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報告書

 ノルトロス・O・ヤッサン。


 私の名前だ。


『悪の秘密結社デンジャー』の諜報員である。


 ただの魔人だったころは、魔人国で田舎貴族などをやっていた。

 領民と一緒に人間国の侵略に対抗すべく出兵し、敗北して捕まった間抜けな貴族だった。


 魔人国は人間国に対抗できている唯一の国だ。

 身体能力ではどの種にも劣るが、魔具の開発と運用ではどの国にも追随を許してはいない。

 おかげで勇者とやらの攻撃でも、そう簡単には敗北はしないのだ。

 私は敗北して奴隷となってしまったが……。


 その後私は『悪の秘密結社デンジャー』という組織に拾われた。

 そう、まさに拾われた――死体として。


 勇者を抹殺し人間国の衰退を企むという組織の目的に、私は喜んで賛同した。

 戦闘行為は嫌いだし苦手なので、自ら組織に諜報員を志願した。

 人間魔人という改人になった私は、人間形体になれることを利用して国都で諜報活動をする予定であった。


 そう、予定であった。


 ――――


「うわあぁぁ! うあ! ああぁぁぁ!」


 私の目の前で自分の姿に驚いているこの男は、勇者だ。

 いや、勇者だった。

 組織が捕らえたこの男は、今は改人バッタ男となっていた。


 今の私の任務は、この男から情報を引き出す事である。

 この男は要人の護衛役として大聖堂内部に出入りをしていたので、勇者召喚に関する情報を持っているかもしれないのだ。


 計画としては、自分も捕まったふりをして組織から協力して脱出をする。

 協力して何かを成すことによって、私への信頼と仲間意識を植え付けるのだ。

 そして生活基盤の無いこの男に生きていく術を与えてやることで、私への依存度を高める予定である。


 更に組織に改良された改人であるという共通点で、唯一無二の仲間という認識を持たせるという計画なのだと首領に言われたのだが……。


「うわぁ! うおぉ! うえぇ!」


 さっきからずっとこの調子なのだが、これで本当に大丈夫なのか?


 ★ ★ ★ ★ ★


 ― 数日後・秘密基地の畑 ―


「よしよし、ちゃんと丸く大きく育ったな」

 最近ようやく組織作りに余裕ができたので、俺は小さくいびつで中が白くて青臭くて甘くないスイカの品種改良に取り組み始めていた。


「収穫してもよさそうコン?」

 狐獣人姿のタッキが収穫したいらしくソワソワしていた。

 きっと楽しみなのだろう、尻尾がブンブンと楽しそうに暴れている。


「いいぞー」

 と許可する前に収穫してやがるし……。

「丸くておっきいスイカだコーン♪ あ……そこの、包丁とまな板持ってきてコン」

「コン」

 近くにいた量産型タッキが、包丁とまな板を取りに走る。

 タッキのやつ、ほんとに使い方に遠慮がねーよな。


 あ、もう戻ってきたし。

 早すぎね?


「違うコン、タッキが持ってきてほしいのは包丁とまな板コン。お手紙じゃないコン。

 タツキが量産型にお説教してる――ん? お手紙?

「ちょっと待て、その()は包丁とまな板を頼んだ娘じゃないわ。国都のノルトロスに着けてある連絡用の量産型だ」


 バッタ男から勇者召喚の情報を引き出すことを命じてあるノルトロスには、連絡用の量産型タッキを数人付けてあった。

 この娘はそのうちの1人だろう。

「そうなの? じゃあこれしゅりょーにだね、はいお手紙」


 タッキから手紙を受け取る。

 ……いや、手紙というか報告書なんだが。

 なんか面白い情報でも手に入ったかな?


 ふむふむ……。


「ニヤニヤしてるコンけど、なんか面白いこと書いてるコン?」

 あれ? 俺ニヤニヤしてたのか?

「面白いと言うか、思い通りになったんでな」

「ふーんコン、何がだコン?」


「ノルトロスのやつは、予定通りバッタ男と暮らすことになったそうだ」

 まぁ改人になっちまったからな。

 人間国に改人だとバレれば、討伐されるか良くて研究材料というところだろうし。

 頼れそうな相手がいれば、頼るのが自然な流れだろう。


「男の二人暮らしコン!? お尻が危険だコン!」

「どこで覚えやがったそんなこと……」

「国都のゴミ箱に落ちてた薄い本だコン」

 この歳で腐ってしまったのか子狐め……。


「後で没収だ」

「ふふふだコン。薄い本は秘密の隠し場所にあるコン、見つけられる物なら見つけてみろコン!」

 くっ! 秘密基地内に秘密の隠し場所を作るとは!

 やるなタッキ……。


「ところで、お手紙はそれでおしまいだコン?」

「うんにゃ、続きがある。こっちも予定通りだが、屋台を手に入れたそうだ」

 国都に潜入させた諜報員たちには、屋台をやらせている。

 客からの情報収集と、組織の資金稼ぎを兼ねているのだ。


 本当は店を出したいところなのだが、いかんせん金が無い。

 金を畑で増やして資金にすれば良さそうに思えるが、収穫した金は10日で土に返るのですぐに詐欺で捕まってしまうであろう。


 詐欺行為はそのうちやる予定ではあるが、今はまだ自粛である。

 無計画に詐欺をしていると、必要な時に思いもよらぬ対策を取られる可能性があるからだ。


「屋台だコン!?」

 食いついてきたな、予想通りだけど。

「言っとくが、食べ物屋ではないからな。やるのはコーヒーの屋台だ」

 屋台の喫茶店というやつだな。


「なんだコン、それなら用はないコンな」

 そう言いながら、タッキがスイカを真っ二つに……。

「おい、さり気なくスイカ切ってんじゃねーよ」

 こいついつの間に!


「あれ? しゅりょー、中身赤くないコンよ?」

「だな……」

 相変わらず中が白い――うむ、ここは失敗したか。


「ほい、しゅりょー」

 サクサクと切り分けられたスイカが差し出される。

 シャクっと一口。


「ふむ、やっぱ甘くはないか」

 相変わらず味は青臭いスイカ水のまま。

 となると今回の成果は、形と大きさの改良のみか……。

 なかなか上手くいかんものだ。


 スイカを食べながら報告書を読んでいると、1つだけ新しくバッタ男から引き出せた情報があった。

 サヒューモ教の大聖堂内にいる魔人の女奴隷だが、ゾクリとするほどの美人なのだそうだ。

 ふ~ん……。


「タッキ、蜘蛛ドワーフを呼んできてくれ」

「お仕事だコン?」

「あぁ、ちょっと誘拐をな……」

「なるほどコン、この『ゾクリとするような美人』を誘拐するコンな?」

 いつの間にかタッキが報告書を手にしている。


「そうだ――てか、そのニヤニヤした顔は何だ?」

「なんでもないコーン。いやー、しゅりょーも男なんだコンなー」

「やかましい――てかお前絶対変な勘違いしてるだろ。言っておくが誘拐するのは『勇者召喚』の情報を引き出すためだからな」

「はいはいだコン。そういうことにしておくコン」

 こいつは~……。


「アホなこと言ってないで、いいから早く呼んでこい」

 美人目的で誘拐はさすがにやらんての――そりゃ興味はあるけどさ。

「ほいコン」

 タッキが蟻タッキに変身して、地面を掘り始めた。

 秘密基地内をショートカットする気なのだろう。


 ……ふむ、薄い本の隠し場所はたぶん土の中だな。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


「はぁ!? 蜘蛛ドワーフが()られた?」

「はい、しかもまるで子ゴブリンを相手にするように簡単に、しかも一撃との報告でございます」

 俺に報告をしてくれているのは、肉壁団長だ。

 蜘蛛ドワーフが誘拐に出かけた先で、あっさり()られたらしい。

 俺もこの報告には驚いたが、彼の表情にも困惑と驚きが見て取れる。


 しかし一撃とは――逃げる間も無かったということか。

「相手は青い鎧を着た勇者。名は解りませんが、背が低く目つきの鋭い女だそうです」

「青い鎧の勇者か……」

 刻印を確認しなくてはならないな……。

 それにしても蜘蛛ドワーフが一撃で簡単にとは――勇者の力もピンキリということか。


 これは余裕ぶっこいてスイカの品種改良どころでは無さそうだ。

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