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異世界で★悪の秘密結社★を作ってみた  作者: 五十路
シン・デンジャーの章
38/68

キノコドワーフは二度死ぬ!

 ― 国都・西門付近 ―


 そう、ここは国都の西門付近。

 いつものロケ地……じゃ無かった、いつもの襲撃地である。

 狼ドワーフや蜂ドワーフに続き、今度はキノコドワーフに襲撃される予定だ。


 別にこの場所に特別な恨みがある訳では無い。

 今は国都のあちこちに組織の店があるので、今の季節の風向きを考えると、組織の店にキノコドワーフの毒胞子が飛ばなそうな地域が、この辺しか無かったのだ。


 そんな訳で、俺たちはまた組織の店――イノシシ肉料理の専門店の2階個室で、見物する予定である。

 前回は特選ロースカツ重を食べたので、今回は別な品を頼もう。


 チン、と呼び鈴を押して従業員のおねーさんを呼ぶ。

 このおねーさんも組織の諜報員だ、客から噂話などを仕入れる役目である。

 ちなみに組織の店の従業員は1店舗に4~5人ほど、あとは普通に人間を使っている。

 店が繁盛し過ぎたせいで組織の人員が足りなくて、これ以上増やせないのだ。


「失礼いたします、ご注文はお決まりでしょうか?」

「え~と、今日は(イノ)しゃぶにするよ、2人前お願い――あ、待って。肉だけ追加で2人前って、できる?」

「もちろんでございます、首領」

「いや、首領は止めてよ、今日は普通にお客さんとして来ているんだからさ。てーか、普通のお客さんにしないようなサービスはしなくてもいいからね」


「肉のみ追加も、普段から対応しておりますのでご安心ください。(イノ)しゃぶ2で追加で肉2――他にご注文はございますか?」

「ごはんの(大)ひとつだコン!」

 言い忘れていたが、当然タッキもくっついて来ている。


「俺はレバ刺と……猪汁で」

 組織で栽培しているイノシシは、臭みも無く病原菌も無い、もちろん寄生虫などもいない。

 俺の【農神】の刻印の『品質向上』による、ご都合主義のおかげだ。

 もちろん生レバーを食べてはいけないという法も人間国には無いので、レバ刺を食べても何の問題も無かったりするのである。


 おねーさんが注文を確認して去って行った。

 外でも眺めながら、待つとしよう。


 …………


「なぁ、タッキよ。赤の勇者も出てきそうだけど、どうする?」

「様子見だコンよ。まだ勝てないコンからね」

「何の改人になりたいか、リクエストがあれば可能な範囲で応えてやるぞ」

「じゃあドラゴンでだコン」

 おい、こら。


「可能な範囲って言ったろうがよ! ドラゴンなんてまだまだ狩れねーっての!」

「じゃあ早く狩れるようになってだコン」

「無理だ」

「狩って! 狩って! 狩って~! だコン!」

「お前は駄々っ子か!」

 寝っ転がってジタバタしてんじゃねーよ!


 そんなこんなしているうちに、猪しゃぶが運ばれてきた。

 早速食べよう。


 まずは魔道コンロに火を入れる。

 魔道コンロに使用する魔力は、客の自前だ。だから店の光熱費の負担は無い。

 しゃぶしゃぶする湯には昆布を敷いてあるので、濃くは無いが出汁(だし)は出る。

 湯が沸いてきたきたようだ。


 サッと野菜を投入し、鍋が落ち着いてから薄切りのイノシシ肉をしゃぶしゃぶする。

 ほんのり赤身が残る程度に潜らせて、軽く湯を切りタレを付ける。

 このタレはジンギスカンのたれを参考にしつつ、少しポン酢系の酸味でさっぱり感を出して、大根をメインに生姜やにんにく、タマネギにリンゴなどをすりおろして作ったものである。


 ジンギスカンのたれのように臭みを打ち消し、それでいてさっぱりとした味。

 すり下ろしたリンゴとタマネギのほのかな甘みが、肉のうま味に絡む。

 僅かだが臭みのある猪肉には、ぴったりだ。


 もちろん普通のポン酢やごまだれも用意してあるが、俺はこれが一番好みである。

 タッキはごまだれ派だ。

 てか、肉ばっか食ってんじゃねーよ……。

 これは、肉追加したほうがいいかな?


 外が騒がしくなってきた。

 どうやらキノコドワーフがやって来たようだ。


 窓は開け放してあるので、ひょっこりと首を出して、門のほうを見る。

『キノ、キノ、キノ』とキノコドワーフが毒胞子をまき散らしながら、向こうからやってきたのが見えた。

 お供は戦槌(ウォーハンマー)装備のイノゴブリンである。


 すっかり襲撃に慣れた住民の皆さんが、エキストラよろしく『ワー、キャー』と言いながら避難していく。

 最近は近隣住民主導で避難訓練もしているらしいので、なかなか整然とした避難っぷりだ。


 キノコドワーフが、第1襲撃目標に到達した。

 イノシシ肉と鶏肉がメインの飯屋だ。


 ここは別に、組織の店の邪魔になるとかそういうのではない。確かに客は競合するが、圧倒的に組織の店が勝っている。

 ただこの店の親父が、店の客を組織の店に取られたのを根に持って、道端に落ちているウン〇を深夜に人目を避けて、組織の店の壁にぶつけていたのだ。


 ふふふふ、組織の情報網を甘く見るなよ――貴様の悪事など、ぐるっとお見通しだ!

 やれ! キノコドワーフよ!

 打ち壊しだ!


 キノコドワーフが店内を荒らし、イノゴブリンたちが戦槌を振り回す。

 第1目標撃破!

 続いて第2目標へ!


 第2目標は狼肉がメインの店。

 ここの女将はやはり組織の店に客を取られて、嫌がらせのつもりか組織の店の看板に、銅貨でひっかき傷を3つもつけた奴だ。


 ふふふふ、犯人を特定するなど容易いことよ――真実はいっつも1つ!

 やれ! キノコドワーフよ!

 ぶち壊してしまえ!


 第2目標を破壊しているときに、勇者たちがやってきた。

 ちっ! もう少しで全壊だったのに……。


「待て化け物! それ以上はやらせん!」

 どこかのヒーローみたいなセリフでやってきたのは茶の勇者――野呂田。

「よっしゃ任せな! 俺様が軽くぶち殺してやるぜ!」

 どこかのザコヒャッハーみたいなセリフを吐いているのは赤の勇者――辺雅だ。


 そしてもう1人――灰色の鎧とローブを身に着けた男。

 たぶんこの男が、新たに召喚された勇者の1人であろう。

 何やらずっと、下を向いてブツブツと何かを呟いている男。


 フードを深くかぶっているから顔が良く見えないが、何か疲れているような雰囲気で、中背で小太りの中年男だ。

 確か闇魔法の【魂の刻印】を持っているとかいう噂だったな。


 早速【魂の刻印】を確認してみよう。


 ※ ※ ※ ※ ※


 灰田(はいだ) 集治(しゅうじ)


【魂の刻印:うわばみ】 アルコールにとてつもなく強くなる。毒耐性効果付加。

【魂の刻印:体内時計】 体内時計によって、いつでも正確な時間が分かる。

【魂の刻印:精神状態変更】 ランダムで精神の状態を変更する。有効範囲、周囲17m。効果は永続。


 ※ ※ ※ ※ ※


 おや? 闇魔法の刻印なんて無いぞ――噂はガセだったようだな。

 酒が強くて、時間が正確に判って……。

 この【精神状態変更】というのは、どういう効果があるのだろう?


 怒り状態や幸せ状態になったりするのか?

 あと恐慌状態や鬱状態に――あ、そういうことか。

【精神状態変更】の刻印を使ったら、精神が病んでしまうように見えてしまって……。


 いや、これ『闇魔法』じゃなくて『病み魔法』じゃねーか!

 こりゃ使いづらいわ、軍が宰相府に押し付けたのも無理は無い。


 なんか少し力が抜けたよ。

 レバ刺食べよう――このねっとり感、いいなぁ。


 勇者たちとキノコドワーフが、戦闘を始めた。

 赤の勇者の斬撃が飛び、キノコドワーフが避けながら風上に回ろうとしている展開である。


「オラオラオラァ! 死ねやキノコ!」

「キノ、キノ、キノ、そんな速度では当たらないキノ」

「気を付けろ! 奴は風上に回ろうとしているぞ!」

「……ブツブツ………………ブツブツ…………」


 灰の勇者――灰田は、何を言っているのかは聞き取れないが、相変わらずブツブツと独り言を言っている。

 あぁ、こいつ自分の刻印の【精神状態変更】に対する耐性を持っていなかったな。

 自分の刻印の能力に、やられてしまっているのか――また難儀な……。


 後方にいた灰田が歩き始め、突然戦いのど真ん中に立った。

「邪魔だ! どきやがれ根暗野郎!」

「下がれ! 危ないぞ!」

「キノ?」

 一瞬、戦いが停まる。


「いやだあぁぁ! もういやだあぁぁぁ!」

 突然叫びだす灰の勇者――灰田。

 そして……。


「……【精神状態変更】」

 灰田の呟くような一言で発動された【魂の刻印】が、その場を混乱の渦に叩き込むことになる。


「ははははは! あはははは!」

 急に大声で笑い始める灰の勇者――灰田。


「ひいっ! やめてキノ! こわいキノ!」

 頭を抱えてうずくまるキノコドワーフ。


「…………」

 呆然と立ち尽くす茶の勇者――野呂田。


「うあぁぁ! 死ね! 死ね! 死ねえぇ!」

 血走った眼付きで口角から泡を飛ばしながら、斬撃を放ち始める赤の勇者――辺雅(べが)


 赤の勇者の斬撃が、完全に無防備なキノコドワーフと灰の勇者を切り刻む。

「あはははは!」

「やめてキノー!」

 笑いながら、恐怖しながら、2人はバラバラに切り刻まれた死体となった。

 魂は回収しておこう。


 呆然としながらも、自らの刻印【自動回避】の能力で斬撃を躱し続けていた野呂田が、我に返って目の前の状況をとめるべく赤の勇者――辺雅へと向かった。

「よせ! 止めろ辺雅!」

「うおぁ! 死ねや!」

 敵味方関係なく斬撃を飛ばし続ける辺雅――これは狂化(バーサーク)状態というやつだろうか?


 飛んでくる斬撃を避けながら辺雅の元へ駆け寄った野呂田が左拳で腹に一撃を加えると、辺雅は気を失いその体が崩れ落ちた。

 うおっ! 当て身とか初めて見た!――てか、当て身って本当にできるんだ。

 映画とかマンガの世界のものだとばっかし思ってたよ……。


 * * * 敵勇者の数:残り9人 * * *


 …………


 戦闘は終わった。

 赤の勇者――辺雅の気を失わせた茶の勇者――野呂田は、またしばらく呆然としたり辺りを見回したり考え込んだりした後、辺雅の体を担ぎ上げて帰って行った。


 野呂田のやつは普通に見える、たぶん当たり引いたな。

【精神状態変更】の効果はランダムだから、きっと平常とか真剣とか、変更されても影響の少ないのに変えられたんだろう。


「さて、終わったみたいだし、猪しゃぶの続きを楽しむか」

 さっきから無言で様子を見ていたタッキに声をかけた。

「お肉、もう無いコンよ」

 何!? いつの間に!


「お前残ってた肉、全部食ったのか?」

「よそ見ばっかりしてた首領が悪いコン」

 げふう、とげっぷをしながら腹をポンポンと叩いてやがる。

 俺はまだ食べたりないのに……。

 呼び鈴で店員のおねーさんを呼んで、肉を追加注文しよう。


「赤いのはどうなるコンか?」

「そうだな――危ないから監禁でもされるんじゃないか? その後、使われるとしても捨て駒だな」

「捨て駒コン?」

「あぁ、宰相府に所属しているから前線に送られることは無いだろう。そこらの盗賊団の巣とか、俺たちの基地にでも放り込むくらいしか、使い道は無いんじゃないか?」

 俺ならそうする。


「なるほどコン」

「当分の間は無いだろうけど――宰相府にはもう茶の勇者しか残って無いし、こちらの基地の場所が判ったとしても落とす戦力は無いしな」

「当分出てこないコン?」


「出てこないな。お前の(にー)の敵討ちは、当分お預けだ」

「むぅ……」

 タッキが考え込んでいるところに、肉が来た。

 ようやく猪しゃぶの続きが楽しめる。


 肉をしゃぶしゃぶして――って、おい、何故お前までしゃぶしゃぶしているのだ、タッキよ。

「お前まだ食べるのかよ!」

「育ち盛りだコンよー」

「横にか?」

 実際タッキは、最近ふっくらとしてきている。


「むうー……だコン」

 しゃぶしゃぶした後、ぴっ! と俺の方へ、肉に残った湯の雫を飛ばしやがった。

「熱いじゃねーか!」

「ふん! だコン」


 ――――


 わざわざ【魂の刻印】を確認した意味は無くなったが、新たに召喚された勇者が1人消えた。

 赤の勇者も狂乱(バーサーク)状態では、行動が制限されるだろう。

 宰相府所属の勇者は、無力化したようなものだ。

 今回の作戦は、期待以上の戦果と言ってもいいだろう。


 猪しゃぶを食べ終わり、俺は戦果にも食事にも満足した。


 だが、気になることが1つだけある。


 そう……。


 猪汁頼んだはずなのに、まだ出てこねーぞ。

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