体はひしゃげ、死体となった。


 うむ、死んだふりをさせて、野呂田をどさくさで回収するつもりだったのだが――死んだら死んだでまぁいいか、ついでに改人にでもしてやろう。

 魂は回収しといて、死体は後で墓暴きでもしよう。


「野呂田ー!」

 ゴーレムエルフに吹き飛ばされた野呂田が見えたのだろう。

 叫び声を上げながら、白の勇者――白場がやってきた。

 相変わらず昔のスポコン漫画の主人公のように、暑苦しい見た目をしている。


 つか、危なかった……。

 もう少し早く来ていたら、野呂田が助かっちゃうとこだよ。


 ……にしても、新人勇者は一緒じゃないんだな。

 白の勇者1人で十分と判断されたか……確かにあいつ強いからなー、仕方あるまい。

 ゴーレムエルフがあいつを倒すなり苦戦させるなりできれば、新人勇者も出て来るのだろうけど……。

 駄目ならまた別な策を考えないと。


「よくも野呂田を!」

 白の勇者――白場の拳が振り抜かれ、ゴーレムエルフがその拳を右の上腕で受ける。

 バギン!

 右の上腕部分が、折れて吹き飛んだ。


 あのゴーレムエルフの謎金属な腕を、ポッキリいっちゃいますか……。

「馬鹿な! 吾輩の腕が!」

 気持ちは良くわかる。


「逃がさん!」

 後ずさるゴーレムエルフを、白の勇者が追撃しようと拳を構える。

 ……が、その動きがピタリと止まった。


「レム、レム、レム、どうした? 攻撃しないレムか?」

「むう……」

 その背には、大聖堂の壁――ゴーレムエルフの身体でも、傷一つ付けられなかった壁を背にしていたのだ。

 なるほど、面白いことを考えたな。


 ゴーレムエルフでも壊せなかった壁と、ゴーレムエルフの腕を折った白の勇者の拳。

 白の勇者の攻撃をかわすなり、攻撃が貫通するなりすれば、大聖堂の壁と白の勇者の拳が激突する。

 そうなったら、どっちが勝つんだろう?


 大聖堂の壁か、それとも白の勇者の拳か。

 おら、ワクワクすっぞ!


「どうだレム。これなら迂闊に攻撃は出来ぬだろうレム」

 いや、ここは是非とも迂闊に攻撃して欲しい。


「ならばこうだ!」

 白の勇者がゴーレムエルフの残った左腕を掴み、ぶん投げた。

 投げ技とかそういうのでは無い、ただ掴んで持ち上げて地面に叩きつけたのだ。


 えぇー……せっかく壁vs拳の激突を楽しみにしてたのに……。

 空気読めよ、白!


 ゴーレムエルフは、叩きつけられた地面に半ば埋まっている。

「これならばもう、何の問題も無い!」

 白の勇者も、持ち上げた拍子に膝まで地面に埋もれていたが、ズボッズボッと両足を抜いてゴーレムエルフの横へと歩を進める。


 その足は裸足だ。

 履いていたブーツは、地面の中でハマってしまったのだろう。

 深い泥や雪に足を突っ込んだら、足を抜くときに長靴が持っていかれる系のアレである。


「ぬうおぉぉ! 吾輩が負けるなどレ……」

「ふんっ!」

 ちょっとした気合と共に、白の勇者の拳がゴーレムエルフの身体をぶち抜いた。

 ゴーレムエルフは沈黙し、勝負はついたのだった。


「野呂田……」

 白の勇者が、野呂田のひしゃげた死体へと歩いて行く。

 野呂田の奴は仲の良い勇者は2人だけと言っていたが、ひょっとしてこいつがそのうちの1人だったのだろうか?


「お前とは1度、話をしてみたいと思っていたのに残念だ」

 いや、話したことすら無いのかよ。

 だったら『野呂田ー!』とか叫びながら登場すんなよ、紛らわしい。


 ゴーレムエルフの魂は俺が回収し、野呂田の死体は白の勇者が運んで行った。

 戦いは終わった。


 …………


 一連の出来事をずっと眺めていた俺は、日替わり定食を食べるのをすっかり忘れていた。

 うわー、絶対冷めちまったよなー。

 席に戻ってテーブルの上の日替わり定食を見た俺は、愕然とした。


「な……なんだこれは!」

 そう、そこにあった日替わり定食には……。


「タッキ! てめー、俺の目玉焼きに醤油かけやがったな!」

「だって、目玉焼きには醤油だコン」

「俺はソース派だって言ったろーが!」


 ソース派vs醤油派。


 こっちの戦いは続く……。



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