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神様

 白い(もや)の掛かった空間。

 これはたぶん天国もしくはそれに類する場所だな。

 トラックに跳ねられたんだから、普通は病院で目を覚ますはずだ。

 間違いなくここは病院ではない。


 跳ねられて路上に放置されているのでもなければ、救急車の中でもない。

 そうか、死んじゃったかー。

 これから冬休みのはずが、永遠のお休みになってしまったか。


「やっと僕の順番が回ってきましたか! いいんですよね! あの魂を僕が受け取っても!」

 若い金髪の男――――瞳は黒くて小柄な男が、何やら興奮した様子で話している。

「解っていると思うが、別な魂を三百と交換だぞ。それと、本人の魂の同意なしには譲れんからな」

 白髪に白いひげの老人が返答をしているが……ひょっとしてその魂って、俺のことか?


「という訳なんだ、来てくれるよね! 僕の世界に!」

「その『という訳』の部分を説明してもらえれば、とりあえず考えるだけはしますが」

 さっぱり理解できてないので、お願いします。

「うん、それはそうだ。う~ん、まずどこから説明したものか……」

 若い男が悩み始めた。


 …………


 目の前の男の人は、別な世界の神様だそうだ。

 で、さっきのおじいさんがこっちの世界の神様。

 そして、どうして俺の魂を自分の世界に受け取るべく、おじいさん神様と交渉していたかというと……。


「実は最近さ、神の間で別な世界の人間を自分の世界に住まわせて、どんな風に生きるのか眺めるのが流行っているんだよ。『異世界転移』とか『異世界転生』とかって聞いたこと無い?」

 聞いたことはあるが、そんなもん実際にあるとは知らんかった。


「しかもさ、交通事故に遭った魂とかレアなんだよ! トラックに轢かれた君の魂とかもう超檄レアなんだよ! いやぁ、待った甲斐があったよ……初めての異世界の魂が超檄レアとは!」

 ほう、俺の魂は檄レアなのか。

 その割には虹色に輝いてたりはしていないな。


「という訳だから、僕の世界に来てくれるよね!」

 うーん、どうしよう。

 檄レアな俺としては、コレクターとしての気持ちは解らないでも無いが……。


「ところでそちらの世界って、どんな感じの世界なんです?」

 そこは一応確認しておくべきだろう、定番ならファンタジー世界とかなのだが。

「君たちの世界で言う、ファンタジー世界だよ」

 ど定番ですな。

「まぁ、存在するほとんどの世界はファンタジー系の世界なんだけど。ぶっちゃけ管理が楽なんだよねー」

 ほんとにぶっちゃけたね。


「ファンタジー系ってことは、魔法とかある世界ですよね」

「そうだよ。魔法はもちろん、エルフにドワーフ、魔人に獣人、ゴブリンやドラゴン、文明レベルは中世プラス魔法文明、どうだい? 君の想像するファンタジーで合ってるかな?」

「合い過ぎて、気持ち悪いくらいですね」

 こういうのを、テンプレって言うんだっけか?


「嫌だなぁ、気持ち悪いとか言わないでよ。それより魔法とか使って見たくない? たぶん楽しいよ」

「確かに魔法は楽しそうかも……巨大な火の玉とかを、ババーン! と……」

「えーと……ごめんね。僕の世界の魔法って、そんな派手なのは無いんだよね……」

 申し訳なさそうに、神様が教えてくれた。

 えー……ド派手魔法無いのー?


「僕の世界はどちらかというと魔具文明がメインの世界だから、魔法そのものは大したこと無いんだ」

「はー、そうでしたか」

 ついついがっかり感が態度に出てしまったが、そこは仕方あるまい。

 ド派手な魔法は漢のロマンなのだ!


「いや、でも希望はあるよ! 【魂の刻印】で使えるようになるかもしれないからね!」

「【魂の刻印】……ですか?」


 聞けば【魂の刻印】というのは、神界と神界の狭間を通る時に魂に刻まれる、特殊能力なのだそうだ。

 魂によってその能力は違っていて、身体能力の向上や水中で生活できるような特殊能力、それこそド派手な魔法など一般的に三種類の【魂の刻印】が刻まれるのだそうだ。


 それってアレか? もしかしなくてもライトノベルとかで言う、チートってやつか?

 これはテンションが上がるぜ!

「是非そちらの世界にお世話になりたく存じます!」


 気が付いたら、お願いしてしまっていた。

 実は俺、チートとか大好物である。

 チートで無双とか最高じゃん! 竜とか倒しちゃう英雄とかになれちゃうのかなー。


「本当!? 来てくれるの? やったー! おじじ! 彼OKだって!」

「誰がおじじだ! まぁ本人が良いというなら連れて行っていいぞ」

 若い神様とおじいさんの神様の話は、これで済んだようだ。


「じゃあ早速、僕の世界へ行こうか!」


 こうして俺は、異世界へと旅立ったのであった。

 なんか頭がぐるぐるしている……これが神界の狭間ってやつなのか。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


「ようこそ! 僕の神界へ!」

 あ、まだ異世界じゃないんだ……。

「お邪魔しまーす」

「嫌だなぁ、もう君の神界でもあるんだから、遠慮なんかしなくていいのに」

 普通の人間が神界なんぞに来たら、遠慮すると思うのだが……。


 神界には老若男女様々な天使が働いているようで、ひっきりなしに神様に近づいて何やら話しかけている。何をしているのだろう?

「まぁ寛いでいてよ、お茶でも入れさせるから」

「なんか忙しそうだけど、俺の相手していてもいいの?」

「全然構わないよ、これでも神だからね。同時にいくつもの物事をこなすのは得意なんだ」

 ついつい気安くタメ口を使ってしまったが、神様は気にも留めていないようだ。


「さすが神様ですね」

 ということは、天使がさっきから一方的に話しかけているように見えるけど、実はちゃんと聞いていて何らかの作業を進めていたりするのだろうか?

「でしょう? それよりさ、君にどんな魂の刻印が刻まれたか確認してみないか?」

 そうだ! どんなチートが手に入ったかなー、楽しみだ!


 超絶な必殺剣を使えるチートかなー。

 それとも巨大な破壊力を秘めた最強魔法とか。

 ヒーローに変身できるチート……なんてのはさすがに無いか。

「で、どうすれば確認できるので?」

「自分の魂をのぞき込むようなイメージを持ってごらん、そうすれば見えるはずだよ」


 えーと、こんな感じかな?

 自分の魂をイメージして、それを近くで眺めるような……おっ! なんか文字が浮かんできた気がするぞ!

 なになに……。


【魂の刻印:農神】


「おぉー、農神? なんか凄そう」

 でも戦闘系じゃないな、これで無双はさすがに無理っぽい。

 神とか付いてるから、たぶん良い能力なんだろうけど。


「へぇー、農神とは! これは凄いね、農業に関してはまさに万能の魂の刻印だよ!」

「そうなんですか?」

「農作物を育てるための能力が、数多く複合されている刻印だね。もっとよく見てごらん、深く知ることが出来るはずだから」

「もっとよく見る、ですか……」

 どれどれ。


 ※ ※ ※ ※ ※


【魂の刻印:農神】


 農神能力一覧


 絶対生育:どんな作物でも絶対に生育できる。

 品種改良:品種改良が必ず成功する。

 品質向上:作物の品質を向上させる。(一等級程度)

 促成栽培:収穫までの期間を大幅に短縮する。(期間は固定)

 完全土壌:耕した農地が作物に最適な環境になる。

 収穫増加:作物の収穫量が増える。(増加量は固定)

 農業用水:農作物に最適な成分の水を無限に出せる。

 作物管理:作物に命令できる。(他者の収穫禁止や品質の微調整など)

 収穫保管:収穫物や種を完全な状態で保管できる。


 ※ ※ ※ ※ ※



「これ、作物の種さえあれば食いっぱぐれ無さそうだな……」

 生前にこの能力があったら、仕事が楽だったろうなー。

 農作物の品種改良なんて仕事をやっていたので、ついついそんなことを考えてしまう。

 いや、普通に農家のほうが絶対にいいのは理解しているんだけどね。


「この刻印があれば、間違いなく食べるのには苦労しなくて済みそうだね」

 神様もお墨付きをくれたようだ。

「だったらこっちの世界では農業一択ですね、作物育てるの好きだし」

 そうでなければあの仕事はしていないしね。


「そうなると必要なのは土地だね、僕が用意しようか?」

「いえ、遠慮しときますよ。そういうのは自分で買ったり開拓したりして手に入れたほうが、作物に愛情が持てるようになりますからね」

 たぶんそのほうが幸せを感じられる気がする。


「うん、まぁ、そうだね。でもなぁ……」

 あれ? 神様、歯切れ悪いのは何故?

「なんかまずいんですか?」

「実はその……僕の世界は今、とても治安が悪くてね」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ。人間の国が周りにある異種人の国にずっと戦争を仕掛けていてね、人心がすっかり荒んでしまった上に魔物も増えてしまって……」

「魔物ですか?」


「ずっと戦争にかまけていたからね。まぁ魔物を間引くはずの戦力を戦争に使ってしまえば、そりゃ増えるのが当たり前だよね……ほんと、いいかげんにして欲しいよ」

 神様がうんざりした様子でそう答えてくれた。


「じゃあのんびり開拓しながらスローライフというのは……」

「難しいんじゃないかな? 人間の国ならお金を出せば農地を買えると思うけど……けっこう高いよ。他の国は人間の国と戦争中だから、農地はおろか住むのも厳しいだろうね。その他の土地は魔物の縄張りになってしまっているから、かなり危険だし……あ、でも戦闘力があればなんとかなるかな?」


 なるほど、だったらまだ確認してないチートに期待かな? 戦闘に役立つチートさえあれば、魔物の縄張りに殴りこんで農地をゲットできるかも!

そうです、このお話は畑でなんやかんや育てて、なんかするお話です。


でもスローライフ系ではないのです。

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