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潜入! 大聖堂

 ― 国都・大聖堂 ―


「突入開始しました。外壁の破壊はダメですな、戦槌(ウォーハンマー)がまるで通用しません」

「内部から破壊できればいいんだが――やっぱり中に描かれているという魔法陣の効果かな?」

 肉壁団長からの報告に、俺は思索を巡らせる。


「恐らくはそうかと。内部の魔法陣をなんとかできれば良いのですが……」

「それはたぶん難しいんだっけ? あの爺さんによると」

 あの爺さんというのは最近組織に加入した、自称発明家の爺さんの事だ。

 陸亀エルフの貴族襲撃の際に解放できた奴隷の中にいたのだが、今はしっかり組織の一員である

 まぁ解放と言っても奴隷の首輪を外す方法が無いので、一度死んで貰ったけど。


 この世界の魔具というのは、魔法陣による魔力の制御によって成り立っている。

 複雑な魔法陣を組み合わせる事によって様々な効果を及ぼすことができるらしいが、これほどまでに壁を強化できる魔法陣なんかあり得るのか?

 俺の知ってる知識では魔法陣の効果なんて便利機能はともかく、強化とか威力とかの点では微々たる効果しか無かったはずなのだ。


「この大聖堂に使っている魔法陣の知識が欲しいな」

「抜かりはございません。魔法陣の知識を持った者を最優先対象として、誘拐の対象としてございます」

「ほう、さすがだな」

「お褒めいただき光栄です」

 俺と肉壁団長はお互いの顔を見合わせてニヤリと笑みを浮かべ、大聖堂内へと入って行った。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


 ― 秘密基地内 ―


「どうしたの、わたくしはここクロよ?」

 声のした方向に【焼き払う炎】を灯り代わりに範囲を小さくして放っている桜子だが、先ほどから全く猫エルフの姿を確認できていない。

 焦りは徐々に強くなってきていた。


「まいったわね……」

 地の利が猫エルフにあるとはいえ、ここまで翻弄されるとは思っていなかった桜子は『チッ』と小さく舌打ちをする。

 最初は罠を警戒していたのだがその気配は全く無く、暗く入り組んだ通路が続くだけ。

 しかしながらその暗く入り組んだだけの通路に、ここまでは苦労させられている。


「辺雅のやつが怪我さえしてなければ、こんな暗闇なんて簡単に攻略できるのに……」

【暗視】の刻印を持った仲間が、こんな時に怪我しているのは痛い。

「まったく、迂闊なんだから」

 その言葉は油断で怪我をした仲間へ向けられたものか、それとも相手の挑発に乗って敵地に乗り込んでしまった自分に向けられたものか……。


 小さな炎が一瞬動く影を作った。

 ジャッ!

 慌てて避ける桜子だが、左の肩が鋭い爪に抉られる。

「そこか!」

 傷を負わせた相手の足元に炎を発現させるが、少しコゲた臭いを残して逃げられる。


「危ない危ないクロ、自慢の毛並みが少しコゲてしまいましたクロよ」

「今度は黒コゲにしてあげるわ。最初から黒いから、あんまり代わり映えしないかもしれないけどね」

 本当はもっと広範囲の炎を使いたいのだが、あまり近いと自分まで炎に焼かれてしまう。


 入り組んだ場所での戦闘にこの刻印は向かないなと考えつつ、毛とはいえ相手の一部を燃やしたという結果に、桜子は少し落ち着きを取り戻した。


 落ち着く、という効果は非常時にはとても有効である。

 暗闇からの奇襲を防ぐにはこまめに通路を炎で塞げば良い、と桜子はようやく気が付いたのだった。


 ――――


 ― 基地入口前 ―


「くっ! 放せ!」

 イノゴブリン2匹に両腕を掴まれて動けなくなった茶の勇者――野呂田が必死に腕を振りほどこうとするが、ガッチリと掴まれた腕は固定されたままであった。


「さて、的当てといくラス!」

 空を飛びながら、カラスエルフが棘のついた丸い物体を投げる。

 動けない野呂田に命中すると、それは『ガギン!』という音を放ち野呂田の左太腿を削った。


「どうだラス、さすがに相手が鉄の塊だとお前の【石の肉体】でも防ぎきれまいラス」

 野呂田の魂の刻印【石の肉体】は肉体を石のように硬くする能力である、故にもちろん石より硬い物には硬度で劣る。

 剣や槍などは多少の傷程度で防げるが、戦槌(ウォーハンマー)などの鉄の塊をぶつけられると結構なダメージを負う。

 もちろん今投げつけられている鉄球でも同様だ。


 野呂田はダメージを負ったことよりも、自分の魂の刻印の能力を敵が正確に知っていることに動揺する。

【石の肉体】の能力は肉体を石のように硬化させるもので、肉体そのものを石にするわけでは無い。

見た目だけでは能力の判別がつかないし、自分で口に出した覚えも無い。


(こいつらは俺たちの魂の刻印の能力を正確に知っている……だとすると基地に誘い込まれた桜子が……!)

 そこまで思案した時に、戦槌(ウォーハンマー)を持ったイノゴブリンが、野呂田に襲い掛かった。


「ごふっ!」

 さすがに鉄の塊で殴られダメージを負う。

 殴られ続け、かなりのダメージを負ったところにカラスエルフが上空から近づく。


 イノゴブリンたちが野呂田の両腕を放し、代わりにカラスエルフの両足がその腕をガッシリと掴む。

 カラスエルフの足は、鳥のように物を掴むことができるのだ。


 バサッ バサッ


 カラスエルフが羽ばたくと、かなり重いはずの野呂田もろとも簡単に空へと舞い上がった。

「何を……するつもりだ……」

 ダメージにより半ば抵抗する気力も失われた野呂田が、相手の意図を知ろうと口を開いた。

「なに、単純なことラス。下を見てみるラスよ」

「下だと?」


 見てみると、もうかなりの高度まで飛んでいるのが分かる。

 下にあるのは荒れた大地と畑? 真下には大きな岩があり……大きな岩?

「まさか!?」

「気付いたラスか? あの岩に貴様を落とすんだラス。あの岩と貴様、どちらの岩が固いか試してみようということラスよ」

 カッカッカと笑うカラスエルフ。


 あれだけの質量の岩に叩きつけられたら、たとえ同じ硬さだとしても岩の肉体程度では無事に済まないのは確実だ。

 回避はできない、抜け出すこともできない――ならばと野呂田は覚悟を決めた。


 腕を掴んでいるカラスエルフの足、その足首を逆に掴む。

 そのまま腹筋を使い下半身を持ち上げて、野呂田は両足でカラスエルフの下半身に絡みついた。

「ええいラス! この死にぞこないが、放せラス!」

「放さん! どうせ落ちるなら、お前も道連れだ!」


 カラスエルフが野呂田の腕から足を放し、ガシガシと蹴りつけながら絡みついた足を引き離そうとするが、野呂田はなんとか凌いで密着を続ける。

 カラスエルフは腕を使ってそれを振りほどけない、腕は空を飛ぶための羽ばたきに使っているためだ。


 やがて密着の体勢を整えた野呂田が、左足を使って羽ばたきの邪魔を始める。

「やめろラス! これではお前も落ちるラスよ!」

「言っただろう! 落ちるならお前も道連れだと!」

 野呂田は覚悟は揺るがない。


 「道連れになどなると思ったら大間違いだラス、落ちる体制は羽のあるオレにしか制御できないラス。貴様はこのままオレの下に捕まった体勢のまま落ちるのだラス!」

 野呂田をしがみ付かせたまま落下するカラスエルフ。

 このままでは体勢が下の野呂田が岩とカラスエルフに挟まれるように激突する。

 そう、このままでは……。


『空中で(たい)を入れ替える方法』

 そんなものいつ使うんだよと思いながら、格闘技をやっていた友人に酒の席で教えられた技。

 どこでどうなったらそんなシチュエーションになるんだよ、とあまり真面目に聞いてなかった技。

 まさか使う時が来るとは思っていなかった。


 落下は続く。

 岩はもうすぐ下だ。


 使うのは捻りと遠心力。

 上半身と下半身を逆向きに捻り、その際にタイミング良く足なり腕なりを横向きに出して遠心力を生み出す。そうすると自身に回転する力が掛かり、相手もろとも回転して……。


 ドグシャッ!


 鈍い音がして、2人の身体は岩の上に落ちた。

 暫くしてようやく1人が体を起こす。


 野呂田であった。


 体を起こしたはいいが、思うように動けず岩からドサリと落ちる。

 ダメージより動けなくなった野呂田には、もう味方の救援を待つ以外の選択肢は残っていなかった。


 ――――


 ドオオォォン!


 轟音と共に先ほど埋めたばかりの土が吹き飛び、舞い上がった。

 土埃が収まると、そこには大穴と1人の人間の女。


「まったくもう、全然救出されないから自力で出ちまったわよ。何が必ず助けるだ、あのノロ介め」


 病気女将の策略で落とし穴に埋められた青の勇者――葵が、自分を埋めていた土を【爆裂拳】で吹き飛ばし、悠然と戦線に復帰をした。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


 ― 国都・大聖堂 ―


「こっちの写真は取り終わったのか?」

「はい、カメラは既に回収して持ち出させました」

「じゃあ、あと写真は奥の魔法陣で埋め尽くされた部屋だけだな」

 サヒューモ教の大聖堂襲撃は順調だった。

 警備の衛士なんぞ我々の敵では無く、今は傍若無人に他人様の建物を物色中である。


「上層部の人間及び研究者、それと例の魔人の女奴隷を捕らえましたオン」

 カメレオンドワーフが、数人の人間と魔人の女を連れてきた。

 とりあえず教会の人間は置いておくとして――ふむ、これが魔人の女奴隷か……。

 確かにゾクリとするような妖しさを持った美人だ。


 魔人特有の青い肌に尖った耳、目は鳳眼で背中まである真っ直ぐな黒髪、鼻梁はスッと通り薄い唇は紫色をしている。

 確かに美人だが、それよりも――こちらを見ている目が気になる。

 奴隷の首輪は自我を奪い命令通りの行動しかできなくなるはずの物であるのだが――この魔人の女奴隷は、奴隷の首輪を着けているにも関わらずこちらを見ている。


 普通は命令するまで、何かに目を向けるなどあり得ないはずだ。

 それにこの目には、僅かだが意思を感じる気がする……まさか完全には自我を奪われていないとか?

 まさか、考えすぎだよな……。


 バリバリ!

 クギャ!


 イノゴブリンの一匹が、黒コゲになって吹き飛ばされてきた。

 飛んできた方を見ると人影が2人。


「ほらな白場(はくば)、やっぱ国都に戻っておいて良かったろー?」

「おい紫堂(しどう)、それじゃあ俺が国都に戻ることに反対してたみたいじゃないか」

 黒目黒髪、見た目日本人の人間二人――こいつらまさか……。


「待たせちゃったかな? おいらたち勇者が来たからには、これ以上好きにはさせないからねー」


 どうやら国都にいた勇者は、4人だけでは無かったようだ。

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