復活! キノコドワーフ
「カメレオンドワーフよ、良くぞ生きて戻った! しかも【勇者召喚】の情報まで持ちかえるとは、あっぱれである!」
存在すら忘れていたくせに良く言うよ、茶番じゃないか――と、言われそうだがそこはそれ、一応俺にも組織の長としての立場と言うものがある。
茶番というものは、案外組織にとっては大事なものだつたりするのだ。
「このカメレオンドワーフ、ようやく組織の役に立てましたオン……」
その姿はやせ細り、気力を失った安堵の表情は、今までいかに緊張状態を強いられていたのかを物語っているようであった。
「まずはゆっくりと休め、聞きたいことができたらその時には呼ぶ。カメレオンドワーフよ……よくやった」
「そのお言葉……ありがたくオン……うぅ……ぐすっ……」
えぇー! 泣くの!……あぁ、そうか。こいつ、相当ストレス溜まってたんだな。
そうだ! 話し相手でも作ってやろう! こいつも愚痴りたいだろうし……そうだな、一緒に大聖堂に潜入したキノコドワーフでも復活させてやろう! 魂は拾って保管してあるしな!
あと酒も用意してやろう、ストレス解消には酒飲んで愚痴るに限る。
――――
― 次の日 ―
向こうからキノコドワーフが歩いてくる。
改人の形体だと毒胞子が危険なので、秘密基地内ではドワーフ形体だ。
「カメレオンドワーフは、どんな感じだ?」
様子を聞いてみると……。
「それが……放っておいてくれと言って、布団被って寝てます」
「食事はちゃんと食べている様子だったか?」
「食べてすぐ寝てしまいました。とにかく何にも気を遣わずに、ゆっくり寝たいと言って」
「ふむ……そうか」
気持ちは分らんでもない、ここはゆっくりさせてやろう。
「おかげで暇なのですが、何か仕事はありませんか?」
「じゃあとりあえず、タッキが畑の管理してるからそっちでも手伝っていてくれ」
「承知いたしました」
キノコドワーフは、畑へ向かって行った。
特に見送るつもりも無いので、俺は本来の目的地――道具博士の研究室へと向かう。
あの爺いは、こっちから出向かないと研究室に籠って出てこないのだ。
一応部下なんだから、報告に来いよな~。
…………
扉を開けて研究室へ入ると、道具博士はカメレオンドワーフの撮ってきた写真とにらめっこをしていた。
「で、何か分かったのか?」
「はぁ、まぁ……」
「何だ珍しく歯切れが悪いな、いつもなら何か1つ解明するたびに大騒ぎしてるのに」
「そうでしたかな……」
返事をしつつも相変わらず腕組みをして、写真とにらめっこをしている道具博士。
「とにかく、何でもいいから何が分かったのか教えてくれ」
そう質問すると、しばらくの沈黙の後でようやく道具博士が重い口を開いた。
「実はですな……」
「ふむ、実は?」
勿体つけるなよ。
「この『イザミア』という女、わしの知ってる人物じゃったらしい」
はい? なんですと?
「知り合いだったのか?」
「いえ、良く知っている――という訳ではありませんのじゃが……この娘はたぶん、わしの兄弟子の孫娘ですじゃ」
…………
聞くとこの『イザミア』という名の魔人の女奴隷の父は道具博士と師を同じくする兄弟子で、『ゴンバルオ』という名の魔法陣研究では『天才』と呼ばれるほどの人物だったらしい。
それほどの人物ではあったが、今から15年ほど前に違法な実験をした罪で死罪になった。
道具博士が聞いた話では、何やら人命を犠牲にして大出力を得られる魔法陣を開発しようとしたのだとか。
「『イザミア』とは幼いころに1度会ったきりじゃが、胸元に描かれた魔法陣には見覚えがある――魔力の循環を効率化し、魔力を高めるための魔法陣じゃ。この魔法陣が『イザミア』に刻まれていたのをわしは見たことがあるし、この魔法陣自体一般には知られておらん。この娘が『イザミア』で間違いないじゃろう」
なるほど、だがそうなると……。
「人命を犠牲にする魔法陣というのは、たぶん【勇者召喚】にも使われている魂をエネルギー変換する魔法陣と同じと考えるのが妥当なんだろうな――ということは【勇者召喚】の外法を創り出したのは『ゴンバルオ』……」
「おそらく違いますじゃ」
「おいおい――『ゴンバルオ』じゃなかったら誰が……って、まさか!?」
「【勇者召喚】の外法を創り出したのは『イザミア』じゃと思う。わしが当時イザミアの胸元の魔法陣を見た時に『こんな幼子に魔法陣を刻むとは』と、ゴンバルオを非難した」
「ほう」
案外良識があるのね――道具博士のことを、勝手にマッドな人だと思い込んでいた自分が恥ずかしい。
「だがゴンバルオは『私ではない、あれはあの子が自分で考えて自分で刻んだのだ。どうだ、天才だろう』とぬかしおったのだ――わしは自らの所業を誤魔化すための下手な嘘だと思い信じておらなんだが、それが真実だったとしたら……」
「イザミアはゴンバルオをも上回る、天才ということになる」
「それだけでは無いですじゃ――ゴンバルオはその時こうも言っておったのですじゃ『今はイザミア主導で共同研究をしており、生命を使って膨大な魔力を引き出す魔法陣が完成間近だ』……と」
「それが【勇者召喚】にも使われている、魂をエネルギー変換する魔法陣……」
「度の過ぎた爺バカの戯言と思うておりましたのじゃが……」
爺バカの戯言どころか、イザミアは真実天才だったということか。
「なるほどな……そして成長したイザミアは研究を続け、【勇者召喚】の外法が完成したところで人間国に捕まってしまい、人間国に奴隷として利用されることになった……ということか」
まったく、はた迷惑な研究をしてくれたもんだよ――この天才さんは。
「さて、それはどうじゃろう?」
「いや、そういうことなんじゃないの?」
それ以外に何があると?
「【勇者召喚】には、1000人もの赤子の魂が必要となります――実験しようにもそんな外道な所業が許されるはずがありませんじゃ。それにそもそも1000人もの赤子など、実験の為に集められる訳がありませぬ――もしどんな手を使ってでも実験する方法が無いかと、イザミアが本気で考えたのじゃとしたら……」
そうか、もしどんな手を使ってでもと考えたとしたら。
「侵略の思惑を持った人間国に【勇者召喚】の情報を流して、その上で自分を捕まえさせた……」
自分で言っといて何だが、まじかよ……。
「それならば人間国の力で赤子1000人を集め、実験することが可能ですじゃ」
「しかし、さすがにそこまでやるかね? 危険過ぎないか?」
「天才の考える計画じゃからな、危険など無くなるように綿密に計算して情報を流したのじゃろう」
「確証はあるのか?」
説得力はそれなりにあるけど、できれば根拠となりそうな話が聞きたい。
「人間国の魔法陣に関する知識では気づかないでしょうが、イザミアの首に刻んである魔法陣、これはわしとゴンバルオが昔に共同研究していた物の、おそらく改良版――精神支配を阻害する魔法陣ですじゃ。奴隷の首輪の効果は半減していると考えても良いはず――こんな魔法陣を予め自分の身体に刻んでおるのじゃ、計画的と考えるのも不自然ではないじゃろう?」
この道具博士の言葉によって、組織の計画は一部変更となった。
魔人の女奴隷――イザミアは今まで誘拐の対象であったが、今この時より暗殺目標に変更されたのである。
つーか諸悪の根源て、イザミアだよね。
――――
秘密基地の通路をウロウロ……ウロウロ。
考え事は、歩きながらするに限る。
勇者の抹殺にイザミアの暗殺、念のため大聖堂の破壊もしておきたい。
勇者を倒すには【魂の刻印】の確認が必須だが、3人も増えてしまったし……。
早めに確認せねばならんけど、まずは情報収集から。
諜報員には頑張ってもらわないとならんな。
「こちらでしたか! 首領」
後ろから地割れ店長がやってきた。
「ん? 何かあったか?」
「勇者の動向が一部明らかになりました。国都には現在、5人の勇者がいるようです」
「5人も?」
多くね?
「うち2名が軍の司令部――これは軍派閥所属の勇者ですな。あと3名は例の――宰相府の所属となった勇者となります」
「あぁ、軍から宰相府に所属先が変更になったんだったか? 【勇者召喚】の事後承諾の取引材料で」
「はい、その3名の内訳ですが――赤と茶の勇者の他に、新たに召喚された勇者が1名の計3名となります」
「なに? 新たに召喚された勇者だと?」
「使え無さそうな勇者3名が宰相府の所属となったとのことなので、闇魔法の【魂の刻印】を持っているとの噂もありますが、こちらは戦力的には大したことは無いかと思われます」
ん? 闇魔法の【魂の刻印】?
確かにこっちの世界の闇魔法はUVカットとかに使うようなショボい魔法だけど、さすがに【魂の刻印】でそれは無いだろう――いや、あるかな?
使えないのもけっこうあるし。
「で、もう1人は?」
「はい、軍の司令部に配置されたのが、白い勇者と――こちらも新たに召喚された勇者が1名の計2名。こちらのほうは、おそらく手強いかと」
「ふむ……」
先にどちらを確認しようかと考えれば弱い方――宰相府所属の勇者だろう。
強い方は、できればじっくりと攻略したい。
「まずは、宰相府の新たな勇者を確認しよう」
宰相府と軍は仲が悪いようなので、互いに勇者が援軍に来るということは無い。
だから片方のみのことを考えるだけで構わないはずだ。
「ならば民間人か貴族へ危害を加えれば良いのでは? 軍は軍関係以外への襲撃には無関心ですからな」
ふむ、確かに――と考えているところへ、この作戦への志願者がやってきた。
「その作戦、この私にお命じ下さい!」
復活したのはいいが暇を持て余していた、キノコドワーフであった。
あぁ、そういえばこいつ復活したはいいが、暇してたんだったか。
「いいだろう。追って指示を出す、それまで待機していろ」
「ありがとうございます! このキノコドワーフ、必ずや指令を果たして御覧に入れます!」
「うむ、任せるぞ」
「ははっ!」
キノコドワーフが去ると、地割れ店長が話しかけてきた。
「よろしいので?」
「何がだ?」
「キノコドワーフはデンジャー時代の――言わば旧式の改人。勇者相手には正直、役に立つとは……」
言いたいことは分らんでも無いが、相手はさほど強くも無いし大丈夫だろう。
つーか『旧式の改人』という言い回しをするということは、こいつデンジャー時代の人員を下に見ているのではなかろうな。
「キノコドワーフの能力なら、何も問題は無いぞ。それにデンジャーの頃の改人たちも勇者を3人倒している。要はやり方次第だ」
「この私とて、機会さえあれば勇者など!」
地割れ店長は対勇者で結果を出したいのかな?――火事校長と雷船長はグラビン砦の戦いで、勇者を倒している。きっと、自分だけ乗り遅れた気がしているのだろう。
「焦らずとも、すぐに機会は来よう。もう少し辛抱してくれ」
「いえ、辛抱などとは……」
「お前は今の段階でも、諜報員の長として十分な働きをしている。立派なものだ。
「ですが、私がその諜報活動でヘマをしたせいで、勇者が3人も召喚されてしまいました! この失態は勇者を倒さねば償えません! どうか私に勇者抹殺の機会を!」
そっちだったか。
ヘマをしたのは地割れ店長ではなく、俺なんだがな……。
「ならばいたずらに機会を求めるのではなく、確実に勇者を葬れる策を考えよ。その策ができたならばすぐに知らせよ、嫌だと言ってもお前を出撃させてやる」
「はっ! 必ずや勇者を倒す、必殺の策を考え出してみせまする!」
うむ、任せたから頑張れ。
お前が必殺の策を考えてくれるなら、俺が楽できる。
任せたのは楽したいわけじゃないからね! 部下の気持ちに応えただけだからね!
楽した分、趣味に走れるとか考えて無いんだからね!




