表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/68

デンジャー史上最大の作戦

「じゃあこれ、勇者だった黄村道元って人の魂ね」

「確かにお預かりしました」


 俺は今、秘密基地にたまたま天使さんがうろついていたので、お話をしていたところだ。

 ちなみに天使さんは小柄で金髪碧眼のおねーさん。

 そしてたった今、俺は死んだ勇者の魂を天使のおねーさんに引き渡したところである。


「でさ、ついでに神様にお願いを伝えてもらえるかな?」

「構いませんが、どのような?」

「この勇者の魂も含めて死んだ勇者の魂は全て元の世界に戻してもらえないか、神様に頼んでもらいたいんだ。もちろん俺が回収できずに、天使さんたちが回収する勇者の魂も全部」

「分かりました、神様にお伝えしておきます。他には何かございますか?」

「うんにゃ、後は特に無いです。それじゃ、神様によろしくー」

「では、失礼します」

 そう言い残して、天使さんは天に昇って行った。


「あぁ……美人のおねーさんが去ってしまった……」

 そんな独り言を呟くと。

「しゅりょーの欲求不満が、ついに幻覚を見せてしまったコンか……」

 それを聞いていたタッキのやつが、失礼なことを言い出しやがった。


「いや、幻覚じゃ無いから。お前には見えなかっただけで、ちゃんと天使さんがここにいたから」

 俺に天使さんが見えるのは魂の刻印【魂の管理】のおかげらしいので、タッキには見えないようだ。

「はいはい、だコン」

「信じてねーな……」


「そうだコン。こないだ若くて可愛い人間の女の子の死体を拾ったコンけど、畑に埋めるコン?」

「埋めてどうしろと?」

「しゅりょーの欲求不満のかいしょーに、使わないんだコン?」

「使わねーよ!」

 まったくこのアホ狐めが。


「交尾に夢を持ちすぎなんだコンよ、これだからどーてーは……だコン」

「う、うるせーよ! てか童貞じゃねーし!」

「はいはい、そうだコンねー。あ、ちなみに拾った女の子の死体は、処女だったコンよ?」

「だ、だから何だよ!」

「前言撤回して、埋めるコン?」

「埋めねーし、てかこの話題はもうお終いな」


「つまらんやつだコン」

「誰がつまらんやつだ――あ、そうだ、今のうちに引っ越しの準備しとけ」

「引っ越しだコン?」

「あぁ、この秘密基地は戦場になるからな」


 …………


 陸亀エルフの軍の兵糧庫襲撃によって、軍関係を襲撃すれば勇者が出てくるのが分かった。

 だが国都周辺の軍の施設は、全て国都内にある。

 勇者をおびき出し、その間にサヒューモ教の本部大聖堂を襲撃するという戦略目的には、国都内ではあまりに近すぎるのだ。


 なので俺は一計を案じた。

 この秘密基地を囮にして、勇者をこちらにおびき出そうというものだ。

 そしてその隙に勇者召喚を行っているサヒューモ教の本部大聖堂の内部の情報収集や、要人や唯一の奴隷の魔人の女の誘拐を行うのだ。

 できれば破壊工作までやってしまって、今後の勇者召喚の可能性を封じてしまいたい。


 そしてこの秘密基地には罠を張って、おびき出した勇者を1人でも多く葬り去る予定だ。

 これが今回の作戦の概要である。


 悪の秘密結社デンジャーが活動を始めて、もう3ヵ月(1クール)になる。

 なので時期的にそろそろ、大規模作戦とかやっちゃうべきであろう。

 今回の作戦は、スペシャル特番なのだ!


 ――――


「武器庫への破壊工作及び、伝令兵への襲撃は成功致しました」

「他地域からの兵糧の補給も、半分は灰にしましたわ」

 肉壁団長と病気女将から、作戦の進捗状況が報告されてた。


「よし、予定通りだな。勇者の動きは?」

「常に臨戦態勢で待機しているようですよ。何せ、何時何処が襲撃されるか判りませんからな」

 肉壁団長がニヤリと笑みを浮かべながら報告をしてきた。

「最近では補給物資を、勇者が護衛することも少なくありませんわ」

 病気女将が期待に満ちた目をして報告をしてくる。


 様々な襲撃を繰り返し、ついに機は熟した。

 秘密結社デンジャーは人間国軍にとって、間違いなく敵だと認識されているはずだ。

 今なら間違いなく勇者どもは食いついてくる。


「ならば始めるとするか――病気女将よ」

「はっ!」

「カラスエルフとシジミエルフを率い、この基地で勇者を迎え撃て」

「勇者どもに目にものを見せてやりますわ」


「目的は時間稼ぎだということを忘れるな。十分に時間を稼いだら逃げても構わん」

「策はございます、お気遣いは無用ですわ」

 迎撃の方法は病気女将に任せてあるが、恐らく命を懸けるつもりなのだろう。

 付き合ってみて分かったのだが、エルフというのは自己犠牲を美学とするような傾向が見られる。俺としてはもう少し"いのちだいじに"な行動をしてほしいのだが……。


「肉壁団長は俺と共にサヒューモ教の本部大聖堂に潜入だ」

「ははっ!」

「他にカメレオンドワーフとキノコドワーフを同行させる。イノゴブリンたちには破壊工作用の戦槌(ウォーハンマー)と魔道カメラを持たせるのを忘れるな」

「既にそのように準備は整えております」


「今更指示は不要か、さすがだな」

「作戦の全ては、事前に教えて頂いておりましたゆえ」

 事前準備に抜かりなしといったところか。

 職人気質というのはドワーフの為にあるような言葉であろう、特に『良い仕事は良い準備から』という言葉はドワーフの生き方そのものに根付いているようにも思える。

 ただ融通の利かないところがあり、臨機応変な対応が苦手なのが欠点か……。


「よし、ならば予定通り諜報員たちに、この基地の噂話を撒かせろ。勇者が国都を出たら、すぐに作戦開始だ!」


 ――――


 軍に動きがあったとの報告があり、俺たち潜入組は一旦国都近くの地下隠れ家へと前進しておく。

 出てきたのは勇者では無く偵察の兵士だったようなので、とりあえず隠れ家で待機。

 ちなみにカメレオンドワーフは保護色を使って密かに周囲の警戒をしており、キノコドワーフは本来の姿だと毒の胞子をまき散らすので本来の姿では無くドワーフ形体での待機だ。

 ちなみに俺は、既にカブトムシ男の姿である。


 カメレオンドワーフの保護色は究極の光学迷彩と言っても過言ではないほどであり、俺の目程度では消えたら全く存在が分らないほどだ。

 万が一潜入に困難が生じた場合は、こいつの出番となる。


 キノコドワーフの毒は即死するほどでは無いものの、体内に入ればけっこうなダメージと筋肉を硬直化させる効果がある。

 今のところ毒耐性のある勇者が見当たらないので、こいつは勇者が全員秘密基地へと誘導されなかった時の為の要員として連れて来ている。


 やがて偵察の兵士が国都へと戻って行ったとの知らせが来た。

 あとは勇者の出番を待つのみ。

 イノシシジャーキーでも食いながら、じっくり待つとしよう。


 これけっこう美味いんだよなー。


 ビールが欲しいな……。


 ――――


『勇者出撃す』

 ついにその報告が入った。

 出撃した勇者は3名、青・茶・ピンクだ。


 赤は左膝から下を陸亀エルフに切り飛ばされたせいで、現在療養中らしい。

 まぁ出てきたところで、あいつ1人ならなんとかなるだろう。


 出撃した勇者たちは兵士も2000ほど率いているらしいが、秘密基地には改人以外に300ほどのイノゴブリンやモグゴブリンも待ち構えているので問題はあるまい。

 時間稼ぎは頼むぞ、病気女将よ。


 今は深夜。

 国都から秘密基地までは、普通の人間の速度なら5~6時間かかる。

 秘密基地への勇者の攻撃は明け方というところか。


 ならばこちらは未明に大聖堂を襲撃するとしよう。


 秘密結社デンジャー史上、最大の作戦の開始だ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ