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爆裂拳

「発動せよ! 【落とし穴】!」


 周囲を取り囲むイノゴブリンたちが襲い掛かかろうとしたが、勇者ドーゲンは即座に【落とし穴】の刻印を発動してイノゴブリンたちを穴に落とす。

 穴を飛び越え包囲網から脱したかと思えた勇者ドーゲンの行く手を、新手のイノゴブリンたちが塞ぐ。


「無駄モリ、逃げられるとは思うなモリ」

 蝙蝠エルフが、不敵な笑みを浮かべて近づく。

「ふん! 逃げられぬならば味方がくるまで粘るだけのこと! 【落とし穴】!」

 足元に落とし穴を開けられる蝙蝠エルフ――だが。


 バサッバサッ


「だから無駄モリよ。空を飛べるオレには、落とし穴など無意味モリ!」

 そう言い放ち、勇者ドーゲンの上空をぐるぐると嘲笑うかのように飛び回る蝙蝠エルフ。

 攻撃はしていない。

 飛ぶには両腕を使って羽ばたかなければならないので、武器が使いにくいからだ。


「さぁどうするモリ! これでお前に勝ち目は無いモリ!」

 空中からの挑発が夜の路地に響く。

「さて、どうかのう――時間稼ぎの方法なら、他にもあるかもしれんぞ――【暗黒世界】!」

 一瞬で周囲が暗闇に包まれる。


「この暗闇の中ならば思うように攻撃はできまい! これで味方が来るまで時を……」

 暗闇が消えた。

 路地の灯りに照らされた勇者ドーゲンの姿が見える。

 その首には後ろから突き刺さった短剣が生えていた。


「だから勝ち目は無いと言ったモリ」


 屋根の上から声が聞こえると同時に、勇者ドーゲンがドサリと路地に崩れ落ちた。


 ――――


「まぁ当然の結果だな」

「ですね」

 独り言のつもりだったのだが、屋台の諜報員が相槌を打ってくれた。


 落とし穴は空を飛べば問題無い。

 超音波で空間を認識する蝙蝠には、暗闇など意味が無い。

 勇者ドーゲンにとっては、蝙蝠エルフは天敵のような相手だったろう。


 蝙蝠エルフは見事勇者を倒した。

 おそらく組織の士気はこれで上がるはずだ。


 引き上げるはずだった蝙蝠エルフが、屋根から動こうとしない。

 どうした?


 ダダダダっと足音がして、4人の人間がやってきた。

道元(どうげん)!?」

「道元! やられちまったのかよ……」


 忘れられる訳が無い、この2人は俺の畑を全滅させた勇者。

 ピンクのローブの女がサクラコ、赤い鎧の男がベガだったな……。

 こいつらと一緒に来たということは、残りの2人も勇者だろうか?


 てか『悪の秘密結社』の戦う相手が戦隊ヒーローとか、何か違わないか?


「油断するな、道元を()れるほどの相手だぞ」

 蝙蝠エルフに鋭い視線を向け、ごく自然な動きで身構えた男。

 大柄でガッシリした体躯であり、黒い鎧の上からでも筋肉質なのが判る。

 伸びた髪を後ろに束ね、細い目にしっかりとした顎が骨太な印象を作り出していた。


 こいつも勇者なら【魂の刻印】が確認できるはず……


 ※ ※ ※ ※ ※


 野呂田(のろた) 茶乃介(ちゃのすけ)


【魂の刻印:石の肉体】 肉体を石のような硬さにできる。

【魂の刻印:自動回避】 攻撃を無意識で自動回避できる。

【魂の刻印:肉体再生】 1分でどんな肉体の損傷も再生できる。


 ※ ※ ※ ※ ※


 守りに強そうな刻印ばっかし。

 というか茶乃介か……暗くて良く判んなかったけど、ひょっとしてあの鎧って黒でなくて茶色?


「アタシに任せなさい、こないだの蜘蛛の化け物みたいに木っ端みじんにしてやるから」

 小柄でベリーショートの髪型にした、青い鎧を着た猿顔で目つきの鋭い女――なるほど、こいつが蜘蛛ドワーフをいとも簡単に倒したという勇者か。

 目つきの悪いモン〇ッチだな……。


 ※ ※ ※ ※ ※


 猿田(さるた) (あおい)


【魂の刻印:鋼鉄化】 自分の肉体を鋼鉄に変えられる。

【魂の刻印:鋼の胃袋】 どんな物を食べてもお腹を壊さない。

【魂の刻印:爆裂拳】 拳が当たった場所が爆発する。


 ※ ※ ※ ※ ※


 なるほど、これは強そうだな。

 この【爆裂拳】の威力が果たしてどの程度のものなのか、できれば知りたいものだが……。

 てか葵で青は、ちょっと苦しくないか?


「ほほうモリ……蜘蛛ドワーフを倒したのはお前モリか」

 蝙蝠エルフが何かやる気になってるけども――予定では勇者ドーゲンを倒したら撤収のはずだったろうが。

 何でやる気になっちゃってんだよ!


 ちらっと蝙蝠エルフが俺の方を見た。

 それだけなのだが、しっかりとあいつの意思が伝わってきた。

 この場で戦って、敵の勇者の能力を測ろうと言うのか……。


 いいだろうやってみろ、魂は俺が拾ってやる!


 俺が小さく頷くのと蝙蝠エルフが悠然と飛び立ったのは、ほぼ同時であった。

「飛んだぞ! 気を付けろ!」

 黒改めたぶん茶色の勇者チャノスケが、警戒を促す。

「そんなの見てれば判るっての! 辺雅(べが)! 出番だよ!」

 青いモ〇チッチ――じゃなくて青い勇者アオイが、勇者ベガに指示を飛ばす。


「俺様に命令すんじゃねーよ!」

「だったら命令される前にやりなさいよ! あんたしか飛んでる相手に攻撃できないんだからさ!」

「うるせーぞ眉無し女! 黙って見てろや――【飛斬撃】!」


 ほう――赤とピンクの掛け合いで、面白い事が判ったな。

 空中に攻撃できるのは赤い勇者だけか。

 だとするとピンクの勇者の【焼き払う炎】は地上のみ有効なのだな。

 ならば殺すための手は……。


 考えている間にも、勇者ベガの斬撃が次々と蝙蝠エルフへと飛んでいた。

 ひらりひらりと躱す蝙蝠エルフ――【飛斬撃】が飛ぶ速さは、思ったより速くは無い。

 なるほど、だから勇者ドーゲンの【暗黒世界】とセットで使っていた訳か――暗闇なら避けられんからな。


 思ったより速くは無いとはいえ、それでも斬撃は時速50~60kmは出ているだろう。

 無限に飛ばされる斬撃をよけ続けることはさすがに難しく、ついに蝙蝠エルフに斬撃が命中した。

 射程外に逃げれば、それで無効化できたものを……。


【飛斬撃】の能力調査を終えた蝙蝠エルフが、地上に降り立つ。

「なかなかやるモリな、だがこの程度ではオレを倒すことはできないモリ!」

 相手には蜘蛛ドワーフを軽々と倒した勇者がいる――文字通り命を懸けた挑発である。


「だったらアタシが相手してやるよ」

 青い鎧の勇者が蝙蝠エルフへと向かう。

「あっ、ちょっと葵! 待ちなさいよ! あんたの刻印じゃ……」


 ピンクの勇者が止める間もなく、青い勇者と蝙蝠エルフが激突する。

「貴様の能力を見せてみるモリ!」

「なら見せてやるさ【爆裂拳】!」


 勇者アオイの拳が蝙蝠エルフに触れた瞬間、轟音と光が辺りを支配した。

 100mほど離れていたはずの俺と諜報員も、屋台ごと爆風でその場に転がされてしまった。

 これが【爆裂拳】か……。


 爆風の煙が収まったその場所には、ボロボロになった青い鎧を纏った勇者アオイだけが、自らの肉体を鋼鉄の塊と化してその場に立っていた。

 もっとも俺には、傍らにうっすらと蝙蝠エルフの魂が見えているのだけど。


「もう、だから止めたのに――どうすんのよこの惨状!」

 ピンクの言うことも、もっともだ。

 辺りを見回すと【爆裂拳】の放たれた場所を中心に、周囲の建物が全半壊していたのだから。


 その声を聴いて、ようやく【鋼鉄化】を解いて動き出した青勇者が答える。

【鋼鉄化】している間は、動けないのかもしれない。

「何言ってんのさ? アンタがやれば今頃大火事だし、辺雅はトロいし、茶乃介は攻撃力無いんだから、アタシがるのが一番マシじゃんか」

「俺様はトロくねぇ!」

 星空には遠吠えが空しく響いていた。


 わらわらわら


 人がたくさんやって来た。

 国都の警ら隊の連中が今頃になって、ノコノコとやってきたのだ。

 一応、壊れた建物に埋もれた人々を救出したり、怪我人の救護はしてくれるらしい。


 俺たちのところにもやって来たが、かすり傷程度だったので救護は断った。

 屋台の保証もしてくれるらしいが、がっかりな金額でしかなかった。


 やがて勇者が立ち去ってゆく。


「勇者ありがとう!」

「勇者ばんざーい!」

 あちこちから声が響く――警ら隊の主導で。


 いつしか拍手も強制されていく。

 俺と諜報員も、当然ながら巻き込まれている。


 拍手をしながら蝙蝠エルフの魂を回収しておく。

 ついでに勇者ドーゲンの魂も。

 神様に魂を渡して元の世界に戻してもらえるよう、お願いしてやるのだ。


 拍手は続く。

 今は我慢の時だ。

 怪しまれるわけにはいかない。

 警ら隊の連中に見られているんだ。


 笑顔だぞ、笑顔。



  * * * 敵勇者の数:残り9人 * * *

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