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異世界で★悪の秘密結社★を作ってみた  作者: 五十路
シン・デンジャーの章
30/68

翔べ! バッタ男

 バッタ男 vs 蜂ゴブリン×10


 字面だけ見ると、バッタ男が勝てそうな気がしないでも無い。

 だが蜂ゴブリンは『ゴブリン×スズメバチ』という、けっこう危険な戦闘員である。


 ベースは人間 vs ゴブリンなので、間違いなくバッタ男の方が強い。

 だが問題は、バッタ vs スズメバチの図式の方である。

 どう考えてもスズメバチの勝ちだとしか思えないのだ。


「バッタパーンチ!」

 ブーン……。

 バッタ男が手近な蜂ゴブリンに殴り掛かるが、飛ばれてしまって当たらない。

 逆に別な蜂ゴブリンに、空中から襲い掛かられる。

 間一髪のところで、慌てて飛びのくバッタ男。


「危なかった……地上対空中じゃ分が悪いな――試してみるか」

 バッタ男は呟いた。


「やっぱ跳ねるだけのバツタと飛べるスズメバチじゃ、バッタのが分が悪いよなー」

 なんとなく結果が予想できたので、俺は眺めるのを止めて特選ロースカツ重の続きを楽しむことにする。

「そうだコンねー。バッタとスズメバチじゃ戦いにならないコンね」

 タッキの興味も食べるほうに向いたようだ。


 窓の外ではまだ戦闘の真っ最中。

 今のところ蜂ゴブリンの攻撃を、バッタ男が飛びのいて凌いでいる状況が続いていた。


「ナメるなよ、バッタにだって羽はあるんだ」

 周囲を取り囲んだ蜂ゴブリンを見回すバッタ男――そして……。


「そこだ!」

 空中高くジャンプするバッタ男、飛びながら逃げようとする蜂ゴブリン。

 バッタ男の軌道から巧みに体の位置をずらすが、バッタ男も羽を羽ばたかせて自らの軌道をずらした。

 そしてついに……。


「一匹!」

 バッタ男が最初の蜂ゴブリンを撃墜した。


 たまたま何気なく窓の外を見ていたタッキが、目を丸くして驚く。

「リョーキチさん……じゃなくてしゅりょー! バッタ男が空中戦をやってるコン!」

「は? 空中戦?」

 アホみたいにポカンと口を開けながら外を見ると、確かに飛び跳ねたバッタ男が羽ばたいていた。

 その滞空時間にはさすがに限界はあるようだが、それでも落下し始めるまでの間はけっこう自在に空中を翔んでいるように見える。


「三匹!」

 三匹目の蜂ゴブリンをキックで撃墜したバツタ男が、一旦着地してまた飛び跳ねる体制を整える。

 そしてまた空中へと()()

「四匹!」


「これは意外だったな……」

 まさかバッタ男に空中戦ができるとは思わなかった。

「バッタって飛べたんだコンね」

 まぁ厳密には飛んでいるわけでは無いけどな。


 眺めているうちに、バッタ男は次々と蜂ゴブリンを落としてゆく。

「六匹! 次、七匹め!」

 空中でキックを決めたバッタ男が、その反動を利用して次の標的へと向かう。

「七匹め!」


「ご馳走様ー、お会計お願いー」

「ちょっと待ってだコン、あと一口だコン」

「はよ食え」

 バッタ男の奮闘が続いているが、俺たちは蜂ドワーフの戦いを見に行かねばならないので、そろそろお(いとま)せねばならない。

 ま、頑張れバッタ男よ。


 会計を済ませて外へ出たら、ちょうどバッタ男が蜂ゴブリンを駆逐し終えたところであった。

 パチパチパチとまばらだが拍手が起こった。

「助かった……」

「ありがとう! バッタマン!」

「ありがとう! おじちゃん!」

 数こそ少ないが、人々が安堵や感謝を口にしている。

 ほう、なかなかのヒーローっぷりじゃないか。


 手を振り声に応えたバッタ男は、足早にその場を立ち去って行った。

 その方向は、蜂ドワーフが向かった方向である。


「あ、まさかあいつ、蜂ドワーフと戦うつもりじゃなかろうな」

「それはさすがに、無謀な調子こきだコンね」

 うむ、おれもそう思う。

 蜂ドワーフもそうだが、まだ100匹近く残っている蜂ゴブリンにも勝てるとは思えん。

 数の暴力はけっこう馬鹿にできない、攻撃を無効化できるならともかく、10匹が100匹になった波状攻撃ではバッタ男とて避けきれまい。

 それはそれとして……。


「タッキ、お前また自分が奴隷のふりしてるの忘れてるだろ」

 タッキが固まった。

「ったく、気を付けろ。何なら地面に潜っとけ」

 こくこくと頷いて、タッキがどこかへ行ってしまった。

 たぶん地面に潜りに行ったのであろう――どうせ俺に付いてきたのもカツ重目当てだったろうから、用は済んだだろうし。


 それより蜂ドワーフだの様子を見に行かないと。

 まだ見てない勇者の刻印を確認せねばならんのだ。


 バッタ男のやつ、邪魔して無いだろなー。


 ――――


 蜂ドワーフの進行方向――軍司令部の方へ行くと、バッタ男(人間体)がいた。

 さすがに参戦はしていない。

 物陰に隠れて様子を見ているつもりなんだろうけど、反対側から見ると不審者以外の何者でもないぞ。


 で、蜂ドワーフはというと……。

 青の勇者――葵と交戦中であった。

 ただ、これを交戦中と言ってもいいのかどうか――体を【鋼鉄化】した青の勇者に、蜂ゴブリンがその毒針を指してやろうと襲い掛かっているという図が続いているだけである。


 そっか、蜂ゴブリンの毒針って【鋼鉄化】した身体には通らないのか……あれけっこう硬いのに。

 ん? でもところどころ小さな凹みができてる気もしないでもないな。


 それにしてもいつまで続くんだろ、この膠着状態。

 げっぷをしたら胃からカツ重の風味が戻ってきた……お茶かコーヒーが欲しいな。

 この世界の欠点はアレだな、自販機が無いところだな……うむ。


 あ、定食屋さんの中の人が、逃げ遅れてオロオロしてる。

 何かツマミになりそうな物頼んで、お茶貰おうっと。

「こんちはー、その辺立て込んでるけど営業とかしてるー?」

「え? あ、いらっしゃい……」


 店内にお品書きが貼ってある――何かつまめるものは……と。

「お茶もらえる? あと枝豆」

「あ、あぁ……あんた逃げないのか?」

「大丈夫っしょ、怪物は勇者さんと戦うので手一杯みたいだし――見物したいからそこの窓開けていい?」


「開けても大丈夫かね?」

「大丈夫大丈夫」

 店主の返事も聞かず、勝手に窓を開けて外の様子を眺める俺。

 店主も落ち着き払った俺の様子を見て、オロオロが収まったようだ。

 俺の前にお茶が置かれた。


 にしてもこの場所、戦闘が良く見えるな。

 ナイスチョイス俺。

 相変わらず絵面の変わらない戦闘シーンだけど。


 その時だった。


「何やってるのよ猿! こんな連中相手に情けないわね!」

 颯爽と現れた緑の鎧の人物は、スラリとした長身に黒髪ロングが映える、スタイル抜群な美少女だった。

 おおっ! これは……。


「随分と大口を叩く人間が出てきたハチね。ひょっとして勇者かしらハチ?」

「だったら何よ? この化け物ロリババァ」

「ロリバ……どうやら命がいらないみたいハチね」

 蜂ドワーフに怒りの表情が浮かぶ――図星突かれたからなー。


「どうせ最初から私たちを殺すつもりのクセに、何をいまさら――まさか、ひょっとしてボケが始まる歳なの?」

「蜂ゴブリン隊! そっちはもういいハチ、あの生意気な小娘を先におやりハチ!」

 キレた蜂ドワーフの命令で、蜂ゴブリンたちが一斉に美少女勇者に襲い掛かった。


「無駄よ雑魚! 【毒の霧】!」

 緑の鎧の美少女勇者がそう叫ぶと、その可愛らしい口から緑色の霧が……。

 えぇー……美少女が口から緑の毒霧とか……無いわー。

 緑の毒霧の効果は抜群で、霧を浴びた蜂ゴブリンがボトボトと落ちていく……まるで殺虫剤だな。


 ボーっと見てる場合じゃ無かった。

 新たな勇者が出てきたんだから【魂の刻印】を確認せねば!


 ※ ※ ※ ※ ※


 緑川(みどりかわ) 小百合(さゆり)


【魂の刻印:飛行】 飛ぶことが出来る、最高速度時速165km。

【魂の刻印:毒の霧】 口から猛毒の霧を吐ける、有効距離20m。肉体が毒無効になる。

【魂の刻印:残像】 残像を残して移動できる。


 ※ ※ ※ ※ ※


 まずは【飛行】。

 飛べるのか! しかも最高時速165kmとか、結構速い。

 次は【毒の霧】か……口から吐くとかどうよ?

 しかも毒無効持ちかよ、蜂ドワーフや蜂ゴブリンには天敵みたいなもんじゃねーか!

 人選ミスったなこれ。

 あとは【残像】――これ【飛行】と組み合わせたら、攻撃当たらないんじゃないか?


 強いな、この勇者。


 接近戦は毒を無効化できないと厳しいし、離れても機動力の高さで追いつかれそうだ。

 遠距離攻撃も残像を残して飛ばれると簡単には当たらないから――ふむ、どうしようか。


 毒無効持ちの魔物で改人を作るのが良さげだけど、毒無効持ちで狩れそうな魔物って何かいたっけ?

 あー、そういや毒蛇の改人作っちゃったんだよなー、何でこのタイミングでこんな勇者が……。


 考え事をしている間にも蜂ゴブリンは次々と毒霧によって駆除され、残りは既に30匹ほどとなっていた。

 さすがに蜂ドワーフも焦りが出てきたようだ。

「くっ! 一旦上がりなさいハチ! 態勢を立て直すハチよ!」

 上空に集まった蜂ドワーフたちだが――いや、それマズいから。緑の勇者ちゃん空飛べるから。


「甘いわよボケババァ!【飛行】!」

 あっという間に蜂ドワーフたちに迫る緑の勇者――小百合ちゃん。

「貴様、飛べるハチか!」

「飛べないなんて誰が言った? 墜ちなさい!【毒の霧】!」


 緑の勇者ちゃんの毒霧ブレスが蜂ドワーフたちを覆い、戦いは終わった。

 もう戦いと言うか、スズメバチの駆除の様相を呈していたけど……。

 呆然としている蜂ドワーフの魂は回収しておく。

 なんか悪かったね、まさかこんなに相性が悪い相手だとは思わなくてさ。


「ふう……終わったよ猿。もう人間に戻っても大丈夫だよ」

「誰が猿だ! てかアタシは元から人間だっつーの!」

 地上に降りた緑の勇者の言葉に、【鋼鉄化】を解いた青の勇者がツッコミを入れている。


 うむ、やはり緑の勇者――小百合ちゃんは美少女だな。

 なんとか洗脳解いて、仲間にしたいなー。

 そうしたらタッキの代わりに、俺の秘書官的なポジションを……。


「ところで、赤いバカと茶色の役立たずはまだ寝てるの?」

「まだ入院中だよ。てかさ、赤いバカはともかく野呂田は役立たずとか言ってやるなよ。あいつだって頑張ってるんだからさ」


「あれ? ひょっとしてお猿は能無し野呂田のことが……」

「違うから! てか能無し言うな! あとアタシのことも猿って言うな!」

「じゃあ猿は止めて貧乳」

「あんたいい加減にしないと【爆裂拳】食らわすわよ」


「止めてよ。また関係無い街の人に迷惑かける気?」

「じゃあ街の外へ出な」

「嫌よ、何で猿のためにわざわざ街の外へ出なきゃなんないのよ」

 しかし、会話だけを聞いていると、小百合ちゃんの中身は美少女キャラっぽく無い気がするな。


「それにしても赤いバカって、何で死ななかったのかしらね」

「そりゃ足切られただけだしね」

「バカなんだから、死ねば良かったのに」

「あんたね……」

 これは何と言うか……。


「能無し野呂田も死ななかったし」

「だから……」

「引退させてヒモにでもしてやれば? どうせこれからも役に立つとは思えないし」

「だからそんなんじゃ無いってーの!」

 うむ、これは仲間にするのは止めておいたほうが良さそうだ。


 この娘はアレだ……。


【毒の霧】の刻印とか無くても、普通に口から毒吐いちゃうタイプの人だ。

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