表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/68

恐怖! 蝙蝠エルフ

 蜘蛛ドワーフの魂は回収できなかった。

 たぶんその辺の天使に回収されてしまったのだろう。

 それはそれで仕方がない。


 問題は組織の――『悪の秘密結社デンジャー』の士気が下がってしまったことだ。

 仲間の改人の死によって、組織内に動揺が広がっている。


 士気を上げねばならない。

 となると、手っ取り早い方法はひとつ。


「勇者を狙う、相手は黄色い皮鎧の勇者――ドーゲン・キムラという名の勇者だ」

 まだまだ強い勇者を倒せる戦力は無いので、お手頃に倒せる勇者を選んでみた。


 やつの持っている【魂の刻印】はこれらだ。


【魂の刻印:暗黒世界】 周囲87mを暗闇で覆う事ができる。

【魂の刻印:雌雄判別】 見ただけで性別を判別できる。

【魂の刻印:落とし穴】 周囲12mの範囲内に1立方メートル相当の落とし穴を作ることができる。上限29個。


 これらの刻印に相性の良い改人は、既に作ってある。

 というか、たまたま作ってあった。


「病気女将よ、やつを呼べ」

「我が改人ならば、既に控えておりますわ」

 病気女将が指し示したのは天井――そこには天井からぶら下がりながら跪いている改人がいた。

 器用なやつだ。


 ふふふふふ……こいつなら間違いなく、あのドーゲンとかいう勇者を倒せるはずだ。

 相性が抜群なのだから。


 改人が天井から落下してくると、そのままくるりと一回転して着地と同時に跪いた。

「話は聞いていたわね」

「はいモリ、おまかせ下さいモリ。そのドーゲン・キムラという勇者、この『蝙蝠エルフ』が仕留めてごらんに入れるモリ」


 その改人は腕の下から胴体にかけてが、大きな翼となっていた。

 赤い瞳であり、唇からは2本の牙が見えている。

 改人『蝙蝠エルフ』――エルフと蝙蝠の能力を持った改人だ。


「よかろう……蝙蝠エルフ、お前に命ずる! 必ずや勇者を仕留めてくるのだ!」

「この蝙蝠エルフ、必ずや首領のご期待に応えてみせましょうモリ!」

 力強く宣言する蝙蝠エルフ。


「その言葉違えるな! 行け蝙蝠エルフ! 見事勇者を倒して見せよ!」


「デンジャーの為に!」

「デンジャーのために!」

「デンジャーのためにモリ!」

 幹部たちと蝙蝠エルフの声が響く。


 こうして蝙蝠エルフは出撃して行った。


 つーか、蝙蝠エルフの語尾って『モリ』なんだね……。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


 ― 国都・とある通り ―


 この辺りは飲食店が多く、屋台も並んでいる。

 その屋台のひとつ――イノシシ串の屋台は『悪の秘密結社デンジャー』の諜報員が営むものであった。

 そしてその屋台には今、客が1人。


「首領が直々にお出ましになられるとは驚きました」

「首領はよせ、誰に聞かれているか分らん」

 俺は組織の諜報員の屋台へ、客としてやってきていた。

 蝙蝠エルフがドーゲンという勇者と戦う時に時間が掛かれば、他の勇者が駆け付ける可能性もあるからである。


 別に加勢をしようという訳では無い。

 蜘蛛ドワーフを倒したという勇者や、まだ見知らぬ勇者が現れた時に【魂の刻印】を確認するためだ。

【魂の刻印】の確認は俺にしかできない、だからわざわざこの屋台まで自ら出向いて来たのである。


「で、例の彼の行きつけというのは、どの店だ?」

 例の彼というのは今回のターゲツト、勇者ドーゲンのことだ。

「あちらの右側、向こう角から二件目――暗くて見辛いかもしれませんが、大きな鳥の看板がある店です」

 今は深夜に近い時間帯なので確かに見辛いが、近くの店の灯りで見えなくも無い。


「彼が店に入ってからもう良い時間が経ってますので。もうそろそろでしょう」

 勇者ドーゲンが店から出てきたところを襲う、それが今回の計画だ。


 やつはこの時間、単独行動を取る。

 夜遅くに焼いた鳥を食べながら酒を飲む、それがやつの行動パターンなのだ。

 油断している上におそらく酔っているはずなので、これで勝つ確率は上がる。


 ……なかなか出てこないなー。


「串を2本くれ」

「酒は?」

 屋台の諜報員が、ちゃんと首領ではなく客として話している。

 なかなか上手いじゃないか。


「酒はいらない、串だけでいいよ」

「あいよ、串2本だね」

 諜報員の屋台の親父が改造した魔具のコンロで、丁寧に串を焼き上げ始めた。

 焼けた肉にタレが塗られると香ばしい匂いが立ち込め、なんとも食欲をそそる。


「はい、お待ち」

 焼き上がったイノシシ串を乗せた皿が、俺の目の前に置かれた。

 一口頬張ると、炙られて適度に落ちた脂のほのかな甘み、その後で肉汁のうま味が口いっぱいに広がる。

 タレもしつこく無く、味に適度な塩気と香ばしさを加えていた。


「やっぱりこのタレは悪く無いな」

 このタレは俺が考案したものなのだが、急いで考えた割には気に入っている。

「ええ、おかげさまで売り上げも順調、そろそろちゃんとした店も借りられそうなくらいですよ」


 そんなに儲かってるのか?

 いや、確かにイノシシの肉も組織の畑産だし、酒も瓶ごと埋めたらそのまま収穫できた組織の畑産だから、仕入れは無料(タダ)みたいなもんだけど……。


 右足の裾が、つんつんと引っ張られている。

 見ると土の中から手が出ていて、俺のズボンの裾を引っ張っていた――タッキの手だ。

 串焼きを寄こせと言うのだろう、分ったから引っ張るのは止めれ。


 仕方ないので、口をつけていない串をタッキの手元に近づけてやる。

 ほれ、ここが串の持ち手だ。ちゃんと掴めよ。

「(あち!コン!)」

 だから何で持ち手の部分を触らせてるのに、肉の部分を掴むんだお前は!


 なんとかイノシシ串を渡したが……。

 なんか緊張感と雰囲気が一気に緩くなっちゃったな。

 というかこいつ、俺の逃げ道を確保するためだとか言っていたが、間違いなくイノシシ串が目当てで付いてきたんだろう。

 この食いしん坊キャラめ。


「こいつはサービスです」

 タッキとアホなやりとりをしていたら、目の前に木のコップに注がれた酒が出てきた。

 サービス? と思ったら、コップを置いた手の指が何かを指している。

 どうやら標的が店から出てきたようだ。


 ドタドタと数多くの足音が聞こえた。

「なんだお前らは! いや、覚えがあるぞ……確か畑を作っていたゴブリンの新種だ」

 そこまで耳に入れて、俺はようやく標的のほうを見る――不自然では無いはずだ。


 そこにはイノゴブリンに囲まれた男。

 見覚えのある四角い顔をした、やたらと眉の太い坊主頭のおっさんがそこにはいた。

 ようやくこの時が来たか……これから畑を焼かれた復讐をさせてもらおう。


 貴様は人間国のやつらに洗脳されてるんだろう?

 不本意な殺しをさせられているんだろう?

 感謝しろよ、今から解放してやるから――死体にしてな。


「モリ、モリ、モリ……そいつらは我が組織の戦闘員モリ」

 物陰から蝙蝠エルフが現れた。

「化け物……どこぞの国の暗殺者か?」

 勇者ドーゲンが、警戒しながら探りの問いを放つ。


「国だモリ? 我らは国ではないモリ。我らは勇者を抹殺し人間国の衰退を企む『悪の秘密結社』――その名も『デンジャー』だモリ!」

 蝙蝠エルフが高らかに正体を明かした。

 遠巻きに見ている民間人にも聞こえたはずだから、上手く行けばこれで認知されるはずだ。


「悪の秘密結社だと? 何の冗談だ?」

 というドーゲンの反応だが――まぁそうだよね。

 特に日本から召喚された勇者には、ネタにしか思えないかもしれない。

 実際ネタ要素も込みなのだが、こちらとしては本気度100%のネタである。


「冗談だと思うモリなら、お前の命で確かめてみるモリ!」

 その通りだ蝙蝠エルフよ、我らの本気度をやつらに見せてやるがよい!


 悪の秘密結社デンジャーによる、勇者狩りが始まった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ