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異世界で★悪の秘密結社★を作ってみた  作者: 五十路
シン・デンジャーの章
28/68

シン・デンジャー

悪の組織が復活するのは、お約束ですよね。

 人間国の平和は、つかの間であった。


 …………


「いや~、こんなあっさり()られると判っていたら、自分の身体を再改良しとくんだったなー」

 俺は今、新たに作った秘密基地で、取り置きしておいたカブトムシ男の肉体で復活している。


「そんなにあっさり()られたコンか?」

 すぐ横にいるのは、新たな秘密基地で引っ越しの荷ほどきをしていたタッキだ。

 タッキも相変わらず、蟻キツネ獣人のままである。


「いや、ホントあっさり殺られちまったわ。どうすりゃ倒せるかな、あの化け物勇者」

 なんとか策を考えないといかんのだろうが、今のとこ何も思い浮かばん。

「それよりまだ荷ほどきが終わってないから手伝って欲しいだコン。あと畑の手入れもしゅりょーじゃないと駄目な作業もあるし、幹部の人たちも指示待ちみたいだコンよー。たくさん人が増えたけど、まだしゅりょーの仕事はたくさんあるんだコンから、さっさと働けだコン」


「死に戻ったばかりの疲れ切った首領さんに対して、その扱いは酷くありませんかね――タッキさん?」

「子供に引っ越しを全部押し付けた児童虐待な人に、酷いとか言われても説得力が無いコンよ」

 ぐぬぬ――言い返せん……。


「疲れてるんだよ、頼むから少し休ませて」

「おニューの身体なんだから、疲れてるはず無いコンよ」

 まぁ確かにそうなんだけどさ。

「そこはほら、精神的な疲れとかがあるんだよ」

「書類のお片付けが先だコン」

 そう言うと、俺の手元にドサリと書類の山が……。


「何この量?」

「人がたくさん増えたから、書類も増えたんだコンよ。それにしゅりょーは、こっちにあんまし顔を出してなかったからコンね。書類も溜まってたんだコンね」

「休みてー」

「働けだコン」

「鬼め」

「狐だコン」


 大量に増えた人員には、もちろん理由がある。

 裏でいろいろと画策していた結果だ。

 何をやっていたかというと――お察しの方もおられるかもしれないが、詐欺である。


 畑で獲れる仕入れ値がタダ同然の食料等を使った屋台のおかげで、組織の資金面はそこそこ潤った。

 俺の魂の刻印【農神】の力でその資金を大量に畑で育て増やし、その資金であるものを大量に購入したのである。

 購入したものは奴隷。

 人間国各地の奴隷商から、金に糸目をつけず根こそぎ奴隷を買いまくったのである。


 目的は大きく3つ。

 買いまくった『エルフ』『ドワーフ』『獣人』『魔人』たち奴隷を勧誘し、組織の人員を増やすこと。

 奴隷の在庫を減らすことによって奴隷の不足を誘発し、人間にとって奴隷が簡単には殺しにくい存在にすること。

 そして10日ほどで土になってしまう畑で増やした金、その金で奴隷を買うという詐欺行為により、奴隷商の資金面を破綻させて奴隷の流通そのものを阻害すること。


 この3つの目的は達成され、人間国の奴隷市場は大混乱となった。

 奴隷を確保したい人間国は、これから周辺国家に対して大規模な軍事作戦と奴隷狩りを行うだろう。

 だがそう簡単にはやらせない。

 我が組織が邪魔をするからだ。


 そう――新たな人員を加え、大規模化かつ強力化した新たな組織。

 壊滅した『デンジャー』に代わる新たな秘密結社。


 秘密結社『シン・デンジャー』が、人間国の奴隷政策の前に立ちはだかるのだ!


 ネーミングセンスに関しては気にするでない。

 別に新たな組織にする必要とか無かったんじゃね? という無粋なツッコミもいらん。

 なんかいつの間にか目的が悪の組織っぽく無くなってるのでは? という問いに関しては、なしてこうなったんだろね? と答えを返そう。


 とにかく、秘密結社デンジャーは新たな力を得て蘇り、秘密結社シン・デンジャーとなって勇者を抹殺し人間国を衰退させるのだ!

 ……ま、まだ悪の秘密結社なんだからね! 奴隷解放が目的の正義の秘密結社じゃないんだからね!


 そんなわけで。

「しゃーない、仕事すっか」

 まず書類仕事から始めようか。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


 ― 国都・軍病院 ―


「――て報告だから、あんたたちは安心して入院してな」

「だがなぁ……」

「何よ野呂田、あんたアタシがせっかく優しい言葉を掛けてやってるのに気に入らないってーの?」

「いゃ、そこじゃなくてだなぁ……」

「じゃあどこさ?」

 野呂田の何かが納得いかない様子が、気に入らない葵。


「俺にはどうにも、あいつらが壊滅したとは信じられなくて」

「アタシら勇者に犠牲を出してまで倒したんだよ、壊滅してなくちゃ困る」

「だがあの怪物を作った技術といい、俺たちの刻印の能力を正確に把握していたことといい、単なるテロリストとは何かが……」

「ちょい待ち、刻印の能力を正確に把握してたって?」

 能力を『正確に』の部分が葵は気になった。


「化け物に、俺の【石の肉体】のことを正確に言い当てられた」

「あんたが自慢して喋ったからじゃないの?」

「それは無い。俺の能力は地味だからな、敵に能力を悟られると危険なので絶対に口にはしない」

「そういやそうだったわね」

「にも関わらず正確に言い当てられた。偶然かもしれないが、刻印の名前まで正確に」

「ふーん……あんたはどう思う? 辺雅(べが)

 少しだけ考え込んだ葵が、同室に入院していた辺雅に話を振ったのだが……。


「くかー、すぴー……」

 話の最初から寝ていた辺雅であった。

「このボケ【爆裂拳】食らわせてやろうか」

「止めてくれ、俺まで巻き込まれる」

「だいたいこの馬鹿は、せっかくアタシが見舞いに来てやったってのに……」


 ――――


 勇者たちの病室のすぐ外に、看護師がいた。

 その看護師の手には、勇者たちの会話を記したメモが握られていた。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


 ― 国都・宰相執務室 ―


「これで軍部の――ボルホア将軍の鼻息がまた荒くなるな」

「テロリストの標的となって勢力が削がれたかと思いましたが、今やテロリスト撲滅の功労者ですから」

「それもこれも勇者のおかげだがな。軍そのものは役立たずだ」

 人間国宰相モハツト・ボウムキンは、軍からの報告を苦虫を噛み殺しながら読んでいる。


「いっそ復活してくれませんかね、テロリスト」

「滅多なことを言うものでは無い。テロリストは国敵だぞ」

「はっ、失礼致しました」

 モハットは軽口を叩く腹心の事務官に、軽く注意をする。

 テロリストは国の敵、宰相の立場としては認めるわけにはいかない。

 だがしかし……。


 モハットは熱心にメモを取っている新人の事務員に目を向け、事務官に目配せする。

「ライゾくん、呼ぶまで外にいてくれたまえ」

「はっ」

 ライゾと呼ばれた新人の事務員は、きびきびとした足取りで執務室から出て行った。

 それをしっかりと確認し、モハットが口を開く。


「もしかしたら残党がいるかもしれん、調査はしておけ――軍部には気取られるな」

「はい、至急調査させます」

「自由になる資金も少し欲しいな」

「少しならプールしておいたものが、まだございます。物資はどういたしますか?」

「物資は止めておけ、足がつかんとも限らん」

「分かりました」

「軍の連中も馬鹿ではないからな、足を引っ張るなら慎重にせねば」

 宰相モハットと事務官が、顔を見合わせてニヤリと悪い笑顔を作った。


 ――――


 扉に耳を当てているのは、先ほど執務室から出て行った新人の事務員ライゾ。

 その手はせわしなくメモを取っていた。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


 ― 国都・軍司令部 ―


「モハットの阿呆めが、話にならん」

「やはりモハット宰相からは、良い返事はありませんでしたか」

「テロリストどもの起こした混乱が収まるまで、検討すらできんとぬかしおった」

 人間国将軍ボルホア・キルバニアは新たな勇者の召喚を却下され、苛立っていた。


「混乱を収めるためにも勇者が必要だというのに、分かっておりませんね」

「我々軍が勇者を独占しているのが気に入らんのだろうよ、宰相の地位にあるというのに小さい男だ」

「まったくです」

 軍の裏資金源である奴隷商からは、新たな軍旅を起こして奴隷を確保することを急かされている。

 だが新たな勇者が召喚できないとなれば、手持ちの駒でなんとかするしかない。

 ボルホア将軍の頭は、手持ちの駒で攻略できそうな目標を模索し始めた。


「グラビン砦が一番手っ取り早いか……」

「はい――失礼ながら閣下がそう仰せになると思いまして、資料は用意させてあります」

 そう言いながら、腹心の部下――コルビスが脇に控えていた若い軍官兵から資料を受け取り、ボルホアへと渡した。

 パラパラと資料に目を通すボルホア将軍。


「その兵は見ない顔だが、新人か?」

 資料から目を放さずに質問を飛ばすボルホア。

「はい、最近の新人にしてはまともでしたので、取り置いておきました」

「モハットがまともなのを兵に志願させぬよう手を回しているせいで、最近は食い詰め者かごろつき上がりの兵ばかりだからな――くそいまいましい」

 ボルホアが資料に目を通し終わった。


「よし、目標はグラビン砦、その前にジャラクに陽動を掛ける。詳細な作戦案を立案せよ」

「はっ!」

 腹心の部下コルビンと新人の軍官兵が出て行った後、ボルホアは再び資料を開いた。


 ――――


 コルビンが気付くと、新人の軍官兵が小窓から外を眺めていた。

「何をしている、行くぞ」

「はっ、すいません……ここからの眺めが思いのほか良かったので、つい」

 普段の実直過ぎる態度とのギャップに、なんとなく顔が綻ぶ――確かに平民が3階建ての建物に入ることなど、普段はあり得ないだろう。


 だがコルビンは、窓から外を眺めていた新人の軍官兵が、小さく折りたたんだ紙を窓の下へと落としていたのに気付いてはいない。

 その小さな紙を、地中から緑色の手が素早く掴み去ったことも……。



 人間国の人材不足は、諜報員の潜入を容易くしていた。


 秘密結社シン・デンジャーは、その諜報活動を確実に強化していたのである。

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