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怪奇!蜘蛛ドワーフ

 闇に控えていたのは8つの目に4本の脚、さらに4本の腕がある異形の怪物。


 改人『蜘蛛ドワーフ』である。


 普通に壁を歩いたり糸を出したりできる人間型の改人を作る予定だったのに、手と脚が4本ずつになってしまった。

 この姿は確か、アラクネとかいうんだったか?


 壁を歩くこともできるし糸を出すこともできるのだが、糸は尻から出す。

 まぁ蜘蛛なんだからそうだよなって話なのだが、糸を口から吐いたり手首から出したりするイメージが脳内にあったので、いささか微妙な心境である。


 ちなみに毒は無い。

 その辺に毒蜘蛛がいなかったので、とりあえず見た目立派な巣を張っていた蜘蛛で間に合わせた。

 やっつけ仕事ではあるが、今の段階では十分だろう。


 さて、それでは記念すべき『悪の秘密結社デンジャー』の第1号改人に、初めての指令を出すとしようか。

 なるべく声に威厳が出るように、ちょっと低めの声にしようっと。


「蜘蛛ドワーフよ、指令を与える」

 うん、ボイスチェンジャーが欲しいな。

「クモ!」

 あれ? 今こいつ『クモ』って言ったか?

 気のせいかな? まぁいい、指令を続けよう……。


「サヒューモ教の本部大聖堂へと潜入し、勇者召喚に関係しそうな情報を持ち帰れ。加えて教団の幹部を1人で構わん、情報を引き出すために拉致してくるのだ」

「訳も無き事でございますクモ。この蜘蛛ドワーフめに、お任せくださいだクモ」

 やっぱりクモって言ってるよねこれ……。

 語尾にクモって何? てか、こいつそもそもドワーフじゃん! 蜘蛛と交配する前は普通に話してたじゃん! 意味わかんねー。


「その、聞いて良いか? 以前は語尾にクモなどつけていなかったと思うのだが……」

 あまりにも気になってしまったので、ここは本人に聞いてみることにしよう。

「お気になりますクモか? 実は改人になってからなのですクモが、このほうが話しやすくなってしまいましたクモ。理由は解りませんクモが、お気に障るのクモなら止めるように致しますクモ」


 気にはなるけど、別に止める理由も無いよな。

 あれ? でも俺カブトムシ男だけど、語尾にカブトとか付けたいとは思わんぞ?

 なぜだろう? 謎だ……。


 考えるのが無駄な気がするから、とりあえずこのままでいいか。

「いや、そのままで構わぬ」

「首領のご温情に感謝いたしますクモ」


「よし、それでは行け! 蜘蛛ドワーフよ! 我がデンジャーのために!」

「デンジャーの為に!」

「デンジャーのために!」

「デンジャーのためにクモ!」

 幹部たちと蜘蛛ドワーフの声が後に続く。


 こうしてデンジャー作戦第1号は発動したのであった。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆


 ― 人間国・国都ユヒポニア ―


 サヒューモ教の本部大聖堂前、その物陰の地面にポコッと穴が開いた。

「しゅりょー、ここがちょうど良さそうだコン」

「(アホ! 声が大きいぞタッキ。こそこそ覗くんだから小声で話せ)」

「(なんでこそこそなんだコン? 堂々と見ればいいコン)」

 そういうわけにはいかんのだってば。


「(見られたくねーんだよ。もし見られて俺が悪の秘密結社の関係者だって疑われたら、国都に出入りしにくくなるだろーが。そしたらいろいろと都合が悪いんだよ)」

「(都合が悪いコン?)」

「(そうだよ、買い物とかできなくなっちまうんだぞ。お前だって嫌だろう? ガボハチの屋台のカラメル焼きが食べられなくなるんだぞ)」

「(カラメル焼きが! それは困るコン、しゅりょーも静かにするコン!)」

「(いや、だからそれは俺がさっきから……)」

「(しっ! 蜘蛛ドワーフが来たコン!)」

 くそっ! なんで俺がタッキに注意されにゃならんのだ……納得いかねー!


 タッキに言い返すのは控えて、サヒューモ教の本部大聖堂の方を見る。

 なぜなら俺はおっさん……大人なのだ。

 大聖堂横の暗闇に蜘蛛ドワーフが潜んでいるらしいが、俺にはさっぱり見えん。

 仕方ないので、夜目の効く狐獣人であるタッキに実況してもらおう。


「(で、今どうなってる?)」

「(壁をよじ登ってるところだコン)」

 この世界のセキュリティーは、高い場所ほど甘い。

 無論ザルというわけにはいかないが、地上からの侵入に比べればかなり楽なはずである。


「(上に着いたコン、たぶん(はい)れるとこを探してるコン)」

「(もたつきそうか?)」

「(わかんないコン……あ、中に入ったコン)」

 見えなくなったかー。

 いや、元から俺には見えなかったんだけどさ。


 さて、なんでわざわざ首領たる俺が、こそこそと現場まで出向いているのかというと……。

 見てみたかったからだ。

 だって初めての改人のお仕事だよ! やっぱここは見守りたいじゃん!

 大丈夫かなぁ……ちゃんとできるかなぁ……。


 …………


「(出てこないコン)」

「(それだけ上手く潜入したってことだろ、心配するな)」

「(いちばん心配してるのは、しゅりょーだコン)」

「(なんか言ったか?)」

「(別にーだコン)」

「(言ったよな)」

「(あっ! なんか騒がしいコン)」

 ほんとか? 話をごまかすために適当なこと言ってるんじゃないだろうな?


 見ると確かに大聖堂から人が出てきている。

 おっ! 蜘蛛ドワーフに付けていたイノゴブリン(戦闘員)たちも、どこからか集まってきたぞ。

 大聖堂から出てきた人を取り囲……まないの?

 逃げちゃったし。


 あ、中からもう2人出てきた。

 イノゴブリンたちが囲んでいる、なるほどこっちが本命か。


 ――――――――


「ゴブ!」「ゴブ!」「ゴブ!」「ゴブ!」

「なんだこいつらは!」

「ウェルモ様、ここは衛士たちを待ってから突破しましょう!」

 なるほど、こっちの派手な白い法衣を着たやつは、教会の偉いさんか。

 こっちのモブ顔の若い奴は、護衛というとこか。


「クモ、クモ、クモ。もう逃げられないクモ」

 蜘蛛ドワーフが聖堂から出てきた。

 なるほど、こいつを捕らえるつもりだったんだな。

 うん、初めてのお仕事は順調そうだ。


「逃がすな! そいつは殺しても構わん! ウェルモ様を守れ!」

 蜘蛛ドワーフの後ろから武装した6人がやってきた、たぶん衛士とかいう連中だろう。

「邪魔クモ、ザコは大人しく死体になるクモ」

 振り向きもせずに、後ろの衛士たちに糸を吹き付ける。

 糸が出てきたのは、もちろん尻だ。


 動けなくなった衛士たちを、イノゴブリンたちがザクザク殺している。

「何なんだ! お前たちはいったい何なんだ!」

 護衛にウェルモと呼ばれた偉いさんは、パニックに陥っているみたいだ。

 俺たちが何なのかだって? ふっふっふっ……いいだろう教えてやれ、蜘蛛ドワーフよ。


「お前たちに教えてやる気はないクモ」

 いや、ちょっと待って蜘蛛ドワーフさん。

 そこは教えてあげません?『我らは勇者を抹殺し人間国の衰退を企む悪の秘密結社、デンジャーだ』とかドヤ顔して宣言する場面じゃありませんか?


 ……よし、お前帰ったらミーティングな。


「ええい! 早くこいつらをなんとかしろ! 貴様も勇者だろう!」

「いや、しかし!」

 へ? このモブ顔くん、勇者なの?

 だとしたら【魂の刻印】があるはず……。


 ※ ※ ※ ※ ※


 本号(ほんごう) 隼太(しゅんた)


【魂の刻印:身代わり】 視界に入る相手のダメージを肩代わりできる。

【魂の刻印:支配無効】 あらゆる支配が無効。

【魂の刻印:燃えろ魂】 魂を燃やして能力を大幅に上昇させる。使用すると魂は消滅する。


 ※ ※ ※ ※ ※


 あ、本当にこいつ勇者だったか。

 それにしてもこの【魂の刻印】のラインナップは微妙だな。


【身代わり】は確かに要人警護には向いてる。

【支配無効】を持っているなら、人間国に支配されてはいないのか。でも警護の仕事をしていると……。

 いきなり異世界に連れてこられて勇者とか言われて、舞い上がっちまったか?

 それとも生活のために人間国の腐った部分に目を瞑ってやがるのか……どっちにしても顔と同じで、モブだな。モブ勇者だ。


 あとは【燃えろ魂】ね、持っていてもたぶん無駄刻印だな。

 というか使ったら魂が消滅するとか、こんな刻印使えねーっての。

 でも他人事なんで、ちょっと使ったとこ見てみたいけど。


 となると、これは戦闘用の刻印を使えない勇者の実力を測るには、最適の人材というわけだ。

 さて、モブ勇者の実力はいかに!


「さて、お前は一緒に来てもらうクモ」

 蜘蛛ドワーフが尻から糸を出して、ウェルモとかいう偉いさんをグルグル巻きにしていく。

「や、やめんか! おい勇者! なんとかしろ!」

「うおぉぉ! 止めろおぉぉ!」

 モブ勇者が蜘蛛ドワーフに向かって行くが、あっさりと弾き飛ばされた。

 なんか普通に弱いね、戦闘系の刻印が使えない勇者って。


「無駄クモ。お前程度では、相手にならんクモ」

 その時、グルグル巻きにされていたウェルモが走り出し、イノゴブリンの包囲網の突破を図った。

「うあぁ! どけえぇい!」

 何やってんだよ蜘蛛ドワーフ! ちゃんと足までグルグル巻きにしとけよ!


 危ない!

 ウェルモがイノゴブリンを躱そうとして逆に短剣に向かってしまい、その体に短剣が刺さる。

 しまった! せっかくの情報源が……。

 まぁ、死体と魂を回収して畑で収穫してから尋問すればいいか。


「ええいくそ! さっきから勇者のクセに何をやっている!」

 あれ? 生きてる?

 というかモブ勇者くんのほうが、地面に倒れたっきり動かなくなってるし。

 あぁそうか【身代わり】の刻印を使ったんだな。


 モブ勇者くんは死んだ。

 確認しなくても判る、魂が体から抜けてしまっているのが見えるのだ。

 なので間違いはあるまい。

 あんな奴の身代わりになんか、なる必要など無かったものを……。


「ええい役立たずめ! だから残念勇者の護衛など、私は嫌だったのだ!」

 ほら、お前のことを残念勇者とか言っちゃうような奴なんだぞ?

 浮かばれないよなー。


 まぁ確かに残念勇者ではあるが。


「お前はそろそろ黙れクモ」

 蜘蛛ドワーフは更にウェルモをグルグル巻きにして、全身を覆う。

 空気穴はちゃんと開けとけよ。

 途中で死んで魂落としたりしたら、後で探すの大変なんだからな。


 こうして偉いさんを1人確保して、今回の作戦は終わった。

 内部情報がどれだけ確保できたのが分からないけども、結果は上々と言えるだろう。

 勇者も1人倒せたし。


 全員が引き揚げて、そこには残念勇者の死体と魂だけが残った。

 あいつボーっとしてるけど、自分が死んだって判ってるのかな?


 なんか可愛そうだから、魂くらいは回収しといてあげよう。



 * * * 敵勇者の数:残り10人 * * *

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