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異世界で★悪の秘密結社★を作ってみた  作者: 五十路
シン・デンジャーの章
36/68

潜伏! カメレオンドワーフ

 話は若干さかのぼる……。


 ― 国都・大聖堂内部 ―


「ほら急げ! 奥から順に並べていくんだ!」

「馬鹿者! 魔法陣の円からはみ出させるんじゃない!」

 最奥の部屋――魔法陣に埋め尽くされた部屋の、床に描かれた巨大な複合魔法陣の上に、兵士たちによって獣人の赤ん坊が次々と敷き詰められていく。


 間違いない、やはりここが【勇者召喚】を行う部屋だ。

 今すぐ妨害をしたいところだが、部屋の中には4人の勇者が警備として配置されている。

 ここで暴れ回ったとしても、間違いなく犬死にだろう。

 それよりも【勇者召喚】の全てを見届けて、組織に報告する方が良い。


 カメレオンドワーフは、慎重にそう判断した。


 カメレオンドワーフは生きていた――生きて潜入を続けていたのだ。

 大聖堂潜入に潜入した際にキノコドワーフの毒で倒れたのだが、死んではいなかった。

 首領の『農業用水』の能力でで溺れながらも保護色を使って姿を消し、そのまま見つからないのを良いことにずっと大聖堂内を調査していたのである。


 食料はあちこちに置いてある食料をつまみ食いして、飢えをしのいだ。

 魔法陣の記録のため、魔道カメラも置き引きして手に入れた。

 寝る時はトイレの個室で、保護色を使い警戒しながら眠った。

 最近噂になっている大聖堂七不思議のうち、カメレオンドワーフが原因のものが6つも入っているのは、バラしたいが潜伏中なので秘密だ。


 そんな苦労をしながら潜伏して情報収集をしていたのだから、ここで犬死にするわけにはいかない。

 絶対に【勇者召喚】の全てを見届けて、組織に報告するのだ。


 …………


 サヒューモ教の偉いさんと共に、軍の偉いさんと魔人の女奴隷が入ってきた。

 カメレオンドワーフは彼らの対面に位置しているので、様子が良く見える。


「準備は整ったか?」

「もちろんだとも、ボルホア将軍」

「だが良いのか? モハット宰相の許可は得られなかったのだろう?」

「ふん! そんなもの後でどうにでもなる。それより、死んだ赤子は何匹だ?」

「112匹だ、残り3039匹――赤子の扱いはもっと丁寧にしろと兵士に厳命してくれ、危なく勇者の召喚人数が減るところだったぞ」

「それは――分かった、次は厳命しておく」


 ボルホア将軍の相手は、サヒューモ教の大教皇代理だったか――大教皇本人はかなりの高齢で、この代理の男が今のサヒューモ教の実権を握っている様だ。

 そうか、軍とサヒューモ教――繋がっていたのはボルホア将軍とこの男だったか。


「では始めようか――イザミアよ、【勇者召喚】を始めなさい」

 命じられたのは奴隷の首輪を着けた、魔人の女。

 あの女の名前は『イザミア』というらしい。


 魔人の女が、何やらブツブツと喋り始めた――詠唱? 魔法の勉強をする子供が、集中しやすくする時にやるやつか?

 詠唱のようなものが終わると、魔人の女の体のあちこちが光り始めた。

 その光は全て幾何学模様をしている――魔法陣のようだ。


 しまった! 【勇者召喚】の魔法陣はこの部屋だけではなかったか!

 きっとあの体の魔法陣も【勇者召喚】の魔法陣の一部だ!

 口内に隠してある魔道カメラを取り出して撮影したいところだが、今出しては間違いなくバレる。


 様子を窺っているうちに、床の魔法陣が輝き始める。

 そして壁、それから天井の魔法陣も……。

 最後に赤子たちが輝き始め、輝きは小さな光の粒子となって1つの塊になっていく。


 今のうちだ、これだけ光に溢れていればカメラを出しても気付かれる可能性は低い――カメレオンドワーフは口内から魔道カメラを取り出し、夢中になってシャッターを切り始めた。


 シャッターを切っていると、奴隷の女――イザミアの表情が目に入った。

 それはあり得ない笑顔――奴隷の首輪を着けている者は、感情が無いはずなのに……。


 美しい顔の薄い唇は確かな笑みを浮かべていた、その笑顔はまさに天使の笑顔と言うべき美しく神々しい笑みではあったが……カメレオンドワーフには何かがその笑みから、ぬるりと這い出て来るようなおぞましさを感じていた。


 光る粒子の輝きはやがて部屋を埋め尽くし、目を閉じていても光しか感じられないほどになる。

 しばらくして光が収まった時、魔法陣の中心には3人の人間――新たに召喚された3人の勇者が立っていた。


 勇者は召喚された。


 * * * 敵勇者の数:残り10人 * * *


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


 ― 宰相執務室 ―


「ボルホアめが、増長しおって! こちらの許可も得ずに【勇者召喚】だと! ふざけるな!」

「国王陛下はボルホア将軍に甘いですからね――それにしても、こんなに簡単に事後承諾されるとは……」

「陛下も陛下だ! ボルホアにあのような好き勝手を許しては、国家としての秩序が保てんではないか!」

「モハット様、それ以上は不敬罪になりかねません……。


 宰相モハットは【勇者召喚】を事後承諾で行ったボルホア将軍に激怒していた。

 その怒りは、事後承諾を簡単に許した国王にまで及ぶほどに。


「ですが、ボルホア将軍が召喚した数と同じ3名の勇者を宰相府へ譲るなどと言い出すとは、意外でしたね」

「ふん! そんなもの事後承諾を得やすくするためのエサにすぎん! それにやつらはどうせ、役に立たん連中を押し付けてやろうと考えているに決まっておる!……ええい! 考えれば考えるほど、はらわたが煮えくり返るわ!」


「ですが、受け取るんですよね? 勇者」

「当り前だ! 陛下のご命令を断れるか! 本当なら叩き返してやりたいところだが、仕方あるまい」

「勇者の配属はどこに……」

「お前の直属にでもしておけ!」


 宰相府は、しばらく荒れそうである。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


 ― 軍司令部 ―


「上手く行きましたね、将軍」

「当然だコルビスよ、モハットごときを黙らせるなど造作も無いわ」

 ボルホア将軍は上機嫌であった。

【勇者召喚】によって使える手駒が手に入ったのと、モハット宰相を出し抜いて煮え湯を飲ませたことが気分を高揚させている要因だ。


「ですが、勇者を3人も譲ったのは勿体なかったのでは?」

「構わん、どうせ扱いづらい役立たずな連中だ。くれてやったところで、こちらに損は無い」

「では勇者も譲った事ですし、国都の防衛は宰相府に任せて、我々は侵攻作戦に専念ですか?」

「馬鹿を言うな、どうせあいつらはこの軍司令部を守る気は無い。ユーマと……そうだな、新たに召喚したテッペーも司令部に詰めさせておけ」


「テッペーもですか?」

「あぁ、少々考えがあるのでな」


 軍司令部は、何かを企むようである。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


 ― 秘密基地・畑 ―


「よし、今度こそ思い通りのスイカになった……はず!」

 俺は組織の畑で、スイカの品種改良をしていた。

 前回はいびつで小さくて中身が白くて甘くないスイカだったのを、ようやく丸くて大きくて中身が白くて甘くないスイカにまで改良したのだ。

 今度こそ中身を赤く、そして甘く!


「首領ってば、現実逃避してるコンねー」

「うるさいなー……俺にだってプライベートくらいあるんだから、ほっとけよ」

「スイカ育てても、勇者の数は減らないコンよ」

「知ってるよ! でもさ、せっかく減らした勇者がまた増えたんだぞ? 落ち込んでの現実逃避くらいさせてくれよ……」

 あー、なんか考えちゃったらまた気分が落ち込んできた――畑の土に『の』の字書いちゃおう……。


「じゃあさっさとスイカ切って中身確認するコンよー」

「ちょっと待て、勝手に進めるな」

「問答無用コン!」

「話せばわかる!」


 あっ! くそっ! 割りやがった!

 そして割れたスイカの断面はというと……。


「なんか赤黒いな……」

「すんごいタネが多いコンね」

 マジで種の数が半端ない。

 赤い果肉の間にびっしりと種が詰まっている――割合的には某有名サッカーチームのユニフォームと同じくらいの赤黒である。


 一口食べてみた。

 甘い果汁が口いっぱいに……は広がらんな。

 やっぱ甘みが全然足りない。


「はむ……味は変わってないコンね」

 ぺっぺっぺっ!

「むう……とりあえず今回は果肉が赤くなったということで、良しとしよう」

 ぺっぺっぺっ!

 さすがに種が多すぎて、食べるのに邪魔くさいな。


 そんなことをやっていると、地割れ店長がドタドタと畑にやって来た。

「やはりこちらにおいででしたか首領! カメレオンドワーフが……カメレオンドワーフが【勇者召喚】の情報を持って、帰ってきましたぞ!」


「何だって! カメレオンドワーフが!」


 カメレオンドワーフだと……。


 ……。


 誰だっけ……?

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